Maxwellの『電磁気学』

かなり前からファイマンの物理学Ⅲ卷の電磁気学を読んでいるのですが、何とも心もとない感じです。説明を読み数式を追うことはできるのですが、どうしても『だから何』という感がぬぐえません。Ⅰ卷の『力学』の時にはこんなことはなかったのですが。

この本の第2章の最初に
『数学者や非常に数学的な心を持つ人は物理を“勉強”する時に迷ってしまうが、それは物理学を見失うからである』
『彼らは言う。“いいですか、これらの微分方程式-マクスウェル方程式-は電磁気学のすべてです。方程式に含まれていないものは何もないと物理学者は言います。なるほど方程式は複雑ですが、要するに数学的な等式に過ぎません。したがって方程式を数学的に理解し尽くせば物理学を理解することになる筈です。” 残念なことにそうはいかない・・・現実の世界の物理的状態は非常に複雑であるので、方程式のもっと深い理解が必要となる。・・・物理的な理解は全く非数学的、不確実で不正確なものであるが、物理学者にとって絶対に必要である。』

と書いてあります。もちろん私は数学者でもないし、非常に数学的な心を持っているわけでもありませんが、この物理学を『見失』なっているというのはそうかも知れないと思っています。いずれにしても物理的な理解がないことは確かそうです。
この部分、この本の最初のほうに書いてあるので、その時はそれほど気にせずに読み進めたのですが、読み進むうちにやっぱりそうだな、と思うようになりました。

苦し紛れにファイマンの本以外の本もいろいろつまみ食いしてみたのですが、この見失っている物理学の姿がなかなか見えて来ません。で、ついにこれはMaxwellの本を読んでみるしかないか、と思うに至りました。

Maxwell の電磁気学の本は『A TREATISE ON ELECTRICITY AND MAGNETISM』というタイトルで、日本語訳の本もありそうなのです(そう思っていたのですが、どうもこれはこの本の訳ではなく、Maxwellがマクスウェルの方程式を最初に発表した論文のほうの訳のようです)が、分からなくなった時に原文がわからないのか訳が分からないのか悩むのも面倒なので、この際英語だから何とかなるかも知れないと思い探してみました。ネットで検索するとこの本のpdf版がいくらでもあるので、これを印刷してしまえば良いんだと思いました。この本はⅠとⅡの2巻本で、どちらも500頁位です。幸いオフィスには会社時代使っていたレーザープリンターもまだあるし、ということで、まずⅠの方を印刷し、それでやめておこうかとも思ったのですが、この際ついでにという事でⅡの方も印刷してしまいました。まあ1日10頁読めば50日で1巻読めるので、半年もあればうまく行けばⅠⅡ卷とも読める、というトラヌタヌキの計算です。

電磁気学のマクスウェルの方程式はベクトル表現が使われていないので、今は4つの方程式になるものが20個もの方程式になっている、なんて話もあるので、そこらへんも確認してみようと思っていたら、何の事はない、本全体がPart ⅠからPart IVまでの4部構成の、その前にPreliminaryとしてベクトルの話がきちんと説明してあり、ストークスの定理・ガウスの定理などもちゃんと書いてあります。

またいろんな単位と次元の話もきちんと説明されています。前書きの最後の日付を見ると1873年2月1日となっていて、この本が書かれたのがちょうど150年前、フランスではもうメートル法が制定され、メートル原器も作られていて、イギリスではヤード・ポンド法でその原器も作られていて、国によって単位が違っても間違わないようにするために長さ・質料・時間の次元をL,M,Tで表して、常に単位と数量をはっきりさせるなんて話もきちんと書いてあります。

この時代、ハミルトンが四元数を発明(発見)していろいろ研究していた時代で、ベクトルの説明でも四元数を使ってスカラーと三次元ベクトルを統一的に扱うやり方もきちんと説明しています。残念ながら今では普通の数学の本でも物理の本でも、この四元数を使ってスカラーとベクトルを統一的に扱うということをきちんと書いてある本は殆どなくなってしまっているようです。

で、電磁気学の本ですから線積分や面積分の話が出てきて、面の向きを決めるという話になるのですが、ここで右ネジ(我々が普通に使う、右に回すと前に進むという形のネジやボルトのことです)の話が出てきて、注釈に、『今では文明国ではすべての国でこのネジの方向で統一されているけれど、文明国の中では日本だけが例外だ』ということが書いてあり、びっくりしました。150年前というのは明治維新のすぐあとの話で、この時すでに日本は文明国として認知されていたんだ、という事と、日本のネジの向きのことまでマクスウェルはどうして知っていたんだろう、なんて、不思議な話です。

このあたり、日本におけるネジの向きに関することについて、知っている人がいたら教えて下さい。

とまれもうすでにトラヌタヌキの計算は破綻して予定通り進んでいないのですが、新しい発見がいろいろあり(たとえば今はdivergence《発散》と言っているものを、この本ではマイナスを付けてconvergence《収束》と言って使っています。4元数をベースにした考え方では、ベクトルとベクトルの4元数としての積は、スカラー成分がベクトルの直積(内積)のマイナス、ベクトル成分がベクトルの外積となります。)、面白く読めそうです。

で、この本でもMaxwellは、物理学のイメージをしっかりつかむために、この本を読み終わったら是非ともファラデーの論文を読むように勧めています。多分ファラデーの論文というのはいくつもの論文に分かれていて、一つ一つは面白いと思うのですが、全体を通してまとめられているわけでもなさそうなので、やはりまずはこの本を読み、無事読み終わったらファラデーの方も読んでみようか、と思います。何年かかることかわかりませんが。

もし興味がある方がいたら読んでみて下さい。

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