『相対的貧困率』その2

『相対的貧困率に関する調査分析結果について』というレポートがあります。
http://www.stat.go.jp/data/zensho/2009/pdf/hinkonritsu.pdf 

平成27年12月18日付で内閣府・総務省・厚労省が連名で出したものです。

国の統計としての相対的貧困率は、総務省の『全国消費実態調査』にもとづくものと、厚労省の『国民生活基礎調査』にもとづくものと、2つあります。
で、『国民生活基礎調査』にもとづくものの、直近(2012年)の国民全体の相対的貧困率は16.1%(6人に一人が貧困)、一方全国消費実態調査にもとづくものの、直近(2009年)の国民全体の相対的貧困率は10.1%(10人に一人が貧困)となっています。

16.1%と10.1%とどちらが正しいのか、ここまで大きな差異が生じている原因は何か、等々について調査分析した結果がこのレポートです。

調査のやり方やサンプルの対象の違いなど、いろいろ考えて専門家の意見を聞いたりして分析していますが、まとめてしまうと、要するに「良くわからない」ということになるようです。

野党はこの国民生活基礎調査の方を使って『6人に一人が貧困だというのをどうするんだ』と安倍さんを責めたて、安倍さんは全国消費実態調査を引き合いに、『10人に一人という統計もあるんだ』と返答しているわけです。

で、このレポートを読んでみると、確かに『良く分からない』という結論が正しそうです。

すなわち、『相対的貧困率』というのはこの程度の(やり方によっては16%になったり、別のやり方では10%になったりする)指標なんだ、と理解するのが良さそうです。

調査年によって多少の変動はありますが、1999年以降、国民生活基礎調査の方の相対的貧困率(3年ごとの調査)はほぼ15~16%程度で安定しており、また全国消費実態調査の方(5年ごとの調査)は、ほぼ9~10%で安定しています。

全国消費実態調査の方は、単身所帯の学生を調査対象としていない(国民生活基礎調査の方は調査対象としている)という違いはあっても、それで相対的貧困率が6%も変わるとはとても思えません。

で、このレポートには、貧困率の基準となる貧困線の額が、それぞれの統計について出ています。全国消費実態調査の方は135万円、国民生活基礎調査の方は122万円です。

この2つの調査の結果を総合すると、国民のうち等価可処分所得が135万円を下回る人の割合が10.1%で、122万円を下回る人の割合は16.1%だ、ということになります。

言い換えれば6%の人は等価可処分所得が135万円より多くて122万円より少ない、という、まったくあり得ない話です。

なお、また別の調査ですが、全国大学生活協同組合連合会の行なっている『学生生活実態調査』というものがあります。この2014年の調査によると、下宿生の1ヵ月の収入の平均は122,170円ということです。年収にして140万円位です。

通常、中央値が平均値より小さくなることを考慮すると、一人暮らしの学生の半分は貧困線の122万円ないし135万円を下回る収入しかないんだろうと思われます。すなわち、『一人暮らしの学生の半分は貧困だ』ということです。

これが感覚的に受け入れられる話かどうか、ということですが、子供の6人に一人が貧困だという話は良く出てきますが、一人暮らしの学生の2人に一人は貧困だというような話はあまり聞きません。通常の感覚とはずれているため、説得力がないということでしょうか。

いずれにしても、『相対的貧困率という指標はこのような(この程度の)ものだ』と認識しておく必要がありそうです。

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