以前紹介した『百魔』と並んで、杉山茂丸の代表作です。
『百魔』が杉山茂丸の知人のそれぞれが主人公となる物語なのに対して、この『俗戦国策』は多数の知人が登場するんですが、杉山茂丸自身が主人公となっての話です。
市の図書館には在庫がなかったので県立図書館から借りてもらいましたが、昭和4年大日本雄弁会講談社から定価2円50銭で出ているものを読みました。この『大日本雄弁会講談社』というのは今の講談社の元々の名前です。講談社の名の通り、講談本のように、目次と見出しを除いて本文は全ての漢字に振り仮名が付いています。昭和4年の本ですから仮名使いは昔のものですが、内容が面白いので全く気になりません。結構やっかいな漢字も振り仮名付きなので安心して読めます。
明治10年、著者が14歳の頃の話から始まって昭和4年、この本が出版される頃までの話が677頁にわたって書いてあります。とはいえ、所々に挿絵が入っていて、それを見るのも楽しみで、あまり苦労しないで読むことができます。
登場人物は多岐に渡りますが、主として日本の政治・経済の話が多いので、伊藤博文・山県有朋・大隈重信・板垣退助・後藤新平・児玉源太郎などの人が良く出てきます。
この杉山茂丸という人は政・財界の裏で活躍した人なので、この本にしか出てこない話もたくさんあり、私の知らなかった話も多く、面白く読めました。とは言、この茂丸という人は別名『ホラ丸』とも呼ばれていた人なので、話の真偽のほどは分かりませんが。
日露戦争の時伊藤博文を人身御供にして日英同盟ができたとか、イギリスは実はフランス経由でロシアに金や武器を提供していたとか、戦後日英同盟は更新されたけど、最初の日本に優しい同盟が更新後は日本に冷たい同盟になっていた、などという話も書いてあります。
明治憲法ができた時の喜びもしっかり書いてあります。この杉山茂丸の勤王思想というのは、ちょっと独特なものですから、読んでみる価値があります。その立派な憲法を、藩閥政府も民権派の政府も一度も実施しようとしない、と言って、怒ってもいます。
あの天皇機関説事件についてもできればこの杉山茂丸の意見を聞きたい所ですが、昭和10年、ちょうど天皇機関説事件の真っ最中に杉山茂丸は亡くなってしまいますので、これは叶いません。
杉山茂丸の経済論も非常にユニークで現実的なもので、この本の中でも折に触れて出てきます。これも熟読玩味する価値があります。これが西洋流の経済学のどれに該当するものなのかも考えてみようと思います。
『戦国策』というのは大昔の中国の戦国時代に関する本ですが、この本は明治維新後の日本政界の戦国時代について杉山茂丸が知っていること、杉山茂丸だけが知っていることを講談あるいは漫談調で書いています。古い本なのでなかなか手に入らないかも知れませんが、是非読んでもらいたい本です。お勧めです。