『神経とシナプスの科学』 杉 晴夫著 ブルーバックス

この本は神経の情報伝達の仕組みを丁寧に解説したものです。
ふつう、この分野の解説書では
 『神経線維はシュワン細胞という細胞でグルグル巻きにされているけれど、2ミリおきにそれが途切れて裸になっている所があります。神経の情報はその途切れ目を次々に電気が飛びながら流れることで伝わります。』

という具合に説明されるんですが、この本はその仕組みを一つひとつ具体的に立証するために色々な学者が何を考え、どのように道具立てをし、どのような実験をしたか、というプロセスを一つひとつ説明しています。

人類にとって生体の電気と電池は、どちらもカエルの足の筋肉に異なる二つの金属を接触させて、それをつないだら筋肉がピクンと縮んだという実験からスタートしている、とのことです。1790年頃のことです。

電気の方はその後これを真似て、二つの金属を電解質(イオンが解けている水)の中に入れて電池を作り、その金属電極を金属の線でつなぐと電流が発生し、それが磁石を動かし、逆に磁石を動かすと電流が発生し、・・・という具合でついにマクスウェルの電磁気学にまとめあげられる、という具合に発展するのですが、生体の電気の方はとっかかりがなく長く発展しなかったようです。その後電磁気学の発展により、まず検流計の発明により電流を測ることができたことでちょっと進み、次にオシロスコープの発明で、一瞬のごくちょっとの電圧の変化を目にみえる形で記録できるようになったことによりさらに進み始めます。この本ではオシロスコープの仕組みまで丁寧に説明してあります。

次の発明がガラス管を直径0.5μm(1万分の5mm)まで細くして、それを電極にして神経細胞に刺し、電流をはかることで神経の情報伝達の仕組みを解き明かすことができるようになった、というわけです。

この話の中で『イオンチャネル』という、イオンが細胞に入ったり出たりする出入口が細胞膜に付いているということが、最初は説明のための仮説だったのが、その後実際にそれが見つかった、どうやってみつけたのかの説明も付いています。

電気というのは電子が動いたりイオンが動いたりして流れるわけですが、この本では丁寧な図が付いていて、電子がどのように流れ、電気がどのように流れるか、いろいろ矢印で説明しています。

普通の本では電子が流れると電気はその反対だから、と矢印は片方を省略してしまうのですが、この本では省略しないでちゃんと書いていてくれます。とにかく絵が豊富で分かりやすく書かれています。さらに登場人物が生き生きと書かれ、様々なエピソードも取り上げられています。

教科書のたった1行か2行の記述の裏にいかに多くの学者の努力と思考錯誤とエピソードがあるか、考えさせてくれる本です。

お勧めです。

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