Equitableとハレーの死亡表

長年生命保険にかかわる仕事をしてきたので、生命保険の歴史についても関心があります。

Equitableというのは、イギリスの生命保険会社で、世界で初めて死亡率にもとづく年齢別保険料を使った生命保険会社で、平準保険料による定期保険や終身保険を扱った会社で、「アクチュアリー」という職名もこの会社で使われたことが元になったという、アクチュアリーなら誰でも知っているような会社です。

その会社の最初の保険料率はドドソンという数学者が計算して、まあアクチュアリーの先駆けみたいな人なんですが、そのためにこの人はロンドンの住人の死亡統計のデータから自分で死亡表を作り、これを元に保険料率を計算しました。

ところがネットなどで生命保険の歴史などを検索すると、当然このEquitableという会社が出てくるんですが、その説明にハレーの死亡表を使って保険料を計算した、となっているものが良くみられます。

ハレーというのは、あのハレー彗星のハレーですが、この人が最初に死亡統計にもとづく死亡表を作ったということになっています。ハレーはこの死亡表を公表する論文の中で、その死亡表の使い方の一例として、生命保険の保険料は死亡表を作って計算するべきだと言っています。

その延長線上にEquitableの保険料があり、それを計算したドドソンはハレーの死亡表のことももちろん知っていたんですが、その計算に実際に使ったのは自分で作ったロンドンの住民の死亡率です。

で、一体どうしてこんな誤解が生じて方々のサイトに使われているんだろうと思っていたんですが、最近たまたま生命保険文化研究所の「生命保険用語英和辞典」(1998年版)を見ていたら、次のような解説がみつかりました。
—————————————
Equitable Society [英] エイクイタブル・ソサエティ
1762年に設立。英国最古の生命保険会社。エドモンドハレー(1656-1742)の「死亡表」を基に死亡率に応じた保険料を計算したジェームス・ドドソン(1710-1757)の公平な考え方――すなわち、加入年齢によって保険料に差を設ける、いわゆる「自然保険料」の概念から長期間にわたる各期間毎の保険料を平均した「平準保険料」を算出して真に公平な危険分担(=保険料の分担)を考案――を導入した英国最初の近代的合理的な生命保険会社であり、現在も営業を続けている;
—————————————–
この生命保険文化研究所はその後生命保険文化センターと合体し、この辞典は今ではオンラインで誰でも見えるようになっていて、上の記事も
http://www.jili.or.jp/research/dictionary/detail.php?id=3704
で見ることができます(最後の「現在も営業を続けている」の部分が削除されていますが)。

この解説自体日本語としてちょっとおかしな文章なのですが、この文だけを読むとEquitableはハレーの死亡表を使って保険料を計算したと思ってしまっても不思議じゃないかなと思います。

この文章正しくは

  • ハレーは死亡表を作り、生命保険の保険料は年齢別死亡率を使って計算することが良いと言った
  • ドドソンはそれを受けて別の死亡表を作り、1年毎の自然保険料ではなくもっと長い期間にわたる平準保険料の計算方式を考案し、予定利率まで使って定期保険や終身保険の保険料を計算した。
  • Equitableはその保険料を使って年齢別保険料の生命保険事業を始めた。

ということなんですが、なかなかそうは読めないですね。

で、もしかするとこの辞典が誤解の元なのかな、と思ったわけなのですが(この辞典も、それを出版した生命保険文化研究所・生命保険文化センターも、かなり権威のある立派な組織ですから)、実際の所は良くわかりません。

誰か、何か知っていたら教えてもらえると嬉しいのですが。

Leave a Reply