いよいよケインズは一般理論の結論を出しますが、その前に貨幣理論の章があります。
ケインズは「一般理論」のすぐ前(5年前)に「貨幣論」という本を書いており、「一般理論」の中でも「貨幣論」にはこう書いたけれど・・・とか、「貨幣論」にこう書いたように・・・という具合にしょっちゅう引き合いに出しています。私が本気の学者とか研究者だったら、さっそく「貨幣論」も読まなきゃと思うところですが、とりあえず野次馬の気軽さで、「一般理論」の中でケインズ自身が否定している「貨幣論」を読むこともないだろうと考えています。
で、「一般理論」の中の貨幣論ですが、何とも素晴らしいものです。かなり以前から「貨幣とは何か」というのは私の大きなテーマの一つで、何冊かそのような本を読んだんですが、これまで今イチこれだ!というものには巡り合っていませんでした。
で、ケインズの貨幣論ですが、まずは「利子」から始まります。利子というのは一時的にお金を一定期間手離しておいて、その一定期間経過後にまた受取るものが、元々手離したものより増えた分です。このように考えると、別にお金に限定しなくてもたとえばお米でも牛でも同じように考えることができます。
お金の機能というのは、【財産の価値をその資産の形で保有する】ということと、【必要に応じて他の資産と交換する】ということで、その意味では貨幣でなくて他の資産でも多かれ少なかれそのような機能を果たすことはできるのですが、その中で貨幣が中心的にその役割を果たす理由は何か、ということになります。
ケインズは様々な資産について、収益力(それを持っているとそれだけで財産が増えること)・持越費用(それを持っていると時間が経過するだけで価値が下がったり、維持するためにお金がかかること)・流動性プレミアム(いつでもすぐに他の資産と交換できるメリットのことで、そのための対価として払っても良いと思われる額)の三つの特性を取り出し、これで各資産を特徴付けます。
この中で貨幣というのは、収益力はゼロ(持っているだけじゃちっとも増えない)・持越費用もゼロ(もっているだけなら費用はかからない)・流動性プレミアムは他の資産と比べて極端に高い(自由にいつでもどの資産とも交換できる)ということで特徴付けられます。他の資産では一般に収益力はあるかも知れないし、ないかも知れない。持越費用は多かれ少なかれ、ある。流動性プレミアムは小さいか、ない・・・ということになります。
このように整理した上で貨幣の性質として
その量を増やすことも減らすことも簡単にはできず、量が増えたからといって価値が下がるわけでもない、ということを説明します。普通の資産は値段が高くなればそれをたくさん作る人が現れ、その資産が増えれば安くなり、逆に値段が安くなって誰も作らなくなると放っておいてもだんだん減ってしまって、減って少なくなれば今度は値段が高くなるということになるのですが、貨幣はこれとはまるで違います。
この特徴から(ケインズが言っているわけではないのですが)、インフレを抑えたりデフレから回復したりというのはそう簡単にできる話じゃないというのが良くわかります(インフレというのはお金の価値が安くなることで、デフレというのはお金の価値が高くなることです。お金の量を増やしたり減らしたりすることが簡単にできて、その結果としてお金の価値を上げたり下げたりが簡単にできるなら、インフレもデフレも簡単に対処することができます)。
このことをこんなに明快に説明してくれる貨幣論は初めてです。この部分はさらに熟読玩味する必要がありそうで楽しみです。