『20世紀を振り返り21世紀の世界秩序と日本の役割を構想するための有識者懇談会』が、8月6日に報告書を出しました(http://www.kantei.go.jp/jp/singi/21c_koso/pdf/report.pdf)。
本文だけでA4で38ページのものですが、非常に良くできています。
日本をとりまく近・現代史について、自分の認識を確認するために非常に参考になる報告書です。
全体が6つの部分に分かれています。
最初が『20世紀の世界と日本の歩みをどう考えるか。私達が20世紀の経験から汲むべき教訓は何か。』というタイトルで、全体の歴史の概観です。ヨーロッパ、後にアメリカも含む全体的な帝国主義的な侵略から始まっていて、アヘン戦争もアメリカがスペインから植民地としてフィリピンを奪ったこともちゃんと書いています。
日本が中心になっているため、ヨーロッパによるアフリカ・中東の植民地化、アメリカによる中南米の植民地化については書いていませんが、それはこの報告書の目的には必要ないということでしょうか。
2番目が『日本は、戦後70年間、20世紀の教訓を踏まえて、どのような道を歩んできたのか。特に、戦後日本の平和主義、経済発展、国際貢献をどのように評価するか。』というタイトルで、戦後70年の日本の歩みを総括しています。戦後の復興から次第に経済大国になり、国際貢献を求められるようになって、それにどう応えてきたか、のまとめです。
3は『日本は、戦後70年、米国、豪州、欧州の国々とどのような和解の道を歩んできたか。』というタイトルで、第二次大戦で日本が戦ったアメリカ・オーストラリア・ヨーロッパの国々(イギリス・フランス・オランダ)に対して、日本がどのように和解のプロセスを進めたかということを、アメリカと、オーストラリア・ヨーロッパの2つに分けてまとめています。
4は『日本は戦後70年、中国、韓国をはじめとするアジアの国々とどのような和解の道を歩んできたか。』で、中国、韓国、東南アジアの3つに分けてまとめています。特に中国、韓国については、和解がなかなかうまく進まない状況をうまくまとめています。
5は『20世紀の教訓をふまえて21世紀のアジアと世界のビジョンをどう描くか。日本はどのような貢献をするべきか。』というタイトルで、今後の日本が世界に対してどのように貢献すべきか、考え方をまとめています。
最後の6『戦後70周年に当たって我が国が取るべき具体的施策はどのようなものか。』では、以上を踏まえて具体的なアクションプラン16項目を4つの区分に分けてまとめています。
非常にバランスのとれた、素晴らしい報告書だと思います。
ちょっと不思議なのは、ソ連あるいはロシアに関する言及が殆どなかったことです。これは戦後70年間、日本はソ連あるいはロシアとは直接の交渉があまりなかったからなのかも知れませんが、ちょっと残念です。
特に第二次大戦で、開戦前日本(特に陸軍)が一番気にしていたのがソ連であり、終戦直前から戦後の何年にもわたって苦しめられたのがソ連なのを考えるとちょっと不思議ですが、この報告書が将来に向けてのビジョンを主体としていることを考えると、こうなるのかも知れません。
この報告書は安倍さんの『戦後70年談話』の参考資料として使われることになるわけですが、基本的なスタンスは第二次大戦のことというより、むしろ『戦後70年の歩み』に重点が置かれているので、戦争あるいは敗戦に対する謝罪を求める人には不満なものになるでしょう。
また世界全体に対する視野で書かれているため、中国や特に韓国などは、自分達に関する言及が不十分だ、ウェイトが小さ過ぎると不満だろうな、と感じます。
これだけの様々な分野にわたる十数人が集まって作られた報告書です。このテーマに関心がある人にとっては、読まないと損な報告書だと思います。
お勧めします。