以前紹介した「古代中国の日常生活(原題は古代中国の24時間)」の続きで、図書館で検索したら古代中国の他にエジプトとローマがヒットしました。
エジプトの「古代エジプト人の24時間」は中国の「古代中国の日常生活」と同じ24時間シリーズの中の1冊で、時代は3500年前ということなので、年代的にはかなりさかのぼりますが、「古代中国の日常生活」と同様、1日24時間の1時間ごとに別々の人物を登場させ、その人が何を考え・何を悩みながらどんな仕事をしているか、紹介しています。「古代中国の日常生活」と違って、このエジプト編では前の方の話で登場した人物が後の方で主人公として登場したり、あるいは前の方の話で主人公だった人物が後の方で登場人物となったりしています。
同じ古代といってもかなり年代が違っているはずなのに、墓盗人が登場したり、墓作りが登場したり、また王妃やその使用人が登場したりして、エジプトと中国は良く似ています。
これに対してこのローマの方の話はこの24時間シリーズの本ではなく、「古代ローマの一日―その日常生活、謎、魅力」という原題の翻訳のようで、とはいえ時代設定が西暦115年ということで、24時間シリーズの中国の分とほぼ同じです。
本の内容は24時間シリーズと同様、ある1日の朝から夜までの1日を描写しているのですが、24時間シリーズでは1時間ごとに様々な仕事・立場の別々の人を主人公として、その人が何を考え・何を悩みながら仕事をしているかを書いているのですが、この「ローマ人、、、」の方はむしろローマという都市の様々な場所に注目し、その場所でその時何が行われているかを描写しています。
著者はタイムトラベラーとなって西暦115年のローマに行き、そこで丸1日街のいろんな所に行き、いろんな生活を見物します。
夜明け前ローマの街中を歩き、防火隊の夜回りを見たあと、次に金持ちの大邸宅を見て奴隷たちが働き始めるのを見、主人達家族が朝の身支度をするのを見物します。ローマ式の服の着方や女性のヘアスタイルなども説明してくれます。朝食のあと、朝の表敬訪問で多くの人々が邸宅を訪ねてくる様子を見せてくれます。ここで著者は急に上空に舞い上がり、空の上から明けていくローマを見渡します。雲の中から七つの丘が浮かび上がり、次第に光が届き始め、大きな建物が現れ、街が見えてきます。ローマという街の地理的成り立ちが説明され、その後また街に降り立ち街歩きを始めます。著者は多くのテレビ番組の制作をしていた人のようで、視点の取り方がいかにもテレビのドキュメントのようです。
大邸宅のあと、著者は理髪店を通り過ぎて集合住宅に移ります。一階は商店、二階は邸宅を構えるほどではないとしても金持ちが住んでいますが、三階以上は違法建築のような好き勝手に建て増し増築を繰り返し、また貸しにまた貸しを繰り返した、文字通りスラムになっていて、一階には汚物入れの桶が置いてあり、上の階から毎朝トイレ用の桶をそこまで運んで中身を捨てるようになっているにも関わらず、そこまで運ぶのが面倒くさくなると上の階の窓から中身を通りにブチまけるという、花の都パリと同じようなことをやっていたようです。
次に著者は市場に行き、家畜市場から奴隷市場、路上の学校・神殿・書店・裁判所・元老院、コロッセウムでの公開処刑・剣闘士の対決などなどを見た後、夜になって大邸宅の宴会に紛れ込みます。ここで皆で寝そべって飲食をするローマ流の宴会のやり方の説明があります。最後は真夜中、人通りのなくなった通りを歩きながら、人々がどこでどのように寝ているかという所で1日が終わります。公衆トイレ・公衆浴場・商店・飲食店(バール)にも立ち寄り、人々が何をしているのか説明があります。
商店の所ではローマでは両手の指で4桁の数字をすべて表すことができたということで、図入りの説明があります。いくら何でもそんな事無理だろうと思っていたのですが、図を見て納得です。左手の中指・薬指・小指で1の桁の9個の数字を表し、親指と人差し指で十の桁の9個の数字を表し、右手の中指・薬指・小指で百の桁の9個の数字を表し、親指と人差し指で千の桁の9個の数字を表す。このようにして両手の10本の指で4桁9999までの数字を表すことができるというあんばいです。
公衆トイレの構造や用を足したあとの始末の仕方(ある意味、実質的に水洗トイレになっています)、公衆浴場の構造や入り方、コロセウムでの競技の様子など、さすがにテレビに携わる人ですから非常に具体的に説明してくれます。
前のエジプトや中国の24時間シリーズの本と違うのは、ローマはやはり世界的帝国で帝国の外や周辺の多くの国・地域から人や物を集めることによって成り立っている国で、道を歩く人も人種・民族、その他多種多様で、それがローマという大して広くもない都市に集中してごった返しているという姿です。
このような姿は塩野七海さんの「ローマ人の物語」や他のローマの解説書ではなかなかお目にかかれないものです。
それほど多くはないのですが、所々にいくつもの絵も付いていて、なかなか楽しめます。
文庫本で、本文だけで540頁とちょっと大部な本ですが、興味のある人にはお勧めです。