Archive for 2月, 2023

『中東問題再考』-飯山 陽(イイヤマ アカリ)

金曜日, 2月 24th, 2023

かなり待たされましたが、図書館に同時に予約した飯山さんの本のうち、最後のものが来ました。

これはすごい本です。実名をあげて次から次に中東問題の『専門家』『メディア』『コメンテーター』の嘘を具体的に示しています。『誰それは、これこれの本でこう言ってますが、嘘です。』といった具合です。それにしてもそこに挙げられる人の名前がホントにいくらでも次から次に出てくるのには、呆れ果ててしまいます。

一度にこれだけ大勢の人を敵に回してしまうわけですから、その人々から一斉に攻撃されるのも仕方のないことです。とは言え、イスラム原理主義のテロリストの頭目のようなイスラム法学者にテレビでインタビューして、悪魔を見るような目で見られながら話をした著者にしてみれば、そんな有象無象は怖くも何ともない、という事でしょうか。

著者は『はじめに』で、中東問題を分かりにくくしている原因を二つにまとめています。『第一の原因は中東問題が複雑だからだ』『第二の原因は中東問題についての日本のメディアの報道と、それについての「専門家」と称される人々の解説が偏向していて、嘘が多いからだ』と、最初から平然とストレートに指摘しています。

その後各論に移って、アフガニスタンのタリバン、イランの原理主義イスラム法学者達、トルコのエルドアン政権、とマスコミや専門家が『親日』ともてはやしている国々が、実際『親日』とはまるで違っていて、原理主義過激派がいかにそれぞれの国民を虐げているか解説しながら、いかにメディアや専門家が嘘をバラ撒いているか、具体的に誰がどこにこう書いた、どこでどのように言っていたか、具体的に解説しています。

次に『なぜイスラム諸国は中国のウイグル人迫害に声を上げないのか』として、それらの国々の支配者たちが、ウイグル人や自国民の事より、中国の一帯一路により自分達がどれだけ儲けるかの方を優先しようとしていることを明らかにしています。次のパレスチナの所で、パレスチナを支配している過激テロリスト達がいかに住民を抑圧搾取して自分たちだけ贅沢をしているか、欧米・日本からの援助はすればするだけそのテロリスト達を豊かにして、パレスチナの住民を苦しめることになるか明らかにし、ここでもメディアや専門家は自分達の反米・反日にとって具合の悪いことについて目もくれず何も言わない、ということを明らかにしています。

一つ一つ指摘されていることは、その時々に多少とも報道されることも多いのですが、気を付けていないとメディアや専門家の曲解・意図的な嘘の報道でともすればかき消されてしまうような状況で、この本のように丁寧にまとめてくれると理解しやすくなります。

多くの国で過激派原理主義者やテロリスト達が、国民や住民を人質にとって反米・世界征服を企てている現状を、どのように解決することができるのかは分かりませんが、とりあえず現状がどうなっているか、という事だけでも正しく認識しておくことが大事だと思います。

恐い話が次々に出てきますので誰にでもお勧めというわけにはいきませんが、中東問題をちゃんと理解したい人、マスコミや専門家達に騙されたくない人、飯山陽という人がいかに危ない戦いをしている人か知りたい人にお勧めです。

『哺乳類誕生-乳の獲得と進化の謎』―酒井仙吉

月曜日, 2月 20th, 2023

植物の話が続いたので、今度は動物の哺乳類の話です。
著者は農学博士で専門は動物育種繁殖学、あるいは泌乳生理学、ホルモンによる調節機構ということで、哺乳動物の乳腺と泌乳のしくみについての部分がメインなんでしょうが、それだとあまりに専門的になってしまうからか、この本は3部構成で、第一部が進化と遺伝の話、第二部が動物が上陸してから哺乳類、人類にたどり着くまでの話。そして第三部で『進化の究極―乳腺と泌乳』で専門的な話を展開しています。

私も今まで哺乳類に関する本はいくつも読んだことがありますが、『哺乳に関する本』というのは初めて見たので面白そうだと思って借りてみました。もちろんこの本も稲垣さんの本からの芋づるの結果、たどり着いたものです。

第三部はさすがに専門家だけあって付いていくのが大変ですが、たとえば母乳は胃に入るといったん固まって、その結果赤ちゃんは満腹感を感じて眠る。そしてその固まりは少しずつ消化されるなんて話もあって面白い部分もあるのですが、むしろ第一部・第二部の方がわかりやすく楽しめました。

