『武玉川 とくとく清水』田辺聖子

開架式の図書館の良い所は思いもかけない本が目に飛び込んでくることで、この本はオクさんのために軽い読み物を借りていってやろうと見ていてたまたま見つけたものです。

武玉川(ムタマガワ)というのは江戸時代、川柳の柳多留(ヤナギダル)が出版される15年ほど前に、俳諧の連句の中から、前句と切り離してその句だけで味があるものを取り出した句集です。

連句というのは五七五の発句から始まって、五七五には七七の句を、七七には五七五の句を付けていき、20句とか100句とかいろいろな数の句を並べた所で、最後のあげ句に至るという言葉遊びですが、その中から面白い句を選び出しているため、五七五の句も七七の句も入っています。

その中からさらに面白そうな句を取り出し、著者の田辺聖子がコメントをつけるというか解説をしているものです。もともとの武玉川は数百の句がずらっと並んでいるだけのものなので、一つ一つじっくり読んでいくならそれも面白いんでしょうが、この田辺聖子の本はそれをされに選りすぐり、好き勝手な感想を述べているもので、読むほうも好き勝手に面白がることができます。

川柳というのはこの俳諧の連句の練習のため、選者が七七の句をお題として出し、それに付ける五七五の句を募集し、その中から面白いものを集めたものです。

武玉川は連句の中から句を抜き取っているので、それぞれの句にはそれを付ける前句があります。もともとはその前句とそれに付ける付け句の付け方の面白さを楽しむものだったのが、付け方より付けた結果の、付け句自体の面白さを楽しむということで、武玉川の句集ができたようです。そのため本来は付け句集としてそれぞれ前句も明らかにして、この前句にこの付け句、とする所、思い切って前句を端折ってしまい、付け句だけを集めて出版したということです。

五七五の世界はそれなりに面白いのですが、さらに短い七七だけでこんな句もありか、という面白さがあります。七七の句はなかなか目にしないので楽しめました。

川柳というのはそれなりにかっしりしているのに対し、この武玉川の方は七七の句も五七五の句もどちらもゆったりと余裕のある面白さでした。

新書で気軽に読めるのでお勧めです。

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