『作物にとって雨とは何か』

私の良く行く市立の図書館で、本を借りたり返したりするカウンターのすぐ近くに特別の書棚があり新しく入った本が並べられているんですが、その隣に特集コーナーが設けられています。月替わりでテーマを決め、そのテーマに関連する本を本のジャンルにかかわらず何冊か集めて展示するというもので、テーマとしては「太陽」だとか「暦」だとか「江戸時代の生活」だとか、さまざまです。

で、先月のテーマが「雨」だったようで、関連する本が並んでいました。「雨」というテーマですから雨はどうやってできるのかという気象学の本とか、雨をテーマにした詩やエッセイの本が多かったのですが、一冊だけ変わった本を見つけました。
 『作物にとって雨とは何か-「濡れ」の生態学』という本です。要するに雨が降って農作物が濡れることによって何が起きるのか、という話がいろいろ書いてあります。

農学の本ですから、こんなコーナーで見つけない限り自分から農学関係の書棚に行くことはまずないな、と思いながら借りて読みました。

この本はまず雨についてまとめています。大気中にある水蒸気は年に40回回転し(1年間に降る雨の量は大気中にある水の40倍ということ)、地球上に降る雨量は平均して1年に1,000mm、すなわち1mで、日本は比較的雨が多くて平均して1年に2m、これも土地により倍とか半分になるので結局1mから4mくらいの雨や雪が降るということです(この本は昭和62年=1987年に出版されたものですが、今もあまり変わらないと思います)。

次に日本では1mm以上雨の降る日が、これも地方によって違いますが、だいたい年に100日くらい、0.5㎜以上となるとだいたい年に150日位になるので、要するに2日ないし3日に一度は雨(や雪)が降るんだということです。

植物の生育に水分は不可欠なのは分かっているのですが、多くの研究は根から吸収する土の中の水分に注目しているので、このような葉に降る雨、葉が雨にぬれることに関する研究は(少なくともこの当時は)少ないようです。

で、雨に濡れると何が起きるか。まず花の中の栄養分が雨にしみだして流れてしまう。1ヘクタールの畑で作物が1年に10~20トン収穫できるけれど、それに対して雨によって葉から流れ出して地面に落ちる栄養分は1年に1トン位だ、ということです。また葉にはいろんな細菌がついていて、雨に濡れるとそれが1,000倍に増え、乾くとまた1/1,000に減るなど、非常にダイナミックな話です。

さらに雨に濡れるということを、葉が雨に濡れるけれど地面はそのままの場合、葉は濡れないで地面だけ濡れる場合(降った雨が流れてきて地面が濡れる場合)、水浸しになって地面も作物も水の中に入ってしまう場合(水没してしまうくらいの大雨、洪水)などについて、作物(植物)がどう変化するか調べています。

根の所の土地に水分があることは植物にとって大事なことですが、その水分が多過ぎると酸素不足になって根が効率的な有酸素呼吸ができず、非効率な無酸素呼吸をするために根に蓄えた養分の炭水化物やたんぱく質を大量に消費してしまうとか、しばらく雨に濡れたあと雨が止むと、葉の表面を保護していたものが雨で流されてしまって葉の表面から急激に水分がなくなってしまうけれど、根の方が酸素不足で土の中から水分を吸収して葉まで押し上げるエネルギーが不足すると水分が足りなくなって葉がしおれてしまい、ひどい場合には枯れてしまう(長雨のあと、水はたっぷりあるのに葉が枯れる)など、植物のダイナミックな姿が書かれています。

研究書ですから様々に条件を変えて実験し、根・茎・葉の重量を計り、乾燥させた重量を計って栄養分が増えたか減ったか、水分でどこの重さがどれだけ水増しされているか等調べています。多分今ではもっと精緻な研究がいろいろなされているんでしょうが、むしろ原始的な研究な分、素人にはわかりやすく面白いです。作物と雨に関する全体像を見せてくれ、動物と比べてどちらかと言うと静的なイメージのある植物の生態が、実は非常にダイナミックなものなんだと教えてもらいました。

大分古い本ですが、今でも新本で手に入るようです。興味があったら見てみて下さい。

農村漁村文化協会(農文協) 自然と科学技術シリーズ
『作物にとって雨とは何か-「濡れ」の生態学-』
昭和62年7月30日刊 木村和義著

One Response to “『作物にとって雨とは何か』”

  1. 間室照雄 より:

    気になっていた本でした、読みたいというきもちになりました。

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