Archive for the ‘時事雑感’ Category

砂川事件の最高裁の判決書

月曜日, 7月 13th, 2015

安保法制で話題になっているので、まだ読んだことがなかったなと思い、砂川事件の最高裁の判決を読んでみました。

探すのがめんどくさいかなと思っていたのですが、ネットで検察すると一発で最高裁の判例のページからこの判決文のpdfファイルが手に入りました。

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/816/055816_hanrei.pdf

全部52でページ、なかなか読みごたえがありますが、本文は大したことはありません。
主文は
  原判決を破棄する。
  本件を東京地方裁判所に差し戻す。
の2行だけですから、これだけじゃ何もわかりません。
これに続く『理由』の所が50頁あるわけですが、その本文は5頁半です。残りはこの判決に参加した裁判官の補足意見です。この裁判は最高裁の裁判官全員参加の大法廷の裁判なので、裁判官は全部で15人います。そのうち10人の裁判官が8つの補足意見を出しているので、それだけで45ページということです。

事件自体はどうということのない事件で、米軍基地に日本人が不法に入り込んだ、ということなのですが、それを最初の裁判で『もともと日本に米軍基地があるのが憲法違反だから不法に立ち入ったのは無罪』としてしまったため大騒ぎになった、という事件です。

で、この最高裁の上告審の結論は『憲法違反なんて何アホなことを言ってるんだ、頭を冷やして裁判をやり直せ』というだけのことなのですが、その結論を出すまで日本の自衛権と憲法の関係とか憲法と条約の関係とか立法(国会)・行政(政府)と司法(裁判所)の関係とか、いろいろ面白い議論が展開されていて、さらに現行の憲法の下での自衛権について最高裁が判断を示した唯一の判例だということで、有名になっているものです。

で、この判決文、ちょっと長いですが、非常に面白くあっと言う間に読めてしまいます。時間がなければ少なくとも最初の本文の所と、次の裁判長の田中耕太郎さんの意見の所だけでも読んでみて下さい。この2つで10頁半ですからすぐ読めます。特に田中さんの意見の所を読むと、今の自民党の案がいかにおとなしいものか良く分かります。

憲法学者や反安倍の政治家が、この判決では『自衛権と言って個別的自衛権か集団的自衛権か言っていないんだから、集団的自衛権は認められない』なんてことを言ってますが、それは明らかに嘘だということが良く分かります。この判決文には『自衛権』という言葉と『個別的自衛権』という言葉と『集団的自衛権』という言葉が出てきます。この三つが全て出てきて、その中で『自衛権』という言葉が出てきたら、それは『個別的自衛権と集団的自衛権を合わせた、全体としての自衛権を意味する』というのは、日本語の読み書きが分かれば当然の話で、ここに集団的自衛権と書いてないから集団的自衛権は除くんだ、なんてことはあり得ません。

もちろん憲法学者は日本語があまり得意じゃないようなので、そこらへんが分からない人もいるかも知れませんが、政治家でそこらへんを分からない人がいたら、その人はもう政治家をやめた方が良いと思います。

で、この判決の主旨は個別的であろうと集団的であろうと、自衛権は憲法9条に違反するものではないということと、その自衛権を具体的にどのように実現するかというのは政治的な話なので、裁判所が判断することではない、ということです。

この裁判の裁判官達はちゃんと三権分立の原理を理解しているので、裁判所が勝手に国会の立法権や政府の行政権に介入することは三権分立に反して憲法違反になる、と判断しています。その点、三権分立を理解しないで憲法違反の発言を繰り返す憲法学者や野党の弁護士政治家たちとは違います。

裁判長の田中さんの意見を読むと、もっと面白くなります。この人によると、自衛というのは権利であると同時に義務でもある。『一国の自衛は国際社会における道義的義務でもある。』と言っています。さらにその防衛する対象が自国なのか他国なのかというのは結果的に同じことになるので、『(従って)自国の防衛にしろ他国の防衛への協力にしろ、各国はこれについて義務を負担しているものと認められるのである。』と言っています。

さらに『防衛の義務はとくに条約をまって生ずるものではなく、また履行を強制しうる性質のものでもない。』と言っています。すなわち、安保条約のような条約を結んでいる相手の国だけでなく、そんな条約を結んでいない国であっても、その国が攻撃される時には防衛に協力する必要があると言っています。

『憲法9条の平和主義の精神は、憲法前文の理念と相まって不動である。それは侵略戦争と国際紛争解決のための武力行使を永久に放棄する。しかしこれによって我が国が平和と安全のための国際協同体に対する義務を当然免除されたものと誤解してはならない。』と明確にしています。

そして最後に『要するに我々は憲法の平和主義を単なる一国家だけの観点からでなく、それを超える立場すなわち世界法的次元に立って民主的な平和愛好諸国の法的確信に合致するように解釈しなければならない。自国の防衛を全然考慮しない態度はもちろん、これだけを考えて他の国々の防衛に熱意と関心を持たない態度も、憲法前文にいわゆる「自国のことのみに専念」する国家的利己主義であって、真の平和主義に忠実なものとは言えない。』としています。

