砂川事件の最高裁の判決書

安保法制で話題になっているので、まだ読んだことがなかったなと思い、砂川事件の最高裁の判決を読んでみました。

探すのがめんどくさいかなと思っていたのですが、ネットで検察すると一発で最高裁の判例のページからこの判決文のpdfファイルが手に入りました。

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/816/055816_hanrei.pdf

全部52でページ、なかなか読みごたえがありますが、本文は大したことはありません。
主文は
  原判決を破棄する。
  本件を東京地方裁判所に差し戻す。
の2行だけですから、これだけじゃ何もわかりません。
これに続く『理由』の所が50頁あるわけですが、その本文は5頁半です。残りはこの判決に参加した裁判官の補足意見です。この裁判は最高裁の裁判官全員参加の大法廷の裁判なので、裁判官は全部で15人います。そのうち10人の裁判官が8つの補足意見を出しているので、それだけで45ページということです。

事件自体はどうということのない事件で、米軍基地に日本人が不法に入り込んだ、ということなのですが、それを最初の裁判で『もともと日本に米軍基地があるのが憲法違反だから不法に立ち入ったのは無罪』としてしまったため大騒ぎになった、という事件です。

で、この最高裁の上告審の結論は『憲法違反なんて何アホなことを言ってるんだ、頭を冷やして裁判をやり直せ』というだけのことなのですが、その結論を出すまで日本の自衛権と憲法の関係とか憲法と条約の関係とか立法(国会)・行政(政府)と司法(裁判所)の関係とか、いろいろ面白い議論が展開されていて、さらに現行の憲法の下での自衛権について最高裁が判断を示した唯一の判例だということで、有名になっているものです。

で、この判決文、ちょっと長いですが、非常に面白くあっと言う間に読めてしまいます。時間がなければ少なくとも最初の本文の所と、次の裁判長の田中耕太郎さんの意見の所だけでも読んでみて下さい。この2つで10頁半ですからすぐ読めます。特に田中さんの意見の所を読むと、今の自民党の案がいかにおとなしいものか良く分かります。

憲法学者や反安倍の政治家が、この判決では『自衛権と言って個別的自衛権か集団的自衛権か言っていないんだから、集団的自衛権は認められない』なんてことを言ってますが、それは明らかに嘘だということが良く分かります。この判決文には『自衛権』という言葉と『個別的自衛権』という言葉と『集団的自衛権』という言葉が出てきます。この三つが全て出てきて、その中で『自衛権』という言葉が出てきたら、それは『個別的自衛権と集団的自衛権を合わせた、全体としての自衛権を意味する』というのは、日本語の読み書きが分かれば当然の話で、ここに集団的自衛権と書いてないから集団的自衛権は除くんだ、なんてことはあり得ません。

もちろん憲法学者は日本語があまり得意じゃないようなので、そこらへんが分からない人もいるかも知れませんが、政治家でそこらへんを分からない人がいたら、その人はもう政治家をやめた方が良いと思います。

で、この判決の主旨は個別的であろうと集団的であろうと、自衛権は憲法9条に違反するものではないということと、その自衛権を具体的にどのように実現するかというのは政治的な話なので、裁判所が判断することではない、ということです。

この裁判の裁判官達はちゃんと三権分立の原理を理解しているので、裁判所が勝手に国会の立法権や政府の行政権に介入することは三権分立に反して憲法違反になる、と判断しています。その点、三権分立を理解しないで憲法違反の発言を繰り返す憲法学者や野党の弁護士政治家たちとは違います。

裁判長の田中さんの意見を読むと、もっと面白くなります。この人によると、自衛というのは権利であると同時に義務でもある。『一国の自衛は国際社会における道義的義務でもある。』と言っています。さらにその防衛する対象が自国なのか他国なのかというのは結果的に同じことになるので、『(従って)自国の防衛にしろ他国の防衛への協力にしろ、各国はこれについて義務を負担しているものと認められるのである。』と言っています。

さらに『防衛の義務はとくに条約をまって生ずるものではなく、また履行を強制しうる性質のものでもない。』と言っています。すなわち、安保条約のような条約を結んでいる相手の国だけでなく、そんな条約を結んでいない国であっても、その国が攻撃される時には防衛に協力する必要があると言っています。

『憲法9条の平和主義の精神は、憲法前文の理念と相まって不動である。それは侵略戦争と国際紛争解決のための武力行使を永久に放棄する。しかしこれによって我が国が平和と安全のための国際協同体に対する義務を当然免除されたものと誤解してはならない。』と明確にしています。

そして最後に『要するに我々は憲法の平和主義を単なる一国家だけの観点からでなく、それを超える立場すなわち世界法的次元に立って民主的な平和愛好諸国の法的確信に合致するように解釈しなければならない。自国の防衛を全然考慮しない態度はもちろん、これだけを考えて他の国々の防衛に熱意と関心を持たない態度も、憲法前文にいわゆる「自国のことのみに専念」する国家的利己主義であって、真の平和主義に忠実なものとは言えない。』としています。

この他にも面白いコメントがたくさんある判決文です。
お勧めします。

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