この本はブルーバックスの1冊ですが、前に紹介した『新・ヒトの解剖』の続きとして読みました。
この本では脊椎動物というか、その少し前を含んだ脊索動物という範囲で、内臓の進化を解説しているもので、そのため動物の進化に伴い内臓がどのように進化したか、あるいは個体発生に伴い内臓がどのように変化するか、というあたりを解説している本です。説明のためにこの本でもたっぷり図が付いていて、本文273ページに図が188あり、楽しめます。
まず最初は内臓とは何かという定義で『現在は』呼吸器系・消化器系・泌尿器系・生殖器系・内分泌系の5つが内臓だとされています。すなわち脳神経系・心臓血管の循環器系は内臓ではない、という事です。この『現在は』というのがミソで、今はそうだけど以前は違ったということのようです。確かに神経系や循環器系を入れてしまったら、全身が内臓ということになってしまいそうですね。
内分泌系が内臓だというのも、へーそうなんだ、と思います。
確かに膵臓や副腎、卵巣や精巣などは内臓と言っても良いかなと思いますが、甲状腺とか脳の松果体や下垂体も内臓だと言われると、そんなものかな?と思います。
以下この5つの内臓それぞれについて、脊索動物の中での進化の過程を説明してくれています。
まず受精卵が次々に分裂して細胞のかたまりになると、その細胞はテニスボールのように表側に集まります。そこに指を突っ込むとその部分が凹んで穴が開き、それをさらに突っ込んで反対側まで突き抜けると、テニスボールの真ん中に穴が開いたようになります。その穴が消化器で、口から食道・胃・腸・肛門という具合になります。
最初に凹んだ部分が口になり穴が突き抜けた所が肛門になるのを『前口動物』といい、昆虫などがこの部類です。逆に最初に凹んだ所が肛門になり、穴が突き抜けた所が口になるのを『後口動物』といい、脊椎動物などはこちらの部類です。
いずれにしても口から食べ物を取り込み、最後に肛門から出すというので、身体の真ん中を通る穴が消化管となり、消化器系の様々な臓器が作られます。
その消化管の最初の方に溝ができ、外に向かって穴があいて、そこにエラが出来、このエラは食べ物をこし取ったり、そこに口を通して呼吸したりということで、呼吸器系が発達します。その後エラの他に消化管の周りに浮袋ができたり、肺ができたりします。肺を持つのは魚類では『肺魚』という種類とシーラカンスなどの真鰭類(しんきるい)とよばれる魚類です。シーラカンスなどは肺を持ち、もう少しで陸上に上がることができた所でうまく行かず、その後生存競争のために深海に押し込められてしまい、せっかくの肺は脂肪の入れ物となって比重の調整に使われているということです。
肺は両生類・爬虫類・鳥類・哺乳類で本格的に呼吸器として使われますが、両生類は相変わらず皮膚呼吸をし続け、種によってはせっかくの肺がなくなってしまっているとのことです。
次に来るのが泌尿器系と生殖器系です。どちらも体内のものを体外に出す仕組みで、泌尿器系の尿を体外に出す管を生殖器系の精子や卵子を出す管に流用してみたり、新たな管を作ってみたり、様々な工夫が凝らされています。
泌尿器系ではとりあえず血液の血球以外のほとんどのものを一旦全部外に出してから、その中から必要なものを吸収し直すという仕組みは良く考えたものですね。この泌尿器系と生殖器系も動物の種類によって様々に工夫されており、よくもまあこんなにいろんな仕組みがあるものだと驚くと同時に、良くもまあこんな所まできちんと調べて記録している人がいるものだと、動物学者達の努力にあきれるばかりです。
最後に内分泌系ですが、体内でホルモンを作り、それを外に出さないで体内に分泌するということですが、消化腺で作られる消化液や泌尿器で作られる尿などは体外(消化管も体外です)に出すわけで、体内に分泌するというのは、そのまま細胞のすき間に分泌し、それが毛細血管から血液に入る、あるいはリンパ管から静脈に入って最終的にホルモンの受容体まで流れていくということです。
ここで5つの内臓の説明全て終わった所で、最後にこの内臓の進化の形は一番進化した優れたものなのか検討するため、脊椎動物とはまるで別の進化を遂げてきて、ある意味進化の頂点に立つ昆虫との比較をします。昆虫で脊椎動物の内臓と同じような機能を果たす器官と脊椎動物の内臓の器官を比較すると、呼吸器系以外は非常によく似ており、全く別系統の進化をとげながら進化の行きつく先は同じようになっているという説明があります。
脊椎動物の呼吸はエラないし肺で酸素を取り込んで、それを血液に取り込んで全身の細胞の届けるという形ですが、昆虫では気管を全身くまなく張り巡らして全ての細胞が直接気管から酸素を取り入れるというとんでもない仕組みになっていて、循環器系・血液は呼吸には使われない、というはビックリです。
また内分泌系については、昆虫には神経分泌細胞というのがあって、ニューロンのような軸策を持ち、その軸索を通じてホルモンを直接標的とする器官に届けるという仕組みになっているようで、脊椎動物がホルモンを作って細胞の間に流し込んで、あとは血液が運んでくれるのに任せる、というのとはまるで違うという話も面白い話です。
説明のために図がたっぷりついていますから、それを一つ一つじっくり眺めるのも楽しめます。
動物の仕組みについて興味がある人には是非ともお勧めします。