3回目の記事でケインズの所得=消費+投資について会計の方からのアプローチで確認したという話をしましたが、ケインズのアプローチはこれとはちょっと違っています。そしてケインズはその結果としての等式もさることながら、そのアプローチ自体についてもかなり重視していたようなので、これについて書いてみます。
通常会計では、企業の所得、すなわち利益について
利益=売上-売上原価-経費
という形で計算するのですが、ケインズ流のやり方は
利益=売上-使用費用-要素費用
という形で表されます。
使用費用にしても要素費用にしても何ともわかりにくい言葉なんですが、文章をちゃんと読めばはっきりわかるように書いてあります。
「要素費用」というのは「生産要素費用」ということで、企業が利益を上げるために他に払った費用のうち、他の企業に払ったものを除くものというくらいの意味で、その払った相手のことを「生産要素」とよび、その生産要素に払った費用という意味で「要素費用」というようです。ちゃんと「生産要素費用」と言ってくれると、確かに2文字余分にかかりますが、はるかにわかりやすくなるように思います。
今考えているのは労働者と企業だけなので、結局要素費用というのは労働者に払う労賃、あるいは人件費のことになります。
もう一方の使用費用というのは、設備・在庫の使用費用ということになります。ここでも使用費用だけじゃあ何のことかわかりませんが、設備・在庫使用費用、と言ってくれレはそのままなんとなくわかるような気がします。
企業が労働者に支払うお金と起業に払うお金と、利益との関係はどうなっているかというと、
期始の設備・在庫+労働者に払うお金+企業に払うお金
=期末の設備・在庫+期中に使った設備・在庫(売上原価)+経費
ですから、
売上原価+経費=労働者に払うお金+企業に払うお金+設備・在庫の減
利益=売上-売上原価-経費
=売上-労働者に払うお金-企業に払うお金-設備・在庫の減
となり、労働者に払うお金=要素費用ですから、
使用費用=企業に払うお金+設備・在庫の減
ということになります。
すなわち、企業が売上で利益を上げるために労働者にいくら払った、他の企業にいくら払った、設備・在庫をいくら使った、この3つを売上から差引けば良いということです。
企業の利益=売上-労働者に払ったお金-企業に払ったお金-設備・在庫の減
ですから、これを社会全体で合計するんですが、ここで企業に払ったお金の部分は受取った企業の売上ですから、それを相殺すると
企業の利益=売上-労働者に払ったお金-企業に対する売上-設備・在庫の減
=消費者に対する売上-労働者に払ったお金-設備・在庫の減
=消費-労働者の所得+設備・在庫の増
で、
企業の利益+個人の所得=社会全体の所得=消費+投資の増
となって、めでたしめでたしです。
ここで使用費用として、【企業の払ったお金+設備・在庫の減】としているのは、別にむりやり合計しないで別々にしたままでも良さそうな気もしますが、ケインズはたとえば財・サービスの売り手の企業と買手の企業が合体してしまった時のことを考え、そうなると企業に払ったお金というのは消えちゃうし、設備・在庫も一方の企業で減った分、もう一方の企業で増えるということで、この二つを合計したものをまとめて【使用費用】と言っているようです。
会計の立場からは、労働者に払ったお金・企業に払ったお金がどのように原価になり、どのように経費になるかという細かい所が気になりますが、マクロ経済学の立場からすると、もっと遠くから全体の流れを見て、企業が売上を上げるのに労働者や企業にいくらのお金を払い、また設備・在庫が結果としていくら増減したかということだけ見れば良いということのようです。細かいことは全て設備・在庫の残高の計算に任せてしまえば、これでも充分だということですね。
こんな見方はじめてなので、ちょっと感動ものですね。
でも、よく考えてみれば、【利益=売上-売上原価-経費】というのは、損益計算書の見方ですが、【利益=売上-労働者に払ったお金-企業に払ったお金-投資の減】というのは貸借対照表の見方ということもできます。
売上による資産の増から、労働者に払ったお金・企業に払ったお金による資産の減・投資の減による資産の減を差引いたものが利益だ、というわけです。
このように考えれば通常、損益計算書と貸借対照表とでは整合性が取れていますから、損益計算書の利益と貸借対照表の利益とは等しくなり、両方の式がどちらも正しい、ということになります。
この使用費用・要素費用という言葉はいろんな所に使われています。要素費用の方は、要するに労賃と考えていれば良いのですが、使用費用の方は、時にこれで企業から他の企業に対する支払いを意味したり、設備投資のことだったり、その減価償却費のことだったり在庫投資のことだったりしますから、その都度その意味を確認しながら読む必要がありそうです。