『昭和陸軍秘録 軍務局軍事課長の幻の証言』

しばらく前 『昭和戦争史の証言 - 日本陸軍終焉の真実』 という本を紹介しました。
この本はその本の著者(西浦進)と同じ人の本なのですが、前に紹介した方は著者が終戦後忘れないうちと思って資料もない中記憶を頼りに書き綴ったもので、今度の本の方は戦後20年以上たってから『木戸日記研究会』という所が著者に聴き取り調査(インタビュー)したものをまとめたものです。

口頭での質問に対して口頭で答えているのを書き下ろしているものですから、ちょっと雑駁な所もありますがその分気楽に読めます。

内容的には前に紹介した本と同様、西浦さんが軍人を志したところから始まって、戦前・戦中の軍人(主として陸軍省勤務)としての経験をまとめたものです。

前の本は西浦さんの問題意識にもとづいて書きたい(書いておきたい)事が書かれていたのですが、今度の本は聴き取り調査する方の問題意識にもとづいて質問が用意され、それに答えるという形で進行します。直接自分で書くというのと違って口頭のヒヤリングですから、答え方もかなり気楽に話しています。

聴き取りが行われたのが1967年9月から1968年2月までの期間で、西浦さんは1970年にはもう死んでしまっていますから、その意味でも貴重な記録です。

また本にするとなると省略されてしまうような細々とした話も、おしゃべりでは省略されないで出てきますので、なかなか面白いです。

これを読んで、やはり第二次大戦においても日本の対応については、ロシア(ソ連)の存在感が大きいんだなと良く分かりました。

またアメリカに物資を押さえられ、仕方なくインドネシア(この本では蘭印と言っていますが)に石油を取りに行くのですが、これが実はドイツがオランダに攻め入ったのがきっかけだ、というのも初めて知りました。要するに、ドイツがオランダに攻め入ったので、オランダ領のインドネシアの石油はドイツに押さえられてしまうかも知れない、あるいはオランダの亡命政府がイギリスに逃げたので、イギリスに押さえられてしまうかも知れない、となったら、日本が先に押さえておかなければ・・という話のようです。

その後石油は無事に手に入れたにもかかわらず、船がなくてせっかくの石油を日本に運ぶことができなかったとか、陸軍と海軍で船の取り合いをしてどうにもならなかった・・なんて話もあります。

また太平洋戦争が始まる前、英米不可分論と英米可分論というのがあって、イギリスと戦争してもアメリカと戦争しないで済むだろうか、イギリスと戦争するとアメリカも一緒に敵に回すことになるんだろうか、とかなり議論があったということも分かりました。

この西浦さんは、東条英機が総理大臣になり陸軍大臣を兼任した時に半年間陸軍大臣秘書官になり、その前後も陸軍省の役人として東条英機と仕事をしている人なので、その話もなかなか面白いです。

戦争の話は何となく参謀本部がやりた放題・・みたいな印象がありますが、陸軍省や政府との主導権争いのやり取りなど、そう簡単な話でもないことも分かります。

ちょっと分量はありますが(400頁強で二段組みになっています)、お勧めします。

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