白川静 「孔子伝」

白川静という漢字の先生がいます。

以前この白川漢字学を知ったとき、かなりまとめて白川さんの本を読みました。漢字の本とか詩経の本とか、いろいろ読みました。その時「孔子伝」も図書館で借りたのですが、それ以外の本でおなかが一杯になってしまって、結局読まずに返却してしまいました。

しばらく経っておなかもこなれてきたのでまた借りて、今度こそ読みました。期待にたがわず素晴らしい本です。

白川さんには自伝として、日経新聞に連載した「私の履歴書」に加筆した「回思90年」という本があります。でもこの「私の履歴書」というのは、事実や出来事を中心に書かれているものですから、白川さんの気持とか思いとかはあまり書かれていません。

時として誰かが心から敬愛する人の評伝を書く時、その書く相手の人に仮託する形で書き手の思いとか考え方が見事に表現されることがあります。この「孔子伝」もまさにそのような本です。

もちろん孔子の伝記としても画期的な本のようですが、それと同時に白川さんが孔子を心から尊敬し、敬愛していることが良くわかり、と同時に白川さんがどんなことを思い、どんなことを考えて生きてきたかが良くわかる名著です。

孔子というのは大昔の人ですから、伝記といっても良くわからないこともたくさんあります。中心となる文献は、史記の中の孔子に関する記述と論語ですが、これ以外にも様々な人が様々に書いているようです。

中にはかなり信用できない記述も多く、それは史記の記述でも論語の記述でも同様のようです。それを白川さんは一流の緻密な検討で、信用できる記述・信用できない記述に分析し、孔子というのはどういう人だったのか、何を考え何を目指したのか考えています。

孔子という人は革命家を目指したけれど、殆どことごとく失敗し、老年に至るまで中国各地をさまよった人ですが、その結果として孔子の儒教教団が出来上がり、論語という素晴らしい本ができたということのようです。

「孔子伝」というのも孔子が死ぬまでの伝記ではなく、その後いろんな人が様々に孔子についてあることないことを記述して、その集大成として論語という書物が出来上がり、その結果として歴史上の孔子という存在が出来上がる所までを書いています。

白川さんにとっては、孔子の弟子の顔回が死亡し孔子が死んだところで孔子の本流は一旦途絶え、その後荘子がその後継者として復活させ、その延長線上に老子ができたということのようですが、このあたりの白川さんの解釈も興味深いものです。

お勧めの一冊です。

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