沖縄 だれにも書かれたくなかった戦後史

きっかけは何だったか覚えていないのですが、インターネットでたまたま沖縄県人の奄美大島出身者に対するひどい差別の話を読みました。かなり長い記事だったのですが、読み終わった最後に、これが佐野眞一著「沖縄 だれにも書かれたくなかった戦後史」という本の一部だということがわかりました。

で、さっそくその本を借りて読みました。
2011年に文庫になったもので、上下それぞれ500ページ弱のかなりのボリュームのある本です。

これが面白く、一気に読んでしまいました。
沖縄の戦後史を構成する多数の人(数十人あるいは3桁になる人数)を取上げ、その人がどのように沖縄の戦後を生きたかを書くため、さらに多数の人に取材して書かれたものです。

はじめに出てくるのは警察官とヤクザで、沖縄の暴力団がどのように生まれ、成長し、数次にわたる殺し合いを経験したかを書いています。次に経済界の大物や女性実業家達、そして沖縄出身のアイドル達とそれを育てた人達が登場し、その間に知事の仲井眞さんが登場したり、また琉球王朝の尚氏の、明治維新で琉球が併合されてから、戦後貴族でもなくなり財宝も多く行方不明になってしまった話とか、尖閣諸島がどのようにして個人の所有となり、その後どのように所有者が変ったかなんてことも書いてあります。

それら登場人物が皆精一杯イキイキと生きて、またその後生き残ったり死んだり殺されたり、そういう話がたっぷり入っています。

沖縄というと、とかくありがちな青い空・青い海というような話でもなく、また本土の犠牲となった沖縄に対してスミマセンなどという余計な思い入れもなく、単刀直入に著者が遠慮なしの質問をし、質問された方はあっけらかんと素直に回答する。そのようなインタビューと、その他取材によって集めた材料で登場人物を生き生きと描き出していますが、これだけで何十本ものテレビドラマや映画ができても不思議ではないような気がする、そんな読み物です。

もともと『月間プレイボーイ』に『沖縄コンフィデンシャル』というタイトルで連載していたものを編集し直し、加筆修正して単行本にしたものに、文庫版にするにあたりさらに大幅に書き足し、鳩山さんの『最低でも県外』発言とその後の3.11の大震災なども取り入れて本にしているものです。最近の尖閣諸島国有化までは入っていません。

著者の思い入れは、タイトルの『だれにも書かれたくなかった』の部分に現れているようで、沖縄は一方的に本土から差別されるだけでなく、奄美大島出身者に対する差別する側としての沖縄もしっかり書いてますし、また都道府県別平均所得が一番低く、若者の失業率が日本一高い沖縄がそれでも豊かに見えるのはやはり米軍基地があるためではないか(沖縄の暴力団のルーツの一つは米国基地からの軍需物資の窃盗団だったということも含めて)とか、軍用地主の一番大きな人は地代だけで年間20億円もの収入になり、どうやっても会ってもらえなかったとか、面白い話満載です。

青い空・青い海の沖縄というイメージや、明治以来(あるいはその前薩摩藩に征服されて以来)常に本土の犠牲になって、特に太平洋戦争の沖縄戦でも多くの犠牲を出し、戦後日本とは切り離されて米軍の軍政下で多大な苦労をさせられてきた沖縄に対して申し訳ない、というような定番の沖縄にうんざりしている人にお勧めです。

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