厚生省の村木さんの裁判、予定通り無罪でした。
土曜日にNHKでこの裁判について、検察は一体どうなっちゃったんだというような番組をやっていました。
関係者から次々に調書を取ったにもかかわらず、裁判が始まると調書を取られた人が次々にそれを覆す証言をし、結局多くの調書が証拠として採用されなかったということで、どうしてそんな嘘の調書を無理矢理取ったりしたのか、それをやっていながらその裏付けの捜査をまるでやってなかったのは、何たる手抜きか・・・というようなことでした。
この事件は去年ちょうど私が入院していた時に起こったので、良く覚えています。「身障者用の特別の郵便制度を使って郵便料金を安くできますよ」というDMも会社で何回か受取ったこともありますので、「これがそれか」と思ったものでした。
村木さんが容疑を否認したまま逮捕されるに至って、これは大変なことになったなと思いました。村木さんというのは、女性で初めての事務次官になるかも知れない人だというニュースの説明でしたが、だとすると、そう簡単には自分が「悪いことをしました」などと言うことはないでしょう。
最初に捕まった村木さんの部下その他が自供したなどというニュースもありましたが、検察サイドの一方的な発表ですから「本当かな?」と思ってました。時あたかも東京の方では小沢さんのお金の問題で大騒ぎをしていた時期ですから、大阪の検察が東京への対抗意識で頑張っているのかな?などとも思いました。
今回は村木さんが最後まで頑張り続けたので、裁判になってから証人が調書の内容をひっくり返してそれが認められるという経過になりました。仮に捜査の段階で村木さんも自供してしまっていたとしたら、仮に裁判になって全員が自供を翻したとしても、そう簡単に無罪判決が出たとは思えません。
ということで、検察側は起訴までの段階で村木さんを「落とせなかった」ところでもうアウトだったのかも知れません。
以前田中角栄さんのロッキード裁判の本をいろいろ読んでわかったのですが、検察という役所はちょっと他の役所とは違って、可哀想な組織です。
普通の役所は、関係する業界があったり族議員がいたり消費者がいたりして、何かお役に立つことをすると「良くやった!」と誉めてもらえるのですが、「検察」という組織にはそのような応援団がいないので、なかなか誉めてもらえないようです。
何も大きな犯罪が起こらなければ「無駄飯食い」みたいなものですし、犯罪があったとしてもなかなか犯人を捕まえられないとか、犯人を捕まえても有罪にできないと、何やってんだと文句を言われるだけです。
唯一誉めて貰えるのは、とんでもなく悪いことをした人をみつけて裁判でちゃんと有罪にした時とか、とんでもなくエライ(角さんのような)人や強い(小沢さんのような)人を捕まえて有罪にした時だけです。
そんなケースではテレビのワイドショーをはじめ世論一般が、「よくやった」と誉めてくれるということのようです。
ですから検察というのは、折に触れてテレビ受けするような事件で普段偉そうにしている人を捕まえて有罪にする、ということをし続けなければならない組織のようです。
角さんのロッキード事件でも、検察側の本を読んでも、捜査の最初から角さんが「犯罪を犯したのか?」というような問題意識は一切見えません。検察が気にしているのは「起訴できるのか」「裁判で有罪にできるのか」ということだけです。
今でも時々テレビに出てくる堀田力さんという人は、若かりし頃このロッキード事件に検察のエリートとして関わっていて、その頃の自分の活躍ぶりを小説仕立てで「壁を破って進め-私記ロッキード事件-」という本にして出版していますが、そこで見えるのは、検察のエリートとして「いかにして角さんを有罪にする材料をアメリカから入手するか」ということだけで、角さんのやったことは「犯罪かどうか」などということは角さんを逮捕できるかも知れないとなった時点で、もう完全に吹っ飛んでいます。
最初にこの本を読んだときはそんなわけで反発したのですが、その後いろいろ他の本も読んでみて、検察というのは上記のように可哀想な組織なんだということがわかり、そんな組織に入ってしまった優秀なエリート官僚が、手柄を立てて誉めて貰うために頑張ってしまうのは仕方ないかも知れないなと思うようになりました。秀才というのは誉めてもらうことには慣れていて、誉めてもらうのが当然だと思っている人達ですから。
NHKの番組は、被告側にひっくり返されてしまうような検察の捜査の杜撰さを問題にするものだったのですが、私が感じたのはそれとは別のことです。
捜査の段階で村木さんの周辺にいた何人もの官僚が調書を取られ、「村木さんがやった」という調書に判を押しているということです。その人達が皆裁判では、調書は無理矢理取られたもので、本当は「村木さんはやってない」と証言したということでした。
今の所、調書は検察に無理矢理判を押されたもので、裁判での証言が真実だということになっているようですが、だとすると、中央官庁のお役人が何人も検察に尋問されるとみな嘘の調書に判を押してしまうということになります。
逆に調書の方が実は正しくて、判を押してから裁判になり、厚生省の組織防衛のために皆で口を揃えて「調書は嘘です」と言ったという解釈もあります。もしそうだとすると、中央官庁のお役人は組織防衛のためだったら皆で口を揃えて嘘をつくということになります。
いずれにしてもこの人達は、調書か証言か、どちらかで嘘をついているわけです。
もちろん嘘をつくのは中央官庁のお役人だけでなく、政治家もお役人も学校の先生も、警察官も検察官も裁判官も嘘をつきますから、別に大騒ぎするようなことではありません。しかし何人ものお役人が皆で一斉に嘘をつくことがあり得るんだ、ということは、ちゃんと覚えておかなくちゃならないナというのが私の感想です。