『君たちはどう生きるか』 吉野源三郎(2)

岩波文庫版の『君たちはどう生きるか』が、ようやく図書館で借りられたので見てみました。

驚いたことに、この本文は改訂前の昭和12年の版を、漢字を旧字体から新字体に、仮名遣いを現代仮名遣いに直したものになっていました。

この昭和12年のオリジナル版を以前わざわざ島根県の図書館から借りて読んだのですが、そんな苦労はしなくても良かったということになります。

面白いことに本文のあとに、後書きとして『作品について』と題して著者の吉野源三郎の解説のようなものが付いていますが、これは戦後2回の改訂をした後の版に付けられたものですから、いきなり本文とこの後書きを読むとわけの分からないことになるのかも知れません。

さらにそのあとに『解説』のような形で、「『君たちはどう生きるか』をめぐる回想―吉野さんの霊にささげる―」というタイトルで丸山真男の文章がついています。

吉野源三郎が1981年に亡くなり、その追悼文として丸山真男が雑誌『世界』に寄稿したものをこの文庫版にもつけたということです。

で、この追悼文で、丸山真男は『君たちはどう生きるか』を昭和12年に出版された段階で読んでおり、追悼文を寄稿するにあたり新旧の版を読み比べてみて、オリジナルの昭和12年の版を古典として初版のままの復刊を希望し、その結果として1982年に岩波文庫からそのオリジナル版により復刊が実現した、ということのようです。

『君たちはどう生きるか』のハイライトのコペル君の仲間が上級生に制裁を受けた時、コペル君は名乗り出ることができなかったというエピソードに関し、著者の吉野源三郎もこれを書く前に治安維持法違反で逮捕され1年半も陸軍刑務所に入っており、また丸山真男も(旧制)高校2年の時に警察に逮捕され豚箱にブチ込まれたのを始め、何度も特高の取り調べを受け、また憲兵隊から召喚されるという経験があり、このエピソードについてそれぞれ自分の経験に照らして思う所がたくさんあったようです。

で、いずれにしても丸山真男は、戦後2回の改訂の前の版が改訂後のものより良いものだと判断しており、新旧の版を比較して2回の改訂で削除された主な箇所のリストも追加しています。

とはいえ、終戦後によく見られた、戦中・戦前の発言について戦後、修正・削除して戦争に加担していた、あるいは戦争に賛成していたという批判を逃れようとした、というような訂正・削除はなかったというのは、私の確認結果と同じです。

前にも書きましたが、どうせ読むのであればこのオリジナルの方を読む方が良いと思いますし、これが今でも新本で千円ちょっとで買えるとなればなおさらだ、と思います。

なお、岩波文庫というのはジャンル別に帯の色で区分されているのですが、この作品は青の『日本思想』の中に入っています。この物語が思想なのかなという気もしますが、とはいえ日本文学というわけにもいかないので、これで良いのかも知れません。

また、『君たちはどう生きるか』とは別の話ですが、吉野源三郎と丸山真男についてチョット調べていた所、日本国憲法ができる時の『八月革命説』という、憲法学者好みのつじつま合わせのトンデモない議論がありますが、これを言い出したのが実は丸山真男であり、それを丸山真男の先生だった宮沢俊義が発表したものだ、という話を知りました。これは初めて聞く話なので、これについてもいずれちょっと調べてみようと思います。

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