『論語』 

前々回、孔子に関する駒田さんの本を紹介しましたが、この本を読んで、『論語』の読み方について専門の儒学者達がいかに好き勝手あるいはいい加減に論語を読んでいるか知り、これなら自分も自分勝手に読んでみようか、と思うようになりました。

『論語』については解説書や断片的な本はこれまでも色々読んでいますが、全体を読んだことはありません。で、『論語』全体を読んでみようか、と思い至りました。

となるとどの本を読むかですが、基本的に原文・読み下し文・現代語訳という3点構成になっているのは共通で、著名な中国語学者・中国文学者・中国哲学者による全訳はいくつも出ています。

この前の本の流れで、できれば駒田信二さんの本があれば良いのですが、どうもそのようなものはなさそうです。

となると次の候補は加地伸行さんの本です。
加地伸行さんというのは儒学者であり、仏教の専門家であり中国語学者であり、予備校で漢文の人気講師でもあった人で、儒教に関する解説書もいくつも書いている人です。

この人の『論語 - 全訳注』というのが講談社学術文庫から出ています。
文庫本542頁で、うち100頁弱が索引になっています。
漢字一字で検索できる『手がかり索引』26頁、良く引用される、例えば『朋(トモ)遠方より来たるあり』のような『語句索引』55頁、さらに『人名索引』5ページ。これだけ索引が付いていると有難いです。さらに本文中の注にはかなりの数の図が付いています。

で、この本を基本として読んでいこうと思うのですが、論語というのは孔子およびその弟子たちの断片的な言行録の寄せ集めですから、順番に読んでいく必要は全くありません。適当に開いてみて気にいった語句が出てきた所でその語句を紹介していこうと思います。もちろんその解釈にはいろいろ専門家の説もありますが、それはあくまで参考までということにして、自分勝手に解釈して自分勝手に気に入ったものを紹介していこうと思います。

で、その最初が『先行(まずおこなう)』という為政第二の第13節の言葉です。
節の全体は『子貢問君子。子曰、先行。其言而後従之。』で、読み下しは『子貢、君子を問う。子曰く、先ず行なう。その言や而(シカ)る後に之に従う、と。』となっています。
ここで『先行』で文を区切るのはどちらかというと少数派のようで、普通は『先行基言』で区切るようです。意味は言いたい事をまずやってみせて、その後で言葉で説明しろ、というような有言実行の主張のようですが、私の解釈は『まず動いてしまえ。説明は(言い訳は、理屈は、正当化は)後でどうにでもなる』です。こう読むことによって、聖人君子ではない行動の人、孔子の面目躍如となります。この言葉、なかなか気に入りました。

次は『無倦(うむなかれ)』です。
これは子路第十三の第1節の言葉です。節の全体は『子路問政。子曰、先之、労之。請益。曰、無倦。』で、読み下しは『子路、政を問う。子曰く、これに先んじ、これに労す、と。益さんことを請(コ)う。曰く、倦(ウ)むなかれ、と。』となります。子路が孔子に政について質問した。孔子の答は『先頭に立って行い、一生懸命やる事だ』。子路に、さらにもう一言、と言われて『あきずにやり続けろ。』と答えた、ということです。この『倦むなかれ』、なかなか味わい深い言葉です。

三つめに『父為子隠、子為父隠。(父は子のために隠し、子は父のために隠す)』という言葉で、子路第十三の第18節にあります。
葉公(ショウコウ)という殿様が孔子に向かって『自分の所には正直者がいて、父が羊を盗んだら子がそれを(父がやった、と)証言した』と自慢したのに対し、孔子は『自分の所では父が子のために隠し、子は父のために隠します。これが正直者です』と答えた、ということです。
この言葉、長い間イマイチ納得できなったのですが、最近の習近平やプーチンの行動を見ていて、ようやくなるほどそういうものか、孔子の生きていたのはそういう世界なんだ、と得心した次第です。

論語の言葉については今後とも気に入った言葉がみつかったら、随時少しずつ紹介していきたいと思います。

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