『敗者の生命史 38億年』 稲垣栄祥 ーその2

(その1)の続き

地球にはようやく大陸ができ初め、気候の変化、地域による違いも大きくなってきます。また光合成廃棄物の酸素もようやく海水中の鉄の酸化を終了し、余った酸素が大気中に増え始め、生物の上陸が可能になります。

まず植物が上陸し、それを食べる動物もいないのでいくらでも際限なく広がっていきます。重力に対抗して上に伸びるためシダ植物は茎を発達させ、また茎や葉を保持して水分やミネラルを吸収するため根を発達させます。しかしシダ植物は受精のためには水が必要であったため上陸しても水の周辺を離れることができません。裸子植物はその問題を『種子』という形で解決しました。すなわち水がなくても受粉し受精し、種子となるまで成長して、水分を得て発芽できるようになるまで種子のままでいつまでも待つことができるようになったわけです。

ここで約5億年前位にまず植物が上陸し、続いて4億年前くらいに両生類が上陸を果たします。普通我々は植物と言ったら陸上植物の木や草や花を思い浮かべて、海藻や植物プランクトンは思い浮かびませんし、動物といったら哺乳類あるいは魚類以降の脊椎動物を思い浮かべます。

地球の歴史46億年といえばかなり長いようですが、動植物が上陸してからだとせいぜい5億年、2億年前には恐竜が闊歩していて、6500万年前にはその恐竜も鳥類以外は絶滅してその後哺乳類と鳥類の時代になったのですが、これ位の長さの時間であれば何とか進化の流れを追って理解できそうです。

また植物も我々の世代では海藻も植物プランクトンも植物のうち、と教えられましたが、その後の分類学の進歩により現在では上陸を果たしたコケ類以後のシダ植物・裸子植物・被子植物だけが植物だということになっているようなので、植物と言ったら木や草というのもあながち間違っているわけではなさそうです。

まずは葉緑体その他の光合成細菌が生まれ、二酸化炭素と水から炭水化物を作り、廃棄物として酸素を吐き出します。吐き出された酸素はまず海水中の鉄イオンを酸化して酸化鉄の層となって海底に沈みます。海水中の鉄イオンをほぼ酸化し尽くすと、余った酸素は海水中から空気中にもれ出し、空中の酸素を増やします。また空気中にふんだんにあった二酸化炭素も光合成により炭水化物になり減っていきます。菌類が登場するまでは、死んだ木はそれを食べたり分解したりする生物がいないため、ただ積み重なるだけで炭素を含んだまま石炭となって二酸化炭素を減らしていきます。空気中に増えた酸素は空気中の割合(分圧)が2~3%を超えた所でオゾン層を作り、宇宙からふんだんに降り注いでいた放射線を一気に防ぐことになります。これで生物上陸の条件が整ったという事になります。

エディアカラ生物群が絶滅してカンブリア大爆発で登場した動物に特徴的なのは、『目』の登場です。目を持った動物は餌をみつけたりそれを食べたりするのが得意となり、また食べられる動物の方も目を発達させて、自分を食べようとする敵をみつけて逃げるようになります。いずれにしても光合成によって生産された炭水化物を酸素呼吸することにより得られる莫大なエネルギーを使い、追いかける方も逃げる方も次第にスピードアップして弱肉強食の社会を作り上げていきます。

先口動物は外骨格と言って身体の外側を固い殻で覆い、他の動物に食べられないようにします。後口動物は身体の中心に脊索という筋を通し、そこを中心にして素早い運動を可能にし、その後それを脊椎に進化させます。脊椎動物の登場です。

はじめは外骨格の先口動物が強かったのが、内骨格の脊椎動物がスピードで勝るようになります。脊椎動物ではまず大型軟骨魚類の天下となり、小さくて弱い魚が海中から汽水域・淡水の領域に追い込まれていきます。淡水の環境に適応するため鱗・浮袋・腎臓等を発達させ、さらに、淡水で不足しがちになるミネラルを軟骨の中にためこんで骨とすることによりよりスピードアップした硬骨魚類となります。こうなるとスピードにまさる硬骨魚類は海に帰っていって、海を支配するようになります。

スピード競争に勝てなかった魚達は次第に陸に追いめられていき、両生類・爬虫類になります。陸上で生活できるようになっても、両生類までは魚類と同様水中で産卵し、それに受精し受精卵を発生させて子にするため水の環境をあまり離れることはできません。しかし爬虫類に至ってメスの体内に羊膜という環境を作り、受精卵を羊膜の中で水中と同じように発生させるというやり方により、水中でなくても子供を作ることができるようになります。もちろん羊膜だけでは心もとないので羊膜を保護する殻を付けて卵の形で陸上で産卵することが可能になります。これで動物は水辺を離れて陸上に広く拡散することができるようになります。

一方植物の方はまずコケ類が上陸を果たし、それに藻類を共生させた地衣類が上陸します。陸上の太陽の光をより活用するために陸上の重力に抵抗しながら上に伸びていこうとしてシダ植物が生まれますが、シダ植物までは受精・発生を水中で行うため水辺を離れることができません。それがたとえば被子植物になると花粉がめしべに付いた所で花粉が管を伸ばし、その管の中を精母細胞が移動し最終的に精子を作って卵子と受精するという形になり、水辺を離れることができるようになります。

その後裸子植物は被子植物に進化し、卵は子房に包まれるようになります。植物は基本的に動くことができませんが花粉を飛ばす所で1回、受精して、発生した種子を飛ばす所でもう1回の2回、移動するチャンスを手に入れることになるわけです。花粉は風で運ばれ、虫や鳥によって運ばれ、受粉し、受精して種子にまで成長したところで、種子は果実が鳥や哺乳類に食べられることによりさらに広く運ばれるようになります。このようにして植物も陸上のいろんな所に分散できるようになるわけです。

受精というと鮭のメスが産卵してそれにオスが精子をかけて受精させる所とか、ヒトのオスが射精して精子が卵子にたどり着いて受精するなんてイメージがふつうなので、受精に必要な時間はごく短いイメージなのですが、植物でも動物でも受精までに1年もかかるなんて話もあります。たとえば裸子植物などでは花粉がめしべに到着してから卵子を作り始め、卵子が成熟して初めて受精するとか、爬虫類でも卵子ができるタイミングを待って精子はメスの体内で待機させられる(その間メスの体内で栄養を貰って生き続ける)なんてのも面白い話です。ここでも被子植物は花粉が付く前にすでに卵子を子房の中に用意しているので、受粉後すぐに受精して種子を作ることができ、受精のスピードアップが世代交代のスピードアップ・進化のスピードアップに繋がる、ということになります。

世代交代のスピードアップのために植物はせっかく作った木、という形態をやめて草に進化し、木を作るエネルギーをもっぱら早く種子を作るようにしたようです。

生物の進化の大体の流れがわかってくると、その流れの細かいところもよりよく理解できるかもしれません。

おすすめします。

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