韓国史(と台湾史)の教科書

先日、韓国の高校生のうち7割は朝鮮戦争を韓国が北朝鮮を侵略した戦争だと理解している、というニュースがありました。あれだけいわゆる「歴史認識」についてうるさい国が一体どうしたんだろうと思い、今後はいろんな出来事に関して韓国人の反応を理解するためには、韓国人のこのような歴史理解を踏まえて解釈する必要があるなと思い、facebookにコメントしました。

それに対して友人の下郡さんからまずは韓国の歴史教科書を読むように、ついでに比較のために台湾の歴史教科書も読むように勧められました。

韓国の歴史 国定韓国高等学校歴史教科書 世界の教科書シリーズ 大槻 健/訳 明石書店

台湾を知る 台湾国民中学歴史教科書 国立編訳館/主編 雄山閣出版

さっそく図書館で借りて読んだのですが、非常に面白いものでした。

最初韓国の方を読もうと思ったのですが、高校用の教科書のせいか500ページにわたってビッシリ書いてありかなり歯ごたえがありそうなので、台湾の方から読むことにしました。

台湾の方は中学用の教科書だということもあり、また台湾の歴史がさほど長くない(実質的に国姓爺の鄭成功のあたりからですから、日本で言えば江戸時代以降ということになります)ということもあり、また第二次大戦後国民党が台湾に乗り込んだ時から李登輝がトップに立つまでの間はさすがに生々し過ぎるのか、殆ど何も書かれていないということもあるのかも知れません。分量的にもはるかに少なく、簡単に読めました。

日清戦争後の日本の統治の時代についても、それまで中国本土から殆ど放置されていた土地が、日本によってしっかり建設されたあたりがちゃんと書いてあります。

これを読み終えてその勢いで韓国史にかかったのですが、さすがに分量も多く(中国五千年に匹敵するような歴史です)、また高校用の為かそれぞれの時代区分ごとに政治・経済・社会・文化のそれぞれについて記述してあるので、読みごたえがありました(とはいえ、わからない所はそのまま読み飛ばしですが)。

もうひとつ感じたのが、基調として「・・・でなければならない」とか「・・・しなければならない」とかの、いわゆる説教調が強いので、まぁこれは韓国の国民性なんでしょうが、そんなことを言われ続けるのも大変だなと思いました。

韓国の歴史では、外国としてはやはり中国と日本が良く登場します。
中国は文明の進んだ国としてその文明を取り込んだり、その文明を凌駕するような業績を韓国人が挙げたりというような記述です。日本は一貫して文明の遅れた国であり、長年にわたり韓国から文明を教えてやった相手ということです。

韓国人は大昔からずっと朝鮮半島とその北の満洲の地域に住んでいる単一民族だということで、その中がいくつかの国に分かれたりまた統一されたりしたけれど、一貫して一つの民族・一つの国土・一つの国という意識が強いようです。元に攻め込まれたり清に攻め込まれたりして、それらに従属させられ酷い目に遭ってはいるものの、国としての独立性は保っていた、というのが誇りのようです。

これは豊臣秀吉の朝鮮征伐も同じで、国を攻められ大変な被害を蒙ったけれど、最終的に国を保ったまま相手を追い出した、ということのようです。徳川時代になって日本に通信使を送るようになったのも、大変な被害を蒙って山ほどの恨みはあるものの、文明の遅れた国から是非来てくれ・教えてくれと頼まれたので、進んだ文明を教えてやるために使節を派遣したということです。

で、その数千年の歴史の中で唯一残念なのが日韓併合で、一時的に国がなくなってしまった、ということのようです。あの(後に元になる)モンゴルも、(後に清になる)女真族もやらなかった「国を失くす」という暴挙を、自分達よりはるかに文明の遅れていて、後に中国になるわけでもない日本にやられてしまったというのは何とも我慢ならないようです。

その後日本が太平洋戦争に負けて韓国はまた国として復活するのですが、そんな棚ボタで独立を回復したなんてことを言うわけには行きません。日本に対する独立戦争の所は他の部分とくらべてもやけに詳しく、いつ・どこで・どんな戦争をしたか、ということが延々と書かれています。

日本では太平洋戦争や日中戦争についてはある程度知っていますが、韓国の日本に対する独立戦争のことなど殆ど、または全く知らないと思います。少なくとも私はこの教科書を読むまで安重根アン・ジュングン)の伊藤博文暗殺は知っていましたが、日本に対する独立戦争などはまるで知りませんでした。