まず第一部、進化と遺伝の話ですが、ここで私は今までまるっきり思い違いをしていたことに気がつきました。
『進化』というのは遺伝子が突然変異してその変異が広まることによって起こるわけですが、この『突然変異』という言葉から何となく、滅多に起きない変化がある日どこかで突然起きて、それによって生物の生き様が変わってしまう、という位のイメージでした。

しかし有性生殖、というのは、メスとオスが減数分裂によって遺伝子を半分にし、その半分になった精子と卵子が接合して受精卵になるプロセスです。たとえばヒトでは遺伝子が23対46本の染色体にまとまっていて、それぞれの対は母親の卵子から来ているものと、父親の精子から来ているものが23対の何番目かという順番ごとに組み合わさったもので、減数分裂というのはそのそれぞれ何番目の対が倍になって4本の染色体になり、そこから4つに分かれて1本の染色体になり、計23本の染色体を持つ精子、23本の染色体を持つ卵子が一緒になって、23対46本の染色体の受精卵になるということです。

ここで減数分裂の際、23対の染色体のうち母親由来の方を選ぶのか、父親由来の方を選ぶかはどちらもありということです。だとすると23対の染色体から23本の染色体を選ぶ組み合わせは2の23乗、すなわち8百万通りの組合せということになります。精子の方の組合せが8百万通り、卵子の方の組合せが8百万通りですから、受精卵の方は8百万×8百万=64兆の組合わせということになります。

今地上の人類の総数が70億人とか80億人ということになっていますので、1人の父親・1人の母親から生まれる受精卵の染色体の組合せの数が64兆ということは、人類の数の1万倍ということになります。何ともビックリするような話です。もちろんこれは理論的に可能な組み合わせの数、ということで実際に64兆の受精卵ができる、という話ではありませんが。

このような話、このような数字を具体的に知ると『突然変異』というもののイメージもまるで違ってきます。即ちそれは、いつでもどこでもいたる所で起こっている変異だけれど、それがいつどこでどのような変異が起こるかは分からないという事です。

この精子・卵子の染色体の8百万通りの組合せ、受精卵の64兆通りの組合わせというのはごく正常な減数分裂と接合の結果ですから、これにさらに様々なエラー、組み替え、突然変異が加わるとさらにとんでもないことになります。

DNAというのは一般にタンパク質を作るための設計図だと説明されていますが、実はそれだけじゃなく、その設計図をいつコピーに回してタンパク質を作るかというコントロールの部分もあって、どの設計図をいつタンパク質製造に使うかによって、その生物の生き様が変わってくるということのようです。

染色体が23対あるという事は、それぞれの対の一方がちゃんと機能するのであればもう一方は突然変異で機能しなくなっていたとしても、そっちの方の設計図を使わないことにすれば生きていくのに問題ない。そのため使わない染色体の方に機能しない突然変異が次々に積み重なっても大丈夫だ。そしてある時今まで使わなかった方の設計図を使うような変異が生じた時、今までと違った生物が生まれるという話です。

さらに、遺伝子は今まで全ゲノム重複という、一度に全体が2倍になる、という変異を2回にわたって経験しており、この倍化によって付け加わった余分な遺伝子が様々に変異して様々な機能を獲得する、という話もあります。

何とも壮大な話で、それが常時いたる所で起こっているというのは、何とも呆れ果てる話です。

第二部の方は、魚類が上陸して両生類、そして爬虫類・恐竜・鳥類・哺乳類に進化していった筋書きがまとまっています。

たとえば魚類はメスが水中に卵を産んで、そこにオスが精子をかけて受精させる。両生類も基本的にそれと同じだったので水を離れることができなかった。爬虫類になると体内受精になったので、受精した後で卵に殻をかぶせて産むことにより陸上で卵を産むことができるようになった。鳥類ではさらに卵からかえったヒナに親が餌を与えることで子育てが始まった。ここまではすべて子供は生まれた時から親と同じ餌を食べていたが、哺乳類になると乳を与えることにより生まれたばかりの子が餌をみつけて食べる必要がなくなった、なんて話が出てきます。

精子というのは受精のためのDNAと卵子にたどりつくために必要最小限のエネルギーしか持っていないので、射精した後はあまり長くは生きられないと思っていましたが、それはどうも哺乳類だけの話のようで、鳥類では卵管に精子に栄養を供給する機構があって、そこまでたどり着いた精子は2週間程度生きていける。爬虫類では精子はメスの体内で1~数年生き続けられる、なんて話もあります。