この他にも面白いコメントがたくさんある判決文です。
お勧めします。

惑星の運動

火曜日, 6月 16th, 2015

先日、『ファインマンさん 力学を語る』という、ファインマンによるニュートン力学の惑星の軌道の話の本を紹介しました。
このファインマン流の引力の法則で面白かったのが、惑星の運動で、速度ベクトルの変化を見ると、速度ベクトルが円を描いている、ということでした。
もちろんそれが原点を中心として円を描いていると、元の惑星の軌道は円を描くことになるのですが、一般的には原点でない点を中心とした円を描く、ということになるわけです。
ファインマンはこのことを基に幾何学的に惑星の軌道が楕円になる、ということを証明しているのですが、この速度ベクトルが円を描く、ということを幾何学的ではなく解析的に書くとどうなるか、やってみました。
普通、ニュートン力学の惑星の軌道の計算ではrの逆数をたとえばu=1/rとして、rに関する微分方程式をuに関する微分方程式に変換して、いろいろやった挙句、軌道が楕円になることを証明しているのですが、この速度ベクトルが円になる、という方からアプローチするとごく簡単に角度と距離の式が書け、軌道が楕円になることが証明できてしまいます。また、その結果として楕円軌道の回転の周期が楕円の長半径の3/2乗に比例することもごく簡単に証明することができます。

うまくいってうれしくなってしまったので、これをまとめてメモしておきました。

惑星の運動.docx

もし、興味があったら読んでみてください。

憲法審査会のビデオ

水曜日, 6月 10th, 2015

衆議院の憲法審査会のビデオを見てみました。

http://www.shugiintv.go.jp/jp/index.php?ex=VL&deli_id=44973&media_type=

例の、憲法学者の3人が与党の安保法制を憲法違反だ、と言った、と言って話題の憲法審査会です。

2時間半とちょっと長めのビデオですが、途中コマーシャルが入るわけでもなく、また国会のいろんな委員会の中継のように野次や怒号があるわけでもなく、落ち着いて楽しめます。

憲法学者に対して国会議員は『先生』と呼び、憲法学者は国会議員に対して『先生』と呼び、もちろん学者同士も相手を『先生』と呼び、憲法学者は質問されると質問した国会議員に対して『ありがとうございます』と言い、議員は質問に答えてもらうと憲法学者に対して『ありがとうございます』と言い、静かな雰囲気で淡々と質疑が進みます。

話題の、憲法学者の3人が与党の安保法制を憲法違反だ、と言った場面でも別に騒ぎが起きるわけでもなく静かに淡々と質疑が続いています。

もともとこの憲法審査会は『立憲主義』と『憲法審査権』『憲法裁判所』をテーマにしたもので、安保法制が合憲か違憲かをテーマとしたものではありません。

それで、3人の憲法学者はその本来のテーマに従って持論を展開して説明しているわけですが、議員の質問に移ってから、民主党の議員が安保法制が合憲か違憲かについての見解を質問してしまったので、話がおかしな方向に向かってしまった、ということです。

最初の部分の『立憲主義』のあたりも、憲法学者がいかにとんでもない議論を真面目に展開するのか知るために見る価値があると思います。

民主党推薦の小林さんという先生はとことん改憲主義者のようで、憲法9条が諸悪の根源で、何が何でも憲法9条を改正することが重要だ、という、いわゆる護憲派の人々が聞いたら涙を流すようなことを主張しています。

この小林先生という人はなかなか面白い人で、憲法に関して本質的なことを平然と説明しています。例えば、法律にはそれに違反したときに罰則や刑罰が定められていて、行政や司法がその後ろ盾になっているんだけれど、憲法は法律を超えた最高法規なので、後ろ盾になる存在はない、誰か(例えば政府)が憲法違反をしたとしても、その憲法違反をとがめ立ててやめさせる力を持った存在はない、その場合は国民主権の投票行動によってそのような政府を変えるしかない、というようなことを平然と説明します。
国際法についても、国際法の世界は戦国時代のようなもので、何が国際法に適っていて何が国際法に違反しているのか最終的な判断をする権限のある存在はない、というようなことを平然と主張しています。

民主党の議員が質問しているのは、ビデオの右下の全部で1時間48分と表示されているところで1時間35分経過、と表示されているあたりですから、時間がない人はここのところだけ見てみても面白いと思います。質問している民主党の議員の隣には辻元さんも映っています。憲法学者たちが3人そろって憲法違反だ、と言ったところでは画面は憲法学者たちを映していて辻元さんがどんな表情をしていたのかは映っていませんが。

とにかく、楽しめるビデオで、お勧めです。

『地獄である』

火曜日, 3月 24th, 2015

昨日(3月23日)の日経新聞朝刊の40ページに全面広告でバカでかい活字で『地獄である』なんてのがありました。一体何だろうと思ったら、『一人一票実現国民会議』という名前で、弁護士の升永英俊という人が出している広告のようでした。

