『ドイツの歴史を知るための50章』 森井 裕一編

明石書店から出版されている『エリア・スタディーズ』というシリーズの中の1冊で、これが151冊目ということです。

ヨーロッパはイギリスやフランスはそれぞれ国としての塊がしっかりしているので分かりやすいのですが、ドイツというのはまとまりがなく、なかなか分かりにくい国です。この本で、全体としてのドイツがようやく一つのまとまりとして理解できたように思います。

何しろドイツという国が正式にできたのは明治維新よりすこし後のことですから、それだけでもわけが分からなくても不思議じゃありません。

始めはカエサルのガリア戦役でライン川の南側・西側をガリア、北側・東側をゲルマンとして、ガリアをローマ帝国に組み込み、ゲルマンの方をローマ帝国の外側と規定して以来、ゲルマン民族の大移動を経て、カール大帝のフランク帝国ができ、それが三分され、そのうち中部フランクと東フランクの部分を合わせてローマ帝国(その後『神聖ローマ帝国』となり最終的に『ドイツ国民の神聖ローマ帝国』とよばれるようになったようです)となった国がその元となるのですが、どうしてドイツがローマ帝国になるのか、あるいはどうしてローマ帝国がドイツになるのか、というあたりも説明してあります。

イギリスやフランスであれば、イギリスやフランスという国があり、イギリス人・フランス人がいて英語・フランス語という言語があるということなのですが、ドイツの場合、神聖ローマ帝国と、それを構成する何百かの領地(王国とか侯国とか)や都市(自由都市とか司教座とか)はあるものの、1871年に普仏戦争でプロシアがフランスに勝利し、攻めていったフランスのパリ郊外のベルサイユ宮殿でドイツ帝国の成立を宣言するまで、ドイツという国はなかったということです。ドイツ語もドイツ国民の言葉、あるいはドイツ人の言葉というよりむしろドイツ語を話す人をドイツ人と言おう、ドイツ語を話す人の国をドイツと言おう、というくらいの位置付けです。

フランス革命とナポレオン戦争により国民国家というイデオロギーが生まれ、その影響、ドイツでは、ドイツ語を作ろう、ドイツ人を作ろう、ドイツという国を作ろうという活動が一気に進展し、その結果できたのがドイツ語でありドイツ人であり、ドイツという国になるんですが、このような経緯から、それらの範囲はうまく重なり合わないままです。

そのため、たとえばドイツ人の住む国をドイツという国にしようとすれば、とてつもない拡張政策となり、ヒトラーのやったように近隣の国々を次々に飲み込んでいく勢いになります。ドイツという国をドイツ人の住む国にしようとすれば、これまたヒトラーがやったようにドイツ人以外の民族を追放する、あるいは殺害して民族浄化をはかるというとんでもないことになるわけです。

この本はそのようにしてできた、ドイツ帝国から産業革命によりイギリスを上回る工業国となったドイツが第一次大戦で敗れ、その後復興してヒトラーのドイツとなり、世界征服を目指したものの第二次大戦でまたまた敗れ、その後東西に分割されたものが再び統一され、EUの中核として重きをなしている現在の姿まで、丁寧に説明しています。

去年の秋に出版されたものなので、ごく直近の出来事までカバーしています。ドイツという国の古代から現代にいたる全体像が良くわかります。

ドイツという国はヨーロッパの中で一体どのような国なのか、ドイツの外にいるドイツ人をどうするのか、ドイツの外にいるドイツ語を話す人々をどのように捉えたら良いか、という問題意識、逆にドイツはEUの中でも移民・難民を受け入れている国ですが、このドイツの中のドイツ人でない人、ドイツ語を話さない人をどのように扱うか、という問題も抱えている国です。

英国のEU離脱の意思表明、他のEU加盟国でのEU離脱を主張する政党の躍進という状況下、今後のEUの行方を考える上で重要な本だと思います。

お勧めします。

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