相手が死ぬ覚悟で戦争をやったのにこっちは何も知らない、では話になりませんね。韓国人はプライドが高いので自分達の独立戦争の結果「日本を追い出した」と思いたいのに対して、日本人はアメリカに負けたから朝鮮から「引上げた」と思っているんですから、韓国人としては収まらないでしょうね。

で、日本の統治時代のことも、何もかもうまく行かないことは全て日本の統治のせいにする、という書きぶりです。まぁ悪者がはっきりしているのでわかりやすいと言えばわかりやすいですけれど、はっきりし過ぎているのもあまり面白くはないですね。

で、独立戦争の結果ようやく日本を追い出したと思ったら、今度は急に北朝鮮が(同じ民族でありながら)悪者になって韓国に攻めて来たというのも、わかりにくいんでしょうね。それまでは「韓国人は正義」、「日本人は悪」という切り分けだったんですから。

で、最後に一つ面白い発見をしました。
この韓国史の教科書では、韓国では17~18世紀に稲作で田植えをするようになり、稲作が効率化して収量が急増した(それまでは直撒きで効率が悪かった)ということが書いてあります。日本では弥生時代から稲作は田植えでやっています。その間こんなに近い所にある国なのに、韓国は日本の田植えを見習おうとしなかったんでしょうか。大きな疑問です。田植えをした田んぼは、田植えの時から稲刈りの時まで一目でわかるはずですし、その間日本に往復している韓国人も多数いたと思うのですが、誰かこのあたりの事情を知ってる人がいたら教えて下さい。

いずれにしても日本は韓国と違って、中国と地続きじゃなかったこと、韓国のように科挙を導入しなかったこと、ラッキーだったなと思わずにはいられません。多分韓国史の教科書の説教臭さというのは儒教の性理学の名残なんだろうな、なんて考えています。

実はかなりの数の国の学校の教科書が日本語に訳されて出版されているようです。もし興味があったら読んでみて下さい。

3 Responses to “韓国史(と台湾史)の教科書”

  1. 白根 毅之介 より:

    韓国では大学入試では国史や世界史は必修ではないそうですな。だからそれほど真剣に歴史を学ぼう(勉強の対象にしよう)という雰囲気が学生にはないんでしょう。それに教育界はいわゆる“左派”というよりも親北派が主流だそうで、それで朝鮮戦争は韓国の“北進”から始まったと理解している学生が多いとのことです。それはともかく、朝鮮戦争の開戦日が6月25日(この日を韓国では“ユギオ”というらしい)だっていうことも知らない学生が多いというのも驚きですな。
    もっつとも、日本人だって太平洋戦争の開戦日が12月8日だってことを知らないのが多いようですがね。

  2. 坂本嘉輝 より:

    白根さん、
    コメントありがとうございます。

    我々の時代も、日教組の反日教育を受けたはずですが、ほとんど聞き流していたように思います。

    歴史は学校で習うよりもむしろネットやマスコミから習う方が多いでしょうから、高校生が朝鮮戦争のことをよく知らない、というのは、ネットやマスコミの情報が北寄りになっている、ということかもしれません。

    マスコミも一応教科書レベルの知識は確認しているでしょうから、その上で北寄りの情報を流しているんでしょうか。韓国にとって日本は恨み骨髄のにっくき日帝ですが、北朝鮮は同胞ですからあまり悪口を言いたくないんでしょうし、北朝鮮の悪口を言うより日本の悪口を言う方が優先順位は高いでしょうね。

    6.25を知らない若者が多くても、多分8.15はみんなよく知っているんでしょうね。
    日本にとっては敗戦記念日ですが、韓国にとっては独立回復記念日ですから。

    6.25は記念日になっていませんが、8.15や3.1は記念日になっているようです。

  3. 白根 毅之介 より:

    稲作の件、坂本さんの疑問に直接お答えできるものかどうかはわかりませんが、室町時代の初期に来日した朝鮮通信使は、日本では貨幣経済が発達していて、その証拠に乞食が食べ物でなく、お金を物乞いしているのに驚くとともに、水田の水車を見て驚いたという記録があります。通信使の中の優秀なのが作り方を学んで(ついでに水車の模型まで作ってもらって)帰国、水車を作ろうとしたけど木を曲げる技術がなく、ついに断念したという記事があります。水田による稲作ができなかった理由の一つかも知れませんね。
    ついでにウチは「東京新聞」を購読しているので、久しぶりで坂本さんのご尊顔を拝することができました。

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