『朝日新聞政治部』―鮫島浩

この本は、1年前に出た時にちょっと話題になった本で、一応どんなものかと思って図書館で予約し、1年経ってようやく借りて読むことができたものです。

この鮫島さんという人は元朝日新聞の記者で、一番有名なのは福島原発の吉田調書のスクープ事件で、福島原発の事故の時の吉田所長の調書を手に入れ、それをとんでもない解釈で朝日新聞の1面トップにのせた、捏造記者、ということで有名な人です。それ以外でもいかにも朝日新聞らしいとんでもないネットの発言で有名な人です。

この本はいわゆる『意識高い系の若者』(どうもこの手の人は、歳をとっても若者以上には成長できないようです)が何をどう考えているか、を知るのに恰好な本になっています。

自分がいかに自分より偉い人に正面からぶつかっていったか、それによって従来のやり方をどのように変えさせていったか、いかに多くの偉い人を知っているか、自分がいかに不当にいじめられてきたか等々、意識高い系の生態が本人の筆で生き生きと表現されています。

本当に自分にとって痛手になるようなことはあえて言及せず、それほどでもない失敗について書きながら、いかにも、自分の失敗を正直に書く自分って凄いだろう、という意識がありありです。

この人が吉田調書問題で社内で事情聴取されている時、『自分が信頼を寄せていた会社が組織をあげて上から襲いかかってくる恐怖は経験した者にしか分からないかも知れない。』と書いていますが、別に今の時代、殺されるわけでもないのに、嫌ならさっさと会社を辞めてしまえばいいだけなのに、意識高い系が、偉そうなことを言いながらいかに自分が属する組織にべったりしがみついているか、良く分かる言葉です。

この人は結局停職2週間、記者としての職を解かれ知的財産室という所に配属され、そこで初めてネット上で朝日新聞がどのように扱われているか見るようになった、という事もかいています。それが2015年の事ですから、それまでほとんどネットを見ないで朝日新聞しか見ていなかった、ということのようです。

『朝日新聞記者の大半は毎朝起きてまずは朝日新聞を読む』と書いています。こんな物を朝一の一番頭が冴えている時に毎朝読んでいたら、頭がおかしくならない訳がありません。納得できる話です。

著者は吉田調書問題で会社の処分を受けながら会社にそのままとどまり続け、記者の身分もすぐに回復してもらい、相変わらず問題を起こし続けて、2021年にようやく会社の早期退職の募集に応じて朝日新聞をやめます。そこまでしてしがみつきたい会社だったというより、会社をやめたらどうして良いか分からなくて不安だったと、ということでしょうね。

早期退職に応募してすぐに有給休暇に入り、約3ヵ月にわたりネットに『記者辞めます』と宣言して、そこに至る事情を毎日書き連ね、退職日に会社から貸与されていたパソコンと社員証を会社に返しに行った、なんて話を自慢そうに書いていますが、退職日が決まりそれまで有休消化が決まっている人にそのまま社員証とパソコンを持たせておくというのも、朝日新聞自体が意識高い系の役立たずの会社だ、ということの現れだと思います。

これを読んだ所で何の役にも立たない本ですが、このような内容の意識高い系の人の自画像に興味がある人にはお勧めします。

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