『雑草はなぜそこに生えているのか』ー稲垣栄洋

稲垣さんのちくまプライマリー新書の2冊目はこの雑草の本です。
この本を読んで、なるほど雑草こそ植物の進化の頂点にある存在だな、と納得しました。

著者の稲垣さんは専攻を『雑草生態学』というくらいあって『へー』と驚く話が満載です。しかもこの雑草というのがとんでもない融通無碍の生物で、普通の植物の常識を平気で覆しているという話がいくつも紹介されています。

まず雑草は大量の種子をバラ撒くことが特徴で、イギリスのコムギ畑の調査で、1平方メートルあたりの土の中に雑草の種子が75,000粒あったということで、この種子が一斉に開花するのであれば駆除するのも簡単なのですが、これがてんでんばらばらに好き勝手のタイミングで開花するので、『取っても取っても生えてくる』ということになります。

またゴルフ場に生える『スズメノカタビラ』という雑草では、ゴルフ場の芝の刈り揃える高さに応じ、その高さよりちょっと低い高さで穂を出す、という話があります。それぞれの場所で種子を取り、それを育ててみると、まわりに芝がないにも関わらず、あった芝の高さよりちょっと低い所まで育つようになっている。即ちそのように遺伝的に変異しているということです。

かと思えば、同じ植物が環境に応じて高さ数センチになったり数メートルになったり自由自在に生育する、それどころか開花時期も春のはずのものが秋に咲いたり、越年生の草が平気で一年生の草になったりしているようです。

『雑草とは何か』という定義の所で
不良環境下でも種子を残し、好適環境下では種子を多産する
というのがあるそうで、また
雑草は未だにその価値を見出されていない植物である。
というのも、イネやムギ等も、もともと雑草だったものが人の手で選択・改良されていったものだという事から良く分かります。

よく『雑草は踏まれても踏まれても立ち上がる』なんて言葉が言われたりしますが、これは間違いで、実際は雑草はそんな無駄なことはしない。立ち上がるなんて余計なことはしないで『雑草は踏まれても踏まれても必ず花を咲かせ、種子を残す』ということだという事で、納得です。

最後に著者自身による略歴が付いています。専攻は雑草生態学となっているけれど、大学を卒業するときに雑草学の研究室ができたので、せっかく決まっていた留学の話をドタキャンして大学院に進学し、大学院を出てから農林水産省・静岡県農林技術研究所等で働いて、雑草そのものの研究はしてこなかったけれど、それがすべて雑草研究に役立っているというのは面白い話です。

中高生向きに書かれていて、読みやすい本です。
お勧めします。

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