相対的貧困率

国会でもネットでも『子供の6人に一人が貧困だ』などと野党が騒いでいるので、この元となる『相対的貧困率』についてちょっと調べてみたのでコメントします。

この6人に一人というのは、2012年(相対的貧困率の調査は3年ごとなので、これが直近のデータになります)の国民生活基礎調査にもとづく子供の相対的貧困率が16.3%だということから、それを6分の1と表現しているものです。

実はこの時の国民生活基礎調査による国民全体の相対的貧困率は16.1%ですから、6分の1というのは子供だけの話ではなく大人を含む全体でも同じことなのですが、『国民全体の6人に一人が貧困だ』と言ってしまうといかにも嘘っぽいことがはっきりしてしまうので、実態の良くわからない子供の方だけ取り上げているのかなと思います。

で、この相対的貧困率の計算方法ですが、まずは一人一人の可処分所得を計算します。この計算は所帯単位に行うので、所帯全体の可処分所得を合計して頭割りにするのですが、単純に人数で割るわけではありません。

人数の平方根で割って、それを『等価可処分所得』といいます。人数の平方根ですから、2人だったら2で割る代わりに1.4で割る、3人だったら3で割る代わりに1.7で割る、4人だったら4で割る代わりに2で割る、といった具合です。ですから単純に頭割りにするのに比べて2人なら1.4倍、3人なら1.7倍、4人なら2倍になります。

で、この等価可処分所得の高い人から低い人までずらっと並べておいて、ちょうど真ん中の人の値(中央値といいます)を計算し、その上でその中央値の半分の所を『貧困線』といい、等価可処分所得がその貧困線より低い人が全体に占める割合を『相対的貧困率』と言います。

2012年の調査では、この貧困線が122万円ですから中央値は244万円、すなわち人口の半分は等価可処分所得が244万円より多く、半分は224万円より少ない、ということになります。

で、この等価可処分所得を計算するのに、人数で頭割りしないで人数の平方根で割り算するというのは、いわゆる『一人口は食べられないけど二人口は食える』というやつで、食べるのに必要な費用は人数が増えるほどには増えない、ということを反映したものです。逆に言えば世帯の人数が多いほど可処分所得が水増しされて評価される、ということになります。

ですから一人暮らしの人は可処分所得が122万円より少ないと貧困ということになるのですが、二人暮らしだと二人で172万円・一人あたり80万円より少ないと貧困、三人所帯だと3人で211万円・一人あたり70万円より少ないと貧困、四人所帯だと4人で244万円・一人あたり61万円より少ないと貧困、ということになるわけです。

たとえば夫婦と子供2人の4人所帯で可処分所得が250万円あれば、その4人の等価可処分所得は125万円ですから4人とも貧困の方には入らないのですが、それが離婚して父子家庭・母子家庭になり、それぞれの可処分所得が125万円になると等価可処分所得は88万円になり、4人とも貧困ということになるわけです。この逆であれば、4人の貧困が結婚して同じ所帯になるだけで実際の所得が増えなくても貧困から脱することができる、ということです。

あるいは老人夫婦が老齢基礎年金満額支給の78.1万円に子供からの仕送りが10万円あって88.1万円、二人で所得が176.2万円だとすると、等価可処分所得は124.6万円で貧困ではないけれど、片方が死んで残った方が二人分の仕送り20万円をもらったとしても、合計で98.1万円で『貧困』ということになる、という具合です。

また、『貧困率』といいながら、その基準となるのはあくまで『所得』ですから、どんなに大金持ちでも所得がなく預金の取崩し・財産の切り売りで暮らしている人は当然、貧困ということになるわけです。

離婚して母子家庭で子育てしていて、前の夫が養育費を払わないなんて話は良く聞きますが、仮に養育費が払われていたとしても、それが母子家庭の所得に入っているのかどうかはっきりしません。所得の中には『仕送り』というのもあるんですが、養育費は仕送りに入るのかなあとか、養育費の受取人が元の奥さんではなく子供になっているような場合、それを子供の所得にしてちゃんと計算しているのかなあとも思います。もちろん養育費を払っている方についてはその分所得を減らす、なんて計算はしていませんから可処分所得は減りません。

また夫が単身赴任して、残った家族が夫の銀行口座から生活費を引き出して使っているような場合、この引出した分を仕送りとして所得にするようになっているんですが、口座からわざわざ引き出さないで、その口座から自動的に引き落とされるようになっている、口座振替の料金やクレジットカードの清算金などはこの仕送りとして所得にするようには書いてありません。だとすると夫が単身赴任で妻と子供2人が別に暮らしていて、夫の口座から引き出すのは年に200万円、残りの費用は基本的に全て(家賃にしろ学費にしろその他生活費にしろ)口座から引落されるようにしていると、かなりリッチな生活をしていてもこの3人は貧困ということになります。

そんなわけで、この『相対的貧困率』というのは、かなり危なっかしい率です。人口の高齢化と核家族化で世帯の人数が少なくなるだけで相対的貧困率は大きくなる、ということなのかもしれません。そのあたり、きちんと理解したうえで話をしないととんでもない議論をすることになります。

しかも『相対的貧困率』をあたかも(相対的を除いて)貧困率だ、と思い込んで、この貧困線より等価可処分所得が少ない人は貧乏で可哀想な人だ、と決めつけてしまうというのはあまり真っ当なやり方ではないですね。

貧困線の122万円、日本では確かにあまり高額ではありませんが、アジア、アフリカ等の国からするとかなり高額です。

貧困問題はもう少し落ち着いて検討することが必要なようです。

Leave a Reply