Archive for 12月, 2014

『GDP速報値』

火曜日, 12月 9th, 2014

7-9月のGDPの第2次速報値が昨日(12月4日)発表されました。前回の第1次速報値で、4-6月期は対前期比がマイナスになったのが今度は対前期比プラスだろうと皆が思っていたのにマイナスになってしまい、それが口実で解散総選挙となったわけですが、今度の第2次速報値では、調子良いはずの法人統計が計算に反映されるため、今度こそ対前期比プラスになるだろうとまたもや皆が思っていたのがマイナスになり、しかもほんのちょっとですが、第1次速報値より第2次速報値の方がマイナスが大きかった(季節調整済みの実質GDPの対前期比が、年率換算で、第1次速報値ではマイナス1.6%、第2次速報値ではマイナス1.9%)、という結果でした。

これで野党の方は「それ見たことか」「アベノミクスは失敗だ」と声を張り上げているようです。自民党の方は「ちょっと時間がかかるだけで、アベノミクスはうまく行っている」と主張し続けています。

私も法人統計がGDP速報に反映されれば前期比プラスになるだろうと思っていたので、ちょっと、もとの数字を見てみました。すると7-9月期のGDPそれ自体は第1次速報値より第2次速報値の方が大きくなっています。しかしGDPが大きくなっているのは7-9月期だけでなく、それ以前の期も軒並み大きくなっています。特に直前の4-6月期の増額修正は7-9月期の増額修正より大きく、その結果として対前期比がマイナスになってしまった、ということのようです。

通常の月であれば第1次速報値と第2次速報値の違いは法人統計の所くらいなものなのですが、12月に発表される速報だけはこれ以外にも、前年(2013年)の数値についてGDPの確報にもとづいて修正し、さらに前々年(2012年)の数値についてGDPの確々報にもとづいて修正するということをやっているので、結果として2012年の頭の分から数字が大きく修正されています。

名目原系列というナマの数字についてはこのように2年前の頭からの修正ですが、これが実質の年換算の数字となるとこれに季節調整が加わるので、さらに数年さかのぼって数字が変わります。

そんな仕組みになっているというのは、今回の修正を見るまで知りませんでした。で、GDPは7-9月期、4-6月期より落ち込んだわけですが、それは4-6月期が今まで思っていた以上に良かったんだという話で、これは2012年の1-3月期までさかのぼってずっと今まで思っていた以上に良かったんだ、という話でした。このあたり、詳しい話は、元の数字を見るしかなく、政府の発表資料には載っていないので、新聞では報道されていません。一応このような話があるというくらいは発表資料でも軽く触れてはいるんですが。

とまれこの7-9月期の第2次速報値が前期比プラスになっていたとしたら、野党の方のアベノミックスは失敗だという主張が難しくなっていたでしょうし、またその時にはアベノミクスはうまく行っているのになぜ消費税の引き上げを先送りしたんだ、なぜ解散したんだという話になり、わけのわからない選挙になっていたかも知れないと考えると、まあまあ良かったかなと思います。

あとは14日の投票結果を楽しみに待ちたいと思います。

私は6日の土曜日に早々と不在者投票を済ませてしまっているんですが、今回は読売新聞の出口調査の対象となりました(前回はNHKの出口調査でした)。土曜日なのに寒い中投票所の前で待っている、というのもご苦労様なことです。

『ケインズ『一般理論』を読む』

木曜日, 12月 4th, 2014

宇沢弘文さんの本『経済学の考え方』『近代経済学の再検討』の次は、『ケインズ『一般理論』を読む』という本です。今は岩波文庫になっていますが、当初は岩波セミナーブックスというシリーズの一冊でした。はじめ、この岩波文庫の本を図書館で予約したのですが、いつまでたっても借りることができず、ちょっと古いけれどこの岩波セミナーブックスの方を予約したら大正解でした。版が文庫本よりかなり大きく、その分余白がたっぷり取ってあって、読みやすい本でした。

ケインズの『一般理論』はケインズが古典派の経済学を批判して、ケインズの経済学を提案している本です。しかもこの『一般理論』の読者として想定していたのが同業の経済学者、すなわち古典派の経済学者です。で、古典派の経済学を批判するにしても読者は古典派の経済学をしっかり理解している人ばかりです。そのつもりで書かれた本を、私のように経済学を良く知らない者が読むというのはなかなか大変です。古典派の経済学については、ケインズがそれを批判している所を読んで、そこからそんなものなんだろうな、と理解するしかありません。

ところがこの宇沢さんという人は、もともと古典派の経済学のスターとして活躍した人で、その後それを批判し、ついでにケインズの『一般理論』まで批判して『社会的共通資本』という考え方を主張した人ですから、古典派の経済学もケインズの経済学もしっかりわかっている人です。さらにこの本は市民セミナーでケインズの『一般理論』を読もうというものですから、読者として想定しているのは私のような経済学の素人です。私のような素人を読者としてケインズの『一般理論』を読みながら、そこに書かれて古典派の経済学、ケインズの経済学をきちんと解説してくれるという、何ともおあつらえむきの本であることが分かりました。

以前『一般理論』を読み終えた時、しばらくたったらもう一度『一般理論』を読み返そうと思っていたのですが、まさにうってつけのガイドブックがみつかったわけです。ケインズの『一般理論』とこの宇沢さんの本を一緒に読みながら、ケインズが批判している古典派の経済学、そのアンチテーゼとしてのケインズの経済学の両方を理解してみようと思います。

ケインズの『一般理論』でコテンパに批判されたはずの古典派の経済学が、その後もしっかり正統派の経済学の地位を保っているのはどうしてなのか、ケインズの経済学が勝てないのはなぜか、を考えながら読んでみようと思います。

この本の最初の部分に『なぜ『一般理論』を読むか』という章があります。この中で『一般理論』は経済学に大きな影響を与えたが、一方それを読んだ人はほとんどいない、ということが書かれています。ほとんどの人はケインズの経済学のヒックスによる解釈であるIS-LM理論を、ケインズ経済学そのものだと思い込み、あるいはそう教えられ、ケインズの『一般理論』を読むかわりにこのIS-LM理論およびその解説を読んで『一般理論』を読んだつもりになったということのようです。ですからこのIS-LM理論が破綻すると、それはケインズの経済学の破綻だと解釈したということのようです。

さらにケインズの『一般理論』というのは、ケインズとその周辺にいたケインズ・サーカスとよばれる(その当時)若手の経済学者達の議論をケインズが本にまとめたもののようですが、その中の中心的な人物の一人であるリチャード・カーンと宇沢さんが話した時の話として、『自分は昨年(1978年 一般理論の出版は1936年)初めて『一般理論』を読み通したが、一般理論の書き方はまったくひどい。一体何を言い、何を伝えようとしているのか、私にはまったく理解できない』という発言を紹介しています。すなわち『一般理論』の考え方を作った中心人物ですら『一般理論』をまるで読んでなかった、ということです。

何とも唖然とする話ですが、とはいえ、今となっては『一般理論』を読むしかないんですから、今度はじっくり読んでみようと思います。ケインズの書き方がひどいというのはわかっています。宇沢さんも平気で専門用語を使ってきます。このあたり専門家でない立場から、何とか解きほぐしながらじっくり読んでみようと思います。

ということで、古典流の経済学とケインズの経済学の両方の解説書としてお勧めします。