とまれ生き物というのは、何ともはやいろんな仕組みで生きているものだなと思います。
この本はそのような面白い話が満載です。

このあたりの話に興味のある人にはお勧めです。

パブコメ

木曜日, 2月 9th, 2023

金融庁の少額短期保険業者向け監督指針が改正されることになり、現在パブコメの手続きに入っています。

私はもう実質的に引退しているようなものですが、それでも細々と少短業者の保険計理人も務めているため一応念のためにこの監督指針の改正案を見てみました。

その内容については興味がある方は直接検索して見てもらうことにして、私としては少短の基本的あり様を変えてしまうような改正かなと感じ、久しぶりにパブコメに意見を送付しようと思いました。

で、とりあえず原稿を完成させ送付する段階で、今まではすべて郵送していたのですが、せっかくネットで送る方法を用意してくれているので、今回はネットで送信することをトライしてみることにしました。

で、とりあえず送信用フォームに入力を済ませ、送信の前の手順で確認ボタンを押しました。すると何と『機種依存文字を使うことはできません』とエラー表示されてしまいました。と言ってどの文字が機種依存文字でエラーの原因になっているのか、という表示はどこにもありません。

仕方ないので前のように印刷して郵送しようかとも思ったのですが、せっかくなので取り敢えず何とかネット送信できるようにしてみようと思いました。で、ネットで調べてみると機種依存文字をチックしてくれるサイトがいくつもありました。で、そこに入力して機種依存文字をチェックしてみた所、赤で表字されたのがローマ数字のⅡ・Ⅲ・Ⅳ・・・と、丸文字の①・②・⑤のようなものです。でローマ数字は単なるアルファベットを重ねたII, III, IVに変え、①②⑤は丸1・丸2・丸5と変えて再度チェックしたら、今度は『機種依存文字なし』ということになりました。

そこで今度こそ、と思って再度パブコメシステムに戻って送信をしようとしたら、まだ『機種依存文字を使うことはできません』エラーで送信できません。とは言えどの文字がエラーになっているのか分からないので、仕方なく金融庁に電話することにしました。で、金融庁ではどうにもならなくてパブコメ全般を管理しているe-Govの方に電話するように言われてしまいました。e-Govの担当者とも色々話をした後でe-Govの中の『入力可能な文字について』のページを紹介して貰いました。そのページに載っている『パブリックコメントで使用できない文字の例』のリストを見てみると、どうも『―』が怪しそうだな、と思いました。『―』は計算式に入っている『+-』として使っているものと、節の番号たとえば『Ⅱ-3-4-2』なんて所に使われる『―』と、それが怪しそうだと思い立ちました。とはいえどちらも今回の改正案の新旧対照表に書いてあるのをそのまま切り貼りしているだけのものなのですが、とりあえず『+-』はすべて小文字の『+-』に書き直し、また節の番号の『-』もすべて小文字の『-』に変えてみました。それで今度こそと思ってパブコメのシステムから送信してみました。

何とこれがエラーなしで無事に送信することができました。
ヤレヤレ、メデタシメデタシです。

『イネという不思議な植物』―稲垣栄洋

木曜日, 2月 2nd, 2023

稲垣さんのほん、3冊目はこの本です。
この本はイネとイネ科の植物を中心にいろんな話題を紹介しています。

まずはモチ米とウルチ米の違いですが、モチ米はウルチ米の一つの遺伝子が突然変異を起こして誕生したもので、その遺伝子は劣性遺伝子なので放っておくとすぐにウルチ米になってしまうのですが、人類が丁寧にその劣性遺伝子のホモの種子を大切に保存してきたものだ、という話です。

モチ米とウルチ米の違いは、種子のうちの胚乳にあたる部分のデンプンの組織がちょっとだけ違うということで、ウルチ米にはアミロースとアミロペクチンという2種類のデンプンを含んでいるのに対し、モチ米はアミロペクチンのみだということ、この違いによりモチ米のモチモチ感が生じているということ、そのため、ウルチ米はこの2種類を含んでいるのでその割合をうまく塩梅すれば、もちもちのお米もさらっとしたお米も作り分けることができる、というわけです。

