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『帳合之法』のついでにー『日本地図草紙』

火曜日, 4月 12th, 2022

『帳合之法』は今では出版されている本ではないので、図書館で福沢諭吉全集を借りて読むしかありません。
で、私が図書館で借りた本は岩波の全集の第3巻ですが、そこにはいくつもの著作が入っていました。

その一つは『学問のすすめ』で、「天は人の上に人を作らず人の下に人を作らずと言えり」で有名な本です。この言葉は読んだことがあるのですが、実は続編・続々編と次々に出ていて、全体ではかなりのページ数になっています。その全体を読んだ覚えはないので、これは改めて読んでみるしかないな、と思いました。

で、この『学問のすすめ』の最初の編に、学問は、勉強するに際し何でも好きな学問をいくつか選んで勉強すれば良いんだけれど、その前提となる基礎科目として「読み書きソロバン」と並んで『帳合の法』が挙げられています。もちろん読み書きソロバンと帳合の法が同一のレベルにあるものであるはずもないので、この基礎科目以外はいわば選択科目であり、どの科目を選択するのも構わないけれど、前提として読み書きそろばんに並んで帳合の法は必修科目だ、という位置づけということになるようです。

で、『学問のすすめ』については、ちゃんと読んでからまた別に書こうと思うのですが、これとは別に、実はこの全集には『帳合之法』の次のページに『日本地図草紙』というものが入っています。『草紙』といっても実は単に1枚の地図が折り畳まれて入れてあるだけですが。

この地図がA3よりちょっとだけ大きいので、私のオフィスのコピー機でコピーするのがやっかいなのですが、なかなか面白い地図です。

これが出版されたのは明治6年7月なので、明治4年7月の廃藩置県より2年後なのですが、この地図は都道府県の地図ではなく、その前の日本が律令制の六十余国に分かれていたその分国の地図です。

これが白地図になっていて、福沢諭吉が説明を付けているのですが、『印刷技術が進歩してどんなことも地図に記載することができるようになって、地図に記載される情報が多くなり過ぎ、勉強するのにかえって逆効果になっている。むしろ白地図に自分でいろんな情報を書き込むようにした方が勉強には便利』だということで、この白地図にも国の名前と国の境の線は入っているけれど、都市の名前は箱館(函館)・新潟・東京・横浜・西京(京都)・大坂(大阪)・長崎だけしか入ってないし、山は富士山のみ。湖は琵琶湖が湖水、諏訪湖が諏訪の湖水という名前で、この2つだけしか書いてありません。

都道府県の白地図は見慣れていますが、この律令制の国の白地図は、新鮮でなかなか見どころがあります。九州は今は7県ですが、この律令制では9国だったから九州だ、とか、関東は今は1都6県だけれど律令制では8国で関8州だったとか確認できます。

なおこの白地図は基本的に日本地図ですが、上の方の余白に附録として世界地図も付いています。と言ってもほとんど大陸の名前と大きな海の名前だけで、国の境までは入っておらず、国名としては合衆国・イギリス・フランス・ロシア・印度・支那・日本だけが書いてあります。

メルカトル図法のようで、ロシアがとてつもなく大きく、アジアとヨーロッパのほとんどを占めています。
グリーンランドも北米大陸やアフリカ大陸と同じくらいの大きさになっています。
海は大平洋(太平洋ではなく)・阿多羅洋(大西洋ではなく)・印度洋と北極洋(北極海ではなく)・南極洋(南極海・南氷洋ではなく)と、あと地中海・黒海・カスピ海・日本海だけが書いてあります。

大西洋が中心となる欧米中心の地図で、経度が0度を中心に左右180度までになっているんですが、今では経度0度の線が『無度』と書いてあるのも面白いです。
地名としては喜望峰だけが書いてあります。

で、これは『学習用の地図』だということで、標題の『日本地図草紙』の上に『子供必用』と書いてあります。

こういうのを見ると、福沢諭吉という人は本当に面倒見のいい、真面目な教育者だったんだなと思います。と同時にあの時代、こんな所まで自分でやるしかなかったんだろうなとも思います。

今テレビでは大河ドラマで平家物語の世界をやっていますが、同時に個人的には太平記を読んでいて、どちらも日本中を舞台にした戦記物ですから、全体像を把握するのにこの白地図はなかなか役に立ちます。

ということで、地図の好きな人にはお勧めです。