渡鬼(わたおに)

『渡る世間は鬼ばかり』、略して「渡鬼(わたおに)」がまた終わったようですね。

この国民的テレビドラマ、私はそれほど熱心なファンというわけではないのですが、それでも所々見る機会がありました。

改めて「お金がかからなそうなドラマだな」と思いました。何しろいくつかの毎回おなじみのセットで、登場人物が立ったり座ったりしたまま、ひたすら長広舌の台詞を言い続けるだけのドラマですから、俳優さんの出演料以外はあまりお金がかからなそうです。

このドラマ、何がそんなに人気なんだろうと昔質問されたことがありました。二、三日くらいかけて私なりの結論を出した時には、改めて「あの時の質問に答えます」なんて程のこともないのでそのままになっていたんですが、思い出したのでここに書いてみます。

このドラマは台詞がとてつもなく長いのが一つの特徴となっているのですが、私が気がついたのは、この長い台詞、どの登場人物も全て自信たっぷりに自分勝手なんです。

その自分勝手な登場人物が自信たっぷりに自分の正しさを長々と主張するわけです。よっぽど頭の良い人じゃないと、そんなに長々と自己主張することはできませんし、普通はしゃべり始めてしばらくすると、あっちからもこっちからも他の人がしゃべり始めて、それほど長々しい台詞をしゃべることはできません。

その点このドラマではまわりの人が邪魔をしないので、心行くばかり長広舌を繰り広げることができるというわけです。

自分と同じ立場の登場人物が、普段自分が思っていてもなかなか言えないことを、自分の代わりに正々堂々と筋道立てて主張してくれるというのは、たまらない快感なのかも知れません。

と同時に、自分としては許せないような他の登場人物の自分勝手な長広舌を、さえぎることもできず延々と聞かされると、とてつもなくフラストレーションがたまってしまいます。

この両方、いずれにしても「もう一度」「もう一度」と、テレビから離れられなくなってしまうのかも知れません。

その昔このドラマが最初に始まった頃には、あまり自分勝手な自己主張というのは「はしたない」とか、「みっともない」とか思われていたと思いますが、今ではテレビをつけてもインターネットの書き込みでも、自分勝手は自己主張のオンパレードです。

その意味でこのドラマは時代をちょっと先取りしたドラマで、これが人気の秘密ではないか、と思います。

世の中自体がこのように自分勝手な自己主張だらけになってしまって、このドラマがもう一度再開するなんてことはあるんでしょうか。

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