永久国債

菅さんの粘り腰で国会の延長は決まりましたが、さて、肝心の国債の発行の方はいつごろ決まるんでしょうか。

何をするにもお金が必要で、その為には国債発行と増税のセットが必要だ、ということは皆わかっているのに、菅さんを引きづり下ろす道具としてこの国債発行の議論を使っていると、いつまでたっても被災地にお金がいきわたりませんので、困ってしまいます。

で、いずれにしても国債を発行しなければならないんですから、この際、永久債を発行する、というアイデアはどうだろう、と考えています。

通常の国債は、利付国債で、毎年、元本に対する利息を支払い、満期償還の時に利息に加えて元本を返済する、という仕組みの債券です。
永久債、というのは、満期償還がなく、永久に利息の支払いを続ける、という債券です。

あまりなじみがない債券ですが、イギリスではこのような国債をその昔発行していて、初めてこれを知った時は「そんなものがあるんだ!」と感動したことを覚えています。

元本の返済は永久にしなくてもいい、ということで、発行する方にとって有利なようにも見えますが、その代わりに永久に利払いをし続けなければならない、ということで発行する方にとって必ずしも有利なだけでもありません。でも、お金のない今の政府にとっては、元本の返済をしなくてもいい、というのは魅力的かもしれません。

先月金融庁が発表した「経済価値ベースの保険負債評価」の試算のレポートでも、保険会社(特に生命保険会社)にとって、負債の期間が長期なのに対してそれに見合う長期の資産が存在しないのでALMがうまくいかない、というコメントがありました。その点、満期償還付きの債券に比べて満期償還のない永久債は非常に長期の資産になります。特に今のように金利が低いときはとてつもなく長期の資産になります。これを使うことができれば、ALMもかなりやりやすくなるはずです。

大雑把にいって、債券の期間、というのは、割引債の場合、その満期償還までの期間となり、利付国債なんかの場合は利払いがある分、満期償還までの期間より短くなります。それに対して永久債の期間は利回りの逆数になりますので、利回りが1.5%とすると70年くらい、利回りが1.0%とすると期間は100年くらいになります。

いま日本で発行されている国債は、20年とか30年とかのものもありますが、たいていは長くても10年のものですから、それを組み合わせたんでは、平均期間はせいぜい10年とか20年とかにしかなりません。生命保険の保険期間が何十年にもなる、その負債の期間と比べるとまるで短すぎる、ということになります。でも、これに期間が70年とか100年とかの国債が登場して、これを組み合わせて使うことができれば、この期間の問題は一気に解決します。

国債というのは国の借金です。借金は余裕があるうちにさっさと返してしまった方がいい、ということで、日本でもアメリカでもその昔、好景気で税収が順調に伸びていたとき、あと何年で国債は全部償還が終わってしまって、国は無借金になるけれど、国債がなくなってしまうと資産運用で国債を買うことができなくなってしまう、などと本気で心配していた時期がありました。今から思えば夢のような話で、信じてもらえないかもしれませんが、ほんとのことです。

しかし、国債というのは借金、というだけではなく、国の信用をバックにしたリスクフリーレート(一番信用できる資産運用をした場合の、資産運用リスクを取らない場合の金利)を示す指標をになうもの、という機能も併せ持っています。国が国債を発行して、その国債がマーケットでいくらで取引されるかで、金利水準が今どれくらいにあるか、ということがわかるようになる、ということです。

金融機関が巨額の資産運用をするようになった時、その運用の指標の一つであるリスクフリーレートというのは重要なインフラストラクチャーであり、そのようなリスクフリーレートをになう国債を発行するのは国の重要な金融インフラストラクチャー整備のサービスの一つです。そのためには、国がいくら財政的に豊かで、借金の必要がなくてもある程度の量の国債を発行し続けて、マーケットで取引できるようにしておく、というのは必要なことです。それも、できれば短期・長期・超長期のリスクフリーレートをバランスよく提供してくれると金融機関はとても助かります。

ましてや今は大震災の復旧・復興資金のために、原発事故の賠償資金のために、国債発行が避けられないことはだれもが認めることです。

日本では永久債、というのはあまりなじみがないので、それが登場してきたところで、いくらで売買したらいいか、という理論を改めて構築する必要もあるでしょうが、そのような理論やそれに伴う実務を作る、というのも金融機関にとっては興味のあるテーマではないかな、と思います。

投資家にとっても、永久債の方が普通の利付国債より値動きが大きくなるので、新しい儲けのネタ(と同時に損するネタ)になって、うれしいかもしれません。

この際、これをチャンスに日本でも永久債の国債の発行を始めないかな、と思うんですが、、、、多分こんなことを考えている人はほとんどいないでしょうね。

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