『グリーンファーザーの青春譜』杉山 龍丸

この本は副題に『ファントムと呼ばれた士(さむらい)たち』となっていますが、第二次大戦の日本の陸軍航空隊の話です。

著者が部隊と共に昭和19年の6月に満州からフィリピンに移動し、何度も壊滅的な被害を蒙りながらその都度立て直し、昭和20年3月に異動によりボルネオに移るまでの話が書いてあります。

陸軍士官学校を出て飛行機の整備の将校になるというのも珍しい話ですから、その整備将校として日本軍をどう見ていたか、というのも興味があります。

『整備』というのは技術が基本となりますから、すべて物事を合理的に考え、部品がなければ飛行機は直せない、燃料がなければ飛ばせないということで、それを精神論で乗り越えさせようとする参謀達とは良くぶつかることになります。
アメリカがフィリピンに反撃をはじめ、突然壊滅的な打撃を受けたあと司令部が機能停止になってしまった話なども、あからさまに書いています。

話は満州からフィリピンに向けて船に乗る所から始まります。方々で必要な部品や工具を調達し、地上部隊と一緒にフィリピンまであと2,3日という所で魚雷攻撃を受け、人員の3分の1と部品・工具の全てを失って何とかフィリピンに上陸。その後また方々に手を回して部品や工具を手に入れ、飛行機を飛べるようにする。アメリカの攻撃は熾烈を極め次々に飛行機は壊れていきますが、使える部品・部分をかき集めて一機ずつ飛行機を作っていくわけですが、それも他の部隊に取られたりアメリカの空襲で焼かれてしまったり、このあたりの話を整備将校の立場から書いている、というのは非常に面白いです。

この人は士官学校にいるころ三国同盟に反対し、戦争をやめさせるために政府の要人に話をしに行ったり、東条英機の暗殺を企てたりということもしていたようで、そんな青年将校もいたんだ、というのも興味深いです。

この人は戦争を生き残り、戦後私財をなげうってインドの緑化事業を進めたりして、インドで『グリーンファーザー』と呼ばれ、その話をグリーンファーザーという本に書いているので、それをタイトルに使っています。

『ファントム』というのは、お化けとか幽霊とかいう意味ですが、アメリカからすると日本の飛行機は空襲で全部破壊したはずなのに、いつのまにか日本の飛行機がアメリカの飛行場を空襲に来る。あの飛行機はどこから来たんだ、ということで最初『ファントム』と呼ばれ、また日本軍(あるいは著者自身)にしても全滅させられたはずの飛行機を次から次に切り貼りして復活させていったことで『ファントムと言いたかった』、ということのようです。

400頁近くのかなり読みでのある本で、所々同じ話の繰り返しもありますが、あまり気にならずに読めます。

実は途中まで読んでちょっと違和感がありました。本の文体が、若いとはいえ、戦前の軍人が書いたものとは思えません。あまりにも今風の文体になっているということです。これは編集後記に書いてありますが、文章を誰もが一読して理解できるようにするために、著者の息子の杉山満丸さん(あるいは編集者)がリライトした、ということのようです。そのため確かに、今の人が読んでもすんなり読めるような文体になっています。
この著者の『杉山龍丸』という人は、父親が『夢野久作』という筆名の有名な小説家であり、その父親は『杉山茂丸』というアジア主義者で、公式の役職にはつかなかったものの、かなり広範囲に影響力を持っていた人です。この三人をまとめて『杉山三代』という言い方もあるようです。

とまれ、技術系の将校が見た太平洋戦争、戦争に反対して東条暗殺まで企てた青年将校が、日本に絶望したままフィリピンで勝ち目のない戦争で飛行機ごと死んでいく飛行士のために、飛べる飛行機を次々に作っていくという話、読み応えあります。

本の原稿は1983年に書き終えており、著者は1986年に亡くなっています。それから30年近くたってようやく2015年に出版された、ということになります。

他にない視点からの太平洋戦争の話、お勧めします。

One Response to “『グリーンファーザーの青春譜』杉山 龍丸”

  1. 杉山満丸 より:

    お読みいただきありがとうございます。心から御礼申し上げます。

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