宇沢弘文さんの本『経済学の考え方』『近代経済学の再検討』の次は、『ケインズ『一般理論』を読む』という本です。今は岩波文庫になっていますが、当初は岩波セミナーブックスというシリーズの一冊でした。はじめ、この岩波文庫の本を図書館で予約したのですが、いつまでたっても借りることができず、ちょっと古いけれどこの岩波セミナーブックスの方を予約したら大正解でした。版が文庫本よりかなり大きく、その分余白がたっぷり取ってあって、読みやすい本でした。
ケインズの『一般理論』はケインズが古典派の経済学を批判して、ケインズの経済学を提案している本です。しかもこの『一般理論』の読者として想定していたのが同業の経済学者、すなわち古典派の経済学者です。で、古典派の経済学を批判するにしても読者は古典派の経済学をしっかり理解している人ばかりです。そのつもりで書かれた本を、私のように経済学を良く知らない者が読むというのはなかなか大変です。古典派の経済学については、ケインズがそれを批判している所を読んで、そこからそんなものなんだろうな、と理解するしかありません。
ところがこの宇沢さんという人は、もともと古典派の経済学のスターとして活躍した人で、その後それを批判し、ついでにケインズの『一般理論』まで批判して『社会的共通資本』という考え方を主張した人ですから、古典派の経済学もケインズの経済学もしっかりわかっている人です。さらにこの本は市民セミナーでケインズの『一般理論』を読もうというものですから、読者として想定しているのは私のような経済学の素人です。私のような素人を読者としてケインズの『一般理論』を読みながら、そこに書かれて古典派の経済学、ケインズの経済学をきちんと解説してくれるという、何ともおあつらえむきの本であることが分かりました。
以前『一般理論』を読み終えた時、しばらくたったらもう一度『一般理論』を読み返そうと思っていたのですが、まさにうってつけのガイドブックがみつかったわけです。ケインズの『一般理論』とこの宇沢さんの本を一緒に読みながら、ケインズが批判している古典派の経済学、そのアンチテーゼとしてのケインズの経済学の両方を理解してみようと思います。
ケインズの『一般理論』でコテンパに批判されたはずの古典派の経済学が、その後もしっかり正統派の経済学の地位を保っているのはどうしてなのか、ケインズの経済学が勝てないのはなぜか、を考えながら読んでみようと思います。
この本の最初の部分に『なぜ『一般理論』を読むか』という章があります。この中で『一般理論』は経済学に大きな影響を与えたが、一方それを読んだ人はほとんどいない、ということが書かれています。ほとんどの人はケインズの経済学のヒックスによる解釈であるIS-LM理論を、ケインズ経済学そのものだと思い込み、あるいはそう教えられ、ケインズの『一般理論』を読むかわりにこのIS-LM理論およびその解説を読んで『一般理論』を読んだつもりになったということのようです。ですからこのIS-LM理論が破綻すると、それはケインズの経済学の破綻だと解釈したということのようです。
さらにケインズの『一般理論』というのは、ケインズとその周辺にいたケインズ・サーカスとよばれる(その当時)若手の経済学者達の議論をケインズが本にまとめたもののようですが、その中の中心的な人物の一人であるリチャード・カーンと宇沢さんが話した時の話として、『自分は昨年(1978年 一般理論の出版は1936年)初めて『一般理論』を読み通したが、一般理論の書き方はまったくひどい。一体何を言い、何を伝えようとしているのか、私にはまったく理解できない』という発言を紹介しています。すなわち『一般理論』の考え方を作った中心人物ですら『一般理論』をまるで読んでなかった、ということです。
何とも唖然とする話ですが、とはいえ、今となっては『一般理論』を読むしかないんですから、今度はじっくり読んでみようと思います。ケインズの書き方がひどいというのはわかっています。宇沢さんも平気で専門用語を使ってきます。このあたり専門家でない立場から、何とか解きほぐしながらじっくり読んでみようと思います。
ということで、古典流の経済学とケインズの経済学の両方の解説書としてお勧めします。