日経新聞の記事『(お金の言葉)大数の法則』

9月23日の日経新聞朝刊に出た記事なので、見た人もいるかも知れません。

『(お金の言葉)大数の法則
サイコロを何回も振れば1の目が出る確率は6分の1に近づく。何度も繰り返すと、ある出来事が発生する確率は一定の値に近づくことを大数の法則という。保険料の計算でもこの原理を使う。どの家が火事になったり、だれが病気になったりするかは予測できないが、多くのデータを調べれば火事や病気の発生する傾向は分かるからだ。

もちろん例外もある。例えば地震。数百年に1度といった大地震では大数の法則は成り立ちにくいため、多くの保険は地震を免責としている。また保険会社はそれぞれの経費や運用の見通しなどを考慮して保険料を決める。ほぼ同じ補償でも保険料が違う商品があるのはこのためだ。』

何となく読み飛ばしても何とも思わないような記事ですが、確率にしても大数の法則にしても、まるでトンデモないことを書いているので、ちょっとコメントします。

『サイコロを何回も振れば1の目が出る確率は6分の1に近づく。』
確率が6分の1に近づくわけではありません。まっとうなサイコロなら1の目が出る確率は6分の1で、振る回数を増やしていけば、振った回数とそのうち1の目が出た回数の比が6分の1に近づく、ということです。

確率が6分の1なら、実際に試した時の比率が6分の1に近づくということです。
もちろん最初まっとうなサイコロだったとしても、使っているうちにすり減ってきたり角が欠けたりしてしまうこともあります。そうなったらもはや1の目の出る確率が6分の1なんてことも言えなくなってしまいますから、大数の法則など成り立たなくなってしまいます。

『何度も繰り返すと、ある出来事が発生する確率は一定の値に近づくことを大数の法則という。』
これも同じです。大数の法則というのは、「ある一定の確率で起こる事を何度も繰り返すと、全体の繰り返した回数とそのうちその出来事が発生した回数の比率が元々の確率に近づく」ということを言うものです。確率が一定として、比率がそれに近づくんです。確率が変化するわけじゃありません。記事では確率と出来事のおこる比率とがごちゃ混ぜになってしまっています。

『保険料の計算でもこの原理を使う。』
確かに保険料の計算には大数の法則を使っていますが、それはこの記事で言っているような大数の法則ではなく、上で説明した大数の法則です。

『どの家が火事になったり、だれが病気になったりするかは予測できないが、多くのデータを調べれば火事や病気の発生する傾向は分かるからだ。』
もちろんどの家が火事になるか、誰が病気になるかは予測できません。保険でいう大数の法則というのは、たとえばたくさんの家を集めてみると、その全体の家の数とそのうち一定期間(たとえば1年)のうちに火事になる家の数の比率は大体同じようなものだということ、あるいはたくさんの人を集めてみると、その全体の人数と、そのうち一定期間(たとえば1年)のうちに病気になる人の数の比率はだいたい同じようなものだ、ということです。

もちろん病気がちの人と健康な人とでは病気になる比率も違うし、若い人と年寄りでも、男の人と女の人でもその比率は違ってきます。そこで、対象となる範囲を限定(たとえば『40歳の健康な男性』などのように)しておいて、その範囲内の人であれば病気になる人の比率は毎年それほど変動しないだろうということを確かめた上で、その範囲の人が1年のうちに病気になる確率をその比率に等しいものと仮定して、その上でその範囲の人をある程度以上の人数集めたら、そのうち1年のうちに病気になる人の数は全体の人数掛けるその確率として計算しても大きくははずれないだろう。これが保険で使っている大数の法則です。

『もちろん例外もある。例えば地震。数百年に1度といった大地震では大数の法則は成り立ちにくいため、多くの保険は地震を免責としている。』
ここの部分、文章の意味が良くわかりません。地震がどのようなことの例外になるんでしょうか。単に地震は保険の対象になりにくいということを言っているんでしょうか。

数百年に一度といった大地震といいますが、大地震は数百年に一度ではありません。東日本大震災・神戸震災・関東大震災も全て、今から100年以内に起きています。また多くの保険で免責となっているのは大地震だけでなく、地震の全てです(免責となっていても保険金を支払うこともあります)。多くの保険で地震が免責となるのは、大数の法則とは別の話です。

地震はその発生のメカニズムもまだ良く分かっていませんし、一定の確率で発生するなんてこともありません。一定の確率で発生するものではないんですから、大数の法則などが成り立つわけがありません。

地震の場合、せいぜい言えるのはその発生の頻度です。今までこれ位の頻度で地震が起こったんだからそろそろ起こっても不思議じゃない、という程度の話です。ですから地震は保険の対象にはなかなかなりませんし、保険の対象にする場合でもその原理は大数の法則とは別のものです。

『また保険会社はそれぞれの経費や運用の見通しなどを考慮して保険料を決める。ほぼ同じ補償でも保険料が違う商品があるのはこのためだ。』
ここの部分、大数の法則がテーマだったはずなのに、いつのまにか保険料の話になってしまっていますね。大数の法則がテーマだとすると、この部分は蛇足ということになりますね。

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