少し前、杉山龍丸『我が父 夢野久作』を紹介しましたが、こんどは夢野久作がその父杉山茂丸を書いた『父・杉山茂丸を語る』を読んでみました。そのために夢野久作全集の第7巻を借りたら、『近世快人伝』というのが最初に入っていて、それも読みました。
この『近世快人伝』、まずは頭山満、次に杉山茂丸、さらに奈良原到、最後に篠崎仁三郎という4人の評伝というかエピソード集というか、を集めたもので、その4人の快人というか怪人ぶりが生き生きと描かれています。
最初の3人は玄洋社に関わりのある人たちで、3人目の奈良原到の所で、玄洋社というのは健児社の進化というか変化というか、なれの果てというか、そういうものだ、と書いてあり、この一言で玄洋社の何たるかが何となくわかったような気がしました。福岡の暴れん坊達が集まって、皆でいろいろ暴れまわった、そのグループということです。薩摩の健児達は多くが西郷さんと共に討死し、残りは東京で出世したけれど、福岡の健児たちはどちらにもならずに玄洋社になった、というところでしょうか。
頭山満というのはその玄洋社におとなしく担がれていたのが、杉山茂丸というのはその玄洋社に収まりきらずに一人離れて、訳の分からないことをした人だったようです。
最後の篠崎仁三郎の所は、伝記というよりはむしろ落語を読んでいるようなもので、このまま落語になりそうな話です。どこまで本当のことかわかりませんが、とにかく楽しい読み物になっています。
私は夢野久作というのは『ドグラ・マグラ』なるオドロオドロしい怪奇小説を書いた人だ、というくらいな認識で、読んだことはなかったのですが、初めて読んであっけにとられました。とんでもない作家のようです。
せっかく借りたので、ついでにいくつか読んでみると、『創作人物の名前について』という、小説の登場人物にどのように名前をつけるか、とか『恐ろしい東京』という、ふだん福岡の山の中に住んでいる自分が東京に出てきてとんでもない体験をすることとか、とても面白いエッセイでした。『スランプ』という、自分がスランプに陥って書くことができないんだけれど、スランプに陥っていることについてならいくらでも書けるなどという、人を食ったようなエッセイもありました。
小学校に上がる前に四書五経をそらんじていたという天才とはとても思えないような文才で、とんでもない人もいたもんだ、と思いました。
つい最近亡くなった鶴見俊輔さんにも『夢野久作』という評伝があるようなので、次はこれを読んでみようと、図書館に予約を入れました。