2017年6月 のアーカイブ

前川さんの記者会見

2017年6月26日 月曜日

先週の金曜日(6月23日)、元アナウンサーの小林麻央さんの訃報で大騒ぎの中、たまたま前川さんの記者会見がインターネット中継されると知り、見ていました。

特に新しい情報はないけれど、ということで、前川さんに関する(あるいは加計学園に関する)いろんな事情説明をしていました。

聞き取りやすい声でゆっくり丁寧に優しい言葉で話しているので、説得力があります。近頃では自分の主張にしても相手からの主張に対する反論にしても、大きな声で話をするのを聞くことが多いので、このような大きな声を出さずに冷静に落ち着いて話をするのを聞くのは新鮮な感がしました。

自分にとって不利なことでも声を荒げることなく、落ち着いて平然と嘘をつくことができるというのは、やはり事務次官をやった人だけのことはあり、見事なものです。

多少の不利なことは平然と認めて、そのかわり肝心なことは議論を変えたり嘘をついたり、あるいは答えられないと言ったり、そのよどみなさは見事です。

ウカウカと聞いていたら、これだけ堂々として言うんだからこの人の言っている事が正しい、この人は正直な人だと思い込んでしまいそうです。

でも、その場ではそう感じても時間が経てば『待てよ、でも』という具合に疑問が出てくるので、適当なタイミングで疑問を解消するために登場するのはいい戦略かも知れません。

しかしこれも聞く側が次第に慣れてくるとそう簡単には騙されなくなりますから、新しい情報がないのであれば、今後はあまり表に出てこない方が賢明かも知れませんね。

先日NHKのクローズアップ現代で取り上げられた文部科学省の課長補佐が作ったという『萩生田さんの発言の概要』の文書についても、「この課長補佐は優秀な人で信頼できるから、この文書の中味は本当だ、萩生田さんの発言となっているものには萩生田さんの発言ではなく他の人の発言も交じっているようだが、誰かがそのように言っていたことは確かなので、この文書の中味は正しい」などと、まるで支離滅裂なことを平然と言っていました。

『誰が何を言ったか』が大事なのに、誰が言ったか分からないことを萩生田さんの言ったことにして文書にして、それが信頼できる、内容が正しいなど言えるわけはないと思うのですが。これに対して特に質問等なかったので、聞いている人は何となく納得してしまったのかも知れません。それ位見事な前川さんの話しぶりです。

記者会見の冒頭に進行係が『できるだけ多くの皆さんに質問の機会を提供したいので、質問は一人一つだけに制限する』と言っていたので、誰のどんな質問に対してもとりあえず適当に曖昧な回答を言語明瞭にしておきさえすれば、それ以上の追求はないんですから、こんなに楽なことはありません。

この人も役人をやめて、目立ちたがりの人のようですが、いつまで顔を出すのか楽しみですね。

『石油を読む(第3版)』 藤 和彦著

2017年6月2日 金曜日

この本は日経文庫で2005年に出版されたものを、今年の2月に10年ぶりに全面的に改訂したものだということです。

石油あるいは原油と天然ガスというのは、その流通と価格の変動が世界経済に大きな影響を与えるので、たとえば原油価格やOPECの会議など話題になることも多いにもかかわらず、何となく全体像がつかめないでもやもやしていたのですが、この本で一気に全体像がつかめました。

シェールオイル、ショールガスの位置づけとか、ロシアの原油・天然ガスの日本にとっての重要性、ロシアからウクライナへの天然ガスパイプラインを巡るウクライナとロシアとヨーロッパの関係とか、サウジアラビア・OPECの重要性(あるいは重要性の低下)とか、いろんな話がうまく整理されています。

原油の生産量というのは1日あたりの量で表し、だいたい1日あたり1億バレルだというのは分かりやすい話で、これを基準にすればそれぞれの地域の生産量・消費量の全体像がつかめそうです。

日本では原油は中東からタンカーで20日もかけて運んで来るのですが、その運賃は原油価格の2%でしかないので、原油価格の変動からすると殆ど無視できるとか、天然ガスは日本のようにLNGで運んでくるのはごく例外的なケースで、普通はパイプラインで運ばれていて、LNGはかなりコストがかかるけれどパイプラインは安く済むとか、原油にしろ天然ガスにしろ初期になかり高額の投資が必要になるけれど、一旦生産が開始され流通の設備が出来上がってしまうとランニングコストは非常に安くなるので、原油価格がかなり安くなっても生産は継続するとか、生産するまでに高いコストと長い時間がかかるので、原油価格が高くなったからといって生産量は急に増えないとか、仕組みが分かってくると原油価格はいわゆる需要と供給で値段が決まるという流通の経済学がなかなか成立せずに、高くなっても安くなっても生産量も消費量もあまり変わらず、高くなったら当分高くなり続ける、安くなったら当分安くなり続けるという性格のものだ、ということが良くわかります。

