ケインズ・・・3回目

ケインズの一般理論、まずは有名な「投資=貯蓄」の所です。

ここの所、ケインズの本の説明だけでは良くわからないので、会計の方からのアプローチで自分流にやってみました。

これは数学の本を読むときなどよくやる手で、本に書いてある定理の証明がしっくりこないで良くわからない時など、その本の証明を無視して自分なりに直接その定理を証明して、うまく証明できればその定理が正しいことが確認できたので先に進むというやり方です。

ケインズの言っているのは
 所得=投資+消費
 貯蓄=所得-消費
だから、自動的に貯蓄=投資、となる。

ということで、そのために所得・投資・消費・貯蓄のそれぞれについて、きちんと定義しようとしています。

でも基本的にこれは会計の言葉として解釈できますし、会計というのは経済活動を記録するための道具ですから、会計の言葉で表現した方が話がわかりやすくなります。

ケインズは社会全体で上の式が成立つと言っています。

経済的に閉じている社会で、任意の一定の期間についてこの式が成立つのであれば、経済活動を個々の会計取引に分解しておいて、一つの会計取引だけが発生した一瞬についてもこの式が成立つはずです。そして一つ一つの会計取引でこの式が成立つことがわかれば、一定期間の会計取引の参加者全員を含む社会で考えれば、その社会全体でもこの式が成立つことになります。

こう考えて一つ一つの経済活動についてこの式が成立つことを確認したのですが、その過程で所得・投資・消費・貯蓄の言葉の定義も明確になりました。

まず社会を「企業」と「消費者」に分けます。企業というのは物を仕入れて売ったり原料を買って製品を作って売ったりして、儲ける人です。消費者というのは働いて給料を稼ぎ、そのお金で何か物やサービスを買って消費する人です。政府とか銀行とか金利生活者なんてのは後から出て来ますが、とりあえずは企業と消費者だけで考えます。

その企業、原文では「entrepreneur」という単語を使っていて、今なら「起業家」となる言葉ですが、意味としては「起業家」・「事業家」となります。で、いろんな翻訳でもこれらの言葉を使っているのですが、でもケインズの時代と違って今のように法人資本主義の世界では、むしろ「企業」とした方が正しい解釈だと思います。

まず「所得」ですが、これは企業の場合はその期間の儲け、「利益」です。消費者の場合はその期間の稼ぎ、労賃とか給与とかの「収入」です。これはごく普通の意味ですから、特に問題はありません。これを社会全体の企業と消費者について合計したのがケインズの言う「所得」です。

次に「投資」ですが、これは株に投資する・ベンチャーに投資する、という投資ではありません。企業の活動でいう在庫投資や設備投資、すなわち商品を仕入れたり、製品にするために原料を買ったり労賃を使ったり製品を作ったり、、あるいは製品を作るために工場を作ったり機械を買ったり、という意味の投資です。それで一定期間の所得と対比させるわけですから、その投資の残高のことではなく、その増減の額のことです。

「消費」というのは消費者が物やサービスを買って、お金を使うことです。その使ってしまったお金が消費です。

企業の場合は物やサービスを買ってお金を使っても、それが費用となる場合はマイナスの所得ということになるので、消費にはなりません。費用とならないで資産となる場合には、それは在庫投資になるか設備投資になるか、いずれにしても投資になります。そんなわけで、企業の方には消費は発生しません。売れ残りが発生しても、それが売れ残っている限り在庫投資として「投資」になります。見切りをつけて廃棄したら、廃棄損で所得のマイナスです。

「貯蓄」というのはケインズが「所得-消費」と定義しています。ですからこれも貯蓄の残高じゃあなくて、貯蓄の増減の額ですね。

「消費」は企業にはないので、企業では「貯蓄=所得」ですね。その期間の稼ぎのうち一部は投資に回っていて、一部はまだ使わずに現金のままかも知れませんが、それをひっくるめて「貯蓄」というわけです。

消費者の方は「貯蓄=所得-消費」ですから、その期間の稼ぎから使っちゃった額を差引いた残り、ということで、まさに貯蓄の意味そのものですね。まだ使ってないお金が財布の中に入ってようとへそくりで本棚に隠してあろうと銀行に預金しようと株を買おうと、みんな「貯蓄」ということになります。

このように言葉の定義をはっきりさせておいて、たとえばある消費者がある企業から100円の品物(たとえば缶コーヒー)を買って、その企業の売上原価が30円だというケースを考えてみます。

この取引だけについて、所得・投資・消費・貯著を計算すると
企業の方は
  所得=売上-売上原価=100-30=  70
  投資=在庫が30円少なくなったから= -30
  消費=   0
  貯蓄=所得=  70
消費者の方は
  所得=    0
  投資=    0
  消費=  100
  貯蓄=所得-消費= -100
合計すると
  所得=70+0=      70
  投資=-30+0= -30
  消費=0+100=  100
  貯蓄=70-100= -30
となり、
  所得=投資+消費
  貯蓄=投資
となっています。メデタシメデタシ。

ここで、貯蓄=投資について、
  貯蓄=70-100
  投資=-30+0
と、貯蓄と投資はその発生する場所で額が異なるけれど、合計すると額が等しくなる、というのがミソです。

こんな具合に他のケースについても計算してやると、全てのケースでケインズの式はOKです。

私がやってみたのは、
 ・企業が消費者に給料を払って、それは企業の費用になった。
 ・企業が消費者に給料を払って、それは製品の原価として投資になった。
 ・企業が企業から何かを買って、在庫にした。
 ・企業が企業から何かを買って、設備投資にした。
 ・企業が企業から何かを買って、経費にした。
 ・消費者が企業から何かを買った(上のケース)。
 ・消費者が消費者に何かをしてもらって謝礼を払った。
というくらいのケースです。

企業や消費者間の取引は分解してしまえばこんなものの組合せですから、これでケインズの言っているのが正しいということがわかります。

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