『精神と物質』 立花隆・利根川進 著

小保方さんのSTAP細胞で相変わらず大騒ぎですが、そのニュースの中でSTAP細胞の遺伝子を調べると、その元となった細胞がわかるんだ、みたいなことが書いてあります。

私の理解では生物の細胞の遺伝子は、どの細胞を取っても全く同じだということになっていたはずなので、これは何を言っているんだろうとわからなくなりました。

こういう時は専門家に聞くに限ります。幸いに私の友人でメダカを研究して大学の先生をやっている人がいるので、早速質問しました。その答えは
【普通の細胞はDNAは変わらないけれど、免疫細胞は「遺伝子の再構成」というのを受けてDNAが変わる。これが利根川さんがノーベル賞をもらった研究だ】
ということでした。

で、何でも質問というのも失礼ですからまずは自分で勉強しようと参考書を紹介してもらった所、回答が
 【たとえばワトソンの「遺伝子の分子生物学」には触れられていますが、そんな教科書はあまり面白くないと思われます。アマゾンで検索すると、立花隆・利根川進の共著(対談)の「精神と物質」というのがあり、多分何か触れられていると思われます(私はもちろん読んでません)。】
とのことです。
早速図書館で予約して借りてきました。

ワトソンの「遺伝子の分子生物学」は確かに、まず一般人は読みそうにない立派な教科書です。何しろDNAについてだけでA4版本文だけで800ページもの本で立派な紙を使っているので、かなり重い本です。私の読書は通勤の電車の中のウェイトがかなり大きいので、本の大きさや重さは重要な要素です。こんなんとても読めたものじゃないのですが、実はほとんど各ページに絵や図が付いていて、本文を読まなくてもその絵や図とその説明だけ読んでもなかなか面白そうです。でも通勤に持ち歩くのはちょっとしんどいので、もう一方の立花さんと利根川さんの方をまず読みました。これが何とも面白いので紹介します。

この本は利根川さんがノーベル賞を貰ったのをきっかけに立花さんが利根川さんの所に押しかけ、対談というかインタビューというか個人教授というか、そんな形で教えてもらった内容を本にしているもので、最初文芸春秋に何回かに分けて連載され、それを単行本にしてまた文庫本にしたもののようです。

立花さんも若く、自分の勉強をひけらかすこともなく利根川さんの話をおとなしく聞き、適当な所でその話をうまくまとめ、また的確な質問をして全体にまとまりをつけることに専念しているし、利根川さんはざっくばらんに何でも話していて、研究者の実験が実は厖大なルーチンワークの肉体労働で、それをこなしながら運が良ければ素晴らしい結果にめぐり合うという話を、実際に自分がやった研究について具体的に説明しています。多分今では資料となる細胞を機械にかければあっという間にDNAの配列がデータになり、印刷しようと思えば印刷できるような形になる(全部印刷しようとしたらとんでもないページ数になってしまう)という作業が、その昔すべて手作業で行われていて、その作業の具体的な仕組みがどうなっていて、その一つ一つをどのように発明・発見して積み重ねてきたのか、というあたりが生々しく語られていて、とても面白い読み物です。

一生懸命やった実験がノーベル賞をもたらす成果につながるわけでもないし、ついでにやった実験がノーベル賞をもたらす成果につながったり、その過程でその昔そんなつもりはまるでなしにやった実験がたまたま大いに役に立ったりと、なかなか波乱万丈の物語になっています。

小保方さんのコピペだ、写真の切り貼りだ、なんてつまらない話よりはるかに面白い本でした。

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