これは明石書店のエリアスタディーズのうちの1冊として、去年の12月に出たばかりの本です。例によって図書館の『新しく入った本』コーナーでみつけました。
イタリアの歴史は塩野七生さんの『ローマ人の物語』のあたりは楽しく読んだのですが、その後ローマ帝国が東に移って東西に分かれ、その後西ローマ帝国が滅亡して以降はいろんな国が乱立し良く分からなかったのですが、この本ですっきりしました。
中世の都市国家の話の所で『ポポロ』という言葉が出てきて、以前憲法学者の樋口陽一さんの本を読んだ時に『市民』と『人民』という言葉の使い分けをしていたのが何のことか分からなかったのが、ようやく分かりました。即ち大雑把に言うと、『市民』というのは都市の市民権を持ち、納税や兵役の義務を負う代わりに参政権その他の権利を持っている少数の人達。『人民』というのは、その都市に住んでいるだけで何の権利も義務もない一般庶民のことだと分かって、樋口さんの言っていたのが、憲法の基本的人権というのがその『市民』に関するものなのか、『人民』全員に関するものなのかという話なんだとようやく納得しました。日本では『市民』も『人民』も同じようなものですが、やはり中世の都市国家を経験してきているヨーロッパの国々では、この言葉の違いに敏感なんでしょうね。
イタリアは明治維新の頃、小さな国に分かれていたのがようやく統一されてイタリア王国になっているんですが、これもたまたまあれよあれよという話だった、ということです。その当時、元々はまずは北イタリアだけでも統一しようとしていた所、南の方もあっという間に統一できてしまい、間に挟まった教皇領もついでに統一してイタリア王国になったんだというあたりも面白い話でした。
第二次大戦で『日独伊が敗戦国』というのが日本では一般的な認識ですが、イタリアではイタリアは敗戦国ではなく戦勝国だ、と認識されているというのも初耳でした。
イタリアはムッソリーニのファシスト党の下、ドイツ・日本と手を組んで戦争をしてたのですが、その途中でイタリアの王様はムッソリーニを捕まえて閉じ込めていたのをヒトラーのナチスがそれを取り返して北イタリアに新しい国を作り、イタリア国内ではムッソリーニ対レジスタンスという戦争をやっていて、結局レジスタンス側が連合国軍(アメリカやイギリス)と一緒になってムッソリーニを倒した。だからイタリアは連合国側で、戦勝国だということになるようです。すなわち日本とドイツは連合国に敗れた、ムッソーリニのファシストはイタリア人のレジスタントに敗れた、というわけです。
そのムッソリーニのファシズムについても、ファッシとかファッショというのは暴力団とか警防団とかの『団』という意味の言葉で(ファッショの複数形がファッシだということです)、ムッソリーニのファシスト党というのはもともとイタリア戦闘ファッシ(戦闘団)という名前だったとか、そのファシスト党には地方の親分みたいな人もたくさんいて、それぞれの地方で労働組合運動に殴り込みをかけたりしていて、必ずしもムッソリーニにおとなしく従っていたわけではなく、ヒトラーのナチスとはまるで違うものだというのも面白かったです。
少し前に読んだ『ファシズム』に関する本ではまるでわからなかったのが、この『暴力団の団のことだ』という説明で一気にすっきりしました。
というわけで、かなり内容豊富で読むのは大変ですが、読みやすそうな所だけ目を通すというのでも楽しく読めると思います。私としては思いがけない収穫が盛りだくさんの本でした。