さらに実需による売買の何十倍もの投機による売買と、その先物取引の残の存在によって価格の変動(乱高下)が不可避だ、ということも良くわかります。

原油の埋蔵量がどのように計算されるか、全世界で大量に消費しているにもかかわらず、50年前にあと20年分と言われていた原油の埋蔵量が50年経ってあと50年分に増えるのは何故か、という仕組みも良くわかります。

世界的に経済が発展しつつあるにもかかわらず、原油の消費量はもしかするとピークを打って、今後は減少に転ずるかも知れないという話も新鮮でした。

この本も図書館の新しい本コーナーでみつけじっくり読んだのですが、読み終わって改めてこの本を買いました。今後書き込みをしながら、改めてじっくり読もうと思います。

ということで、このような話に興味のある人にお勧めです。

『長考力』 佐藤康光著

2017年6月2日 金曜日

この本も図書館の『新しく入った本』コーナーで見つけたものです。将棋の世界では羽生さんがあまりにも有名なんですが、この佐藤さんもいくつものタイトルを取ったりして、トップクラスの人のようです。

で、この人は棋士の中でも長考派とよばれ、『1秒に一億と3手読む』と形容される人のようです。

で、この手の本はその長考はどのようにしてやっているのか、どうすればできるのかとか、一般の読者にも参考になるのではないかとかいう観点で書かれることが多いのですが、この本はそんなことは一切お構いなしです。確かに長考してはいるけれど、それは良いことだということでも良くないことだということでもなく、『自分はきちんと突き詰めて考えるのが性に合っているからそうしている』と言ってしまっています。長考するにはどうするかとか、役に立つか、なんてことはお構いなしで、むしろ長考して失敗しているエピソードがいくつも出てきます。

一般の人の参考に、などということはまるで眼中になく、ただひたすら一冊全部将棋の話しかしていません。もちろん、時々サッカーの話・野球の話・ゴルフの話なども出てきますが、それは将棋の話を分かりやすくたとえ話にするためだけのことです。

将棋の話といっても、この本を読んで将棋が分かるわけでも強くなるわけでもありません。そんな話はお構いなしに『自分はこうやっている』という話だけしか出てきません。

プロの勝負は持ち時間があって、それを使い切ると一手60秒以内で指さないといけないというのが一般的で、その60秒を秒読みして50秒のあと1, 2, 3・・・と読み上げ、それが10になったら時間切れ負けということになります。とはいえ、いきなり『10』と読んで即反則負けというのは可哀想なので、実際は読み上げ係が多少手心を加えて、10になる前に指すことができるようにしているようです。長考派はすぐに時間を使ってしまいますから、すぐに秒読みになります。

この佐藤さんは対局が終わってから相手に抗議され(もちろん自分では全く気付いていない)、10ぎりぎり(あるいは少し超えて)指していると指摘され、それ以降は気をつけて『8』を読まれる前に指すようにしているとか、あわてて駒を落としてしまい、拾っていたら時間切れになるので、仕方なく指でマス目を指して『6八玉』などと叫んだこともある(このようなやり方はルールとして認められているということですが、むしろそんな所までルールが決まっているということの方がビックリですね)というエピソードも紹介しています。

将棋の駒の配置は飛車と角行を除けば左右対称になっていて、駒の動きも左右対称となっているので、最初から飛車と角行を入れ替えて置いて、そのあとの駒の動きも左右逆の動きで指していけば左右逆転の一局ができるのですが、たとえば居飛車の一局は左右逆転すれば見た目相振り飛車のように見えます。これで途中まで進んだ所で形勢判断すると、左右置き換えただけなので形勢が変わるはずもないのに、元の盤面では先手が良さそうに見えたのが左右逆転すると後手が良さそうに見えたりする、なんて話もあります。

こんなことを考えても多分何の役にも立ちそうもないんですが、面白いことを考えるものです。

いずれにしても、一般に人には何の役にも立ちそうもないことを四六時中考え続けていている人がいて、それを何の遠慮もなしで本にしてしまうそのすがすがしさ(無神経さ)が何とも不思議に面白い本です。

何の役にも立たない本を読んでみたい人にお勧めです。