ここでモチ米のめしべにウルチ米の花粉を受精させたらどうなるのかという問題になります。

イネの種子は『胚芽』という受精卵の部分と、『胚乳』という胚芽が芽を出し発育するための栄養を蓄えた部分から成ります。私達が食べるお米はほとんどが胚乳です。胚乳がめしべと同じ親の細胞からできていれば、モチ米からウルチ米かは親と同じになります。また胚乳が胚芽と同じ細胞からできていれば、子と同じになります。

ところが実はそのどちらも違っている、というのが正解のようです。

胚芽は受精卵、卵子と精子が一緒になったものです。
胚乳の方は卵子ができる過程で減数分解した細胞が、さらに何回か(イネの場合は3回)分裂してできる8個の核のうち1個は卵子になり、残りのうち2つが合体した中心体というものと、オシベから出てくる精子のうち一方が卵子と一緒になり受精卵となり、もう一つがこの中心体と一緒になり3倍体になったものが胚乳になるということで、このように胚芽の受精と胚乳の受精があるということで、『重複受精』と呼ばれるということです。

胚芽の方は減数分裂した結果の卵子と減数分裂した精子が一緒になるので2倍体ですが、胚乳の方は中心体の方の減数分裂した結果2つ分の中心体と精子の方の1つ分が一緒になるので3倍体になる。その結果ウルチ米とモチ米が受精したものが餅のようになるかどうかは普通の遺伝の計算とは違ってくるようです。

通常胚乳が親と同じか子と同じかなんてことは考えもしないのですが、稲の場合はその胚乳を食べることになるので、それが大きな問題となるようです。

ということで、モチ米にウルチ米の花粉が付くと、できる米はウルチ米になってしまうという事です。

この重複受精、この本では『教科書で習った』と書いてあるのですが、こんな話聞いたことがあるかなと思って考えてみたら、私は高校の時大学受験は理科で受ける予定だったので、物理と化学を選択することにしたこと、生物の授業はあったけれど担当の先生が教科書無視で、その当時最先端だった分子生物学の話ばかり熱く語っていたことなど思い出しました。その結果、教科書に何が書いてあったか、ほとんど記憶がありません。お陰で今更ながらいろんな話をびっくりして楽しめています。
それにしてもこの胚乳については植物の種類によって様々のバリエーションがあって、植物ってのは何ともとんでもない生き物だなと思います。

イネ科の植物は動物に食べられないように、葉を消化しづらく、消化しても栄養が少ないようになっています。しかしながら野原の草のほとんどはイネ科の植物で、これを食べるため、牛の類は胃をいくつも用意し反芻して消化するようになっており、馬の類は盲腸を発達させて盲腸の中の微生物を使ってセルロース分解するようになっている、ということです。

また米が皮が剥きやすいので精米して粒のまま食べる。コムギは皮が剥きにくいので粉にしてから皮を取り除いて食べる。オオムギは固くて粉にすることもできないので水に漬けて発芽させてビールにする。ただしオオムギの変種のハダカムギは皮が剝きやすいので粒のまま食べる、我々が麦飯として食べているのはこれだ、なんて話もあります。

イネは雑草の一種として何が何でも種子を作るために、裸子植物から被子植物になる過程で獲得した虫媒花というやり方をやめ、改めて風媒花に進化したとか、遺伝上宜しくないので排除してきた自家受粉も平気で活用しているとかの話もあります。

この本ではイネや米を中心とする文化や歴史の話もふんだんに盛り込まれており、たとえば一人1食分の米の量が1合であり、1日3食で3合、これを作るのに必要な田んぼの面積が1坪、1年分1000合分の米を作る田んぼの面積が1反で、その米の量が一石、だから100万石というのは100万人の1年分の米がとれるということだ、とか、一石の米の値段として一両ときめたとか、体積も面積も貨幣もすべて米が基準になっているなんて話も面白いです。

15世紀のヨーロッパでは撒いたコムギの種子の3~5倍しか収穫できなかったけれど、15世紀の日本では撒いた米の20~30倍の収量が得られた。そのためヨーロッパでは小麦の不足分を家畜あるいは狩猟による肉食で賄わなければならなかったとか、イネやムギが作物となる以前はイネ科の草をまず家畜に食べさせ、それを人間が食べるため畜産業が最初に始まり、その後稲や麦が栽培できるようになって農業が始まったなど、縦横無尽に話題が広がります。

良くもまあこれだけの話題が次から次に出てくるものだなあと感心してしまいます。
お勧めします。