この本も図書館の『新しく入った本』コーナーにあった本で、2024年4月10日に出版されています。
皆んな大好きな恐竜の世界で、CT・スキャナー・MRI・3Dプリンター・フォトグラメトリ・コンピュータシミュレーションなどがどのように使われているかという話を、実際に恐竜の骨をCTスキャナーを使って研究する、日本でも草分けのような著者がその魅力と楽しさを教えてくれます。
著者は恐竜研究をするにあたりテーマを探していて、国立博物館の先生から『飛ぶ鳥と飛ばない鳥で脳の形は違うのだろうか』というテーマを与えられました。
これを面白いと思った著者は、そのため生物の勉強から始め、脳に関する勉強を始めます。で、ある日ダチョウの生首を手に入れた著者は、これをCTスキャンにかけて脳の形を調べたいと言って、医学部のCT装置を使わせてもらうことになります。
もちろん化石になってしまうと骨しか残っていないので脳自体は残っていないけれど、脳が入っていた骨があればそこに入っていた脳の形や大きさはわかります。でも脳は骨で囲まれてしまっているので、細かい所は骨を割って開いてみなければ分かりません。しかしCTスキャナーで断面図を作ることができれば貴重な化石を壊さないで骨で囲まれた脳のスペースを細かく調べる事ができるし、そのデータを元に3Dプリンタ―で脳を作ることができれば、さらにいろんな研究ができるということです。
さらには化石は重く、壊さないように慎重に運ばなければならないのに、CTスキャンでデジタルデータにしてしまえば実物は動かさなくても自由にどこにでも運べるし、必要であれば縮小したり拡大したりしながら3Dプリンターで立体模型も簡単に作ることができます。
武漢コロナが大流行した時、海外旅行はおろか国内旅行もなかなか思い通りにできない時代、筆者は化石のCTスキャナ画像あるいは脳のMRI画像と格闘します。CTにしろMRIにしろ普段我々が目にするのは綺麗に色付けされた立体画像ですが、元々は白黒の画像が何千枚も重なったものです。これを白黒の濃淡や他の手掛かりで一つ一つ組織を区別していき、それに色を付けていきます。すなわち気の遠くなるような塗り絵の世界です。
多分病院などで取るCTやMRIはあらかじめ人体の構造やいろんな組織の画像のサンプルがあるのでそれを作ってコンピュータでこの色付け作業をしてくれるんでしょうが、化石の世界ではあらかじめどのような骨がどのように配置されているか分からないので、基本的に全て手作業でこの塗り絵を行ったようです。
この塗り絵の作業が全て終わってそのデータをコンピュータで処理すると、ようやく綺麗に色付けされた画像を見ることができ、どの方向からどのように切った断面図でも、表にある余分なものに隠されている内部の姿も自由に見ることができる。インターネットを使ってデータを送れば世界中のどこにいる人とも同じ画像を見ながら会話することができる。あるいは砂に埋もれ、あるいは岩に押しつぶされ骨以外のものと一体となってしまっている化石から骨の部分だけデータとして取り出し、現物を壊すことなく骨の部分だけの模型を自由に作ることができる、というわけです。何十メートルもの大きさの恐竜も縮小してしまえば手の上に載せることができる模型にすることができます。
武漢コロナもこう考えると著者たちを足止めして塗り絵に専念せざるを得なくしたということで、あながち悪いことばかりでもなかったかも知れません。
いろんな最新の技術が大昔の恐竜の研究にどのように生かされているか、ワクワクするような本です。お勧めします。