いわゆる一票の格差の問題について主張しているもののようなんですが、何ともはやの論理展開で、やはり弁護士さんは論理的思考ができないんだなと思ったのですが、面白いので紹介します。

  1. 最高裁の裁判官のうちの何人かは、参議院選での一票の格差の問題で、選挙は違憲状態にあると判断しており、違憲状態にある選挙で選ばれた国会議員には正当性がない、と言っている。
  2. 最高裁の判決では衆議院選は違憲状態にあり、選出された議員は正当性がなく、その議員を含む内閣には正当性がない。
  3. 裁判官はその正当性のない内閣により任命されているので、裁判官も正当性がない。
  4. 正当性のない裁判官が死刑の判決をするのは、人の道に背く。自分が仮にその正当性のない裁判官であったら、たとえ自分が殺されても実刑判決はしない。
  5. 正当性のない裁判官が死刑判決を言い渡し続けているのは地獄である。
  6. この地獄を止める唯一の方法は(一票の格差に関して)違憲無効判決を言い渡すことである。
  7. アメリカでも州議会選挙で972倍もの一票の格差があったのを、連邦最高裁判所の判決で一人一票になった。

ということのようです。
何ともはや、ツッコミどころ満載の支離滅裂の議論ですね。

正当性のない最高裁判所の裁判官が違憲無効判決をすれば全て解決する、というのはどういう理屈によるんだろうと思います。こんな訳の分からない人が裁判官でなくて良かったな、と思いました。

それにしても日経新聞の1ページ全部の広告ですから、結構お金がかかったんじゃないかなと思います。

この弁護士さんが、今全国で行われている一票の格差問題の選挙違憲裁判の中心人物のようです。
よっぽどお金と暇がある人なんでしょうね。

『保険会社のERMに関するブログを始めました。』

金曜日, 2月 27th, 2015

このサイトの『練習帳』掲示板に、久々に投稿がありました。

http://acalax.info/bbs/wforum.cgi?no=3608&reno=no&oya=3608&mode=msg_view&page=0

内容は、
『保険会社のERMに関するブログを始めました。ご意見賜わることができれば幸いです。』
というもので、
http://blogs.yahoo.co.jp/erm_insurance

というリンクが張ってあります。
erm_insuranceという人の投稿のようです。

『ERMの実務者であれば誰もが酒の席で語らうような悩みや疑問への回答に踏み込むようなブログにしていきたいと思っています。』
というコメントで始まっています。

なかなか面白い問題提起かもしれません。
保険会社のERMについて、現実的に、実務的に考えるためのヒントあるいはきっかけになるかもしれません。
興味がある人は見てみてください。
また、よかったらコメントしてください。

言論の自由と信教(信仰)の自由

金曜日, 2月 20th, 2015

フランスのシャルリー・エブドという風刺画の雑誌社がテロリストの攻撃を受け10数人が殺されてから、『言論の自由を守れ』というキャンペーンがいろんな所で行われています。

しかしこれは実はすり替えであって、問題となっているのは『言論の自由』ではなく『信教の自由』あるいは『信仰の自由』の問題ではないかと思います。

シャルリー・エブドはイスラム教の預言者マホメッドをバカにする風刺画を描いて、それを出版した、それに対してイスラム教徒は、最高・最後の預言者を冒涜するものだとして怒った、その延長線上でテロリストがシャルリー・エブドを襲い、10数人を殺した、というのが事件のあらましです。

これに対して、風刺画を描いて発表するということは言論の自由に関することであり、その雑誌社を襲って人を殺すというのは言論の自由を侵すことだ、というのが一般に行われている説明です。

このテロが行われたのはフランスで、フランス革命の国です。フランス革命というのは絶対王政を倒して民主政(共和制)にする革命だったのですが、実はキリスト教の支配体制を倒す、反キリスト教の革命でもあって、一時はキリスト教を否定して人工的に神様を作って山車を出してお祭りをした、という話もあります。

その後フランスは帝政になったり王政に戻ったりまた革命を起こして共和制になったりと色々変わっていますが、共和制(今も何回目かの共和制です)である時はフランス革命を引き継いでキリスト教を否定し(明確には言わないものの)、無神論を国の政治の方針としています。

『無神論』というのは日本では『特に宗教に入ってないよ』とか『神も仏もあるものか』とか、『別にどんな神様でも良いんじゃね』とかの感覚で無宗教と混同されることも多いのですが、本来的にはまるで違うものです。

すなわち(キリスト教社会の中)の無神論というのは、むしろ積極的に神を否定するもので、とはいえ存在しない神を否定してもしようがないので、存在しない神を信仰している人に対して、その人が信仰している神は存在しないんだということを分からせて目を覚まさせてあげることを目的としている宗教です。

ですからいろんな神様の神殿を壊したり・焼き払ったり、神様の像をたたき壊したり・教典を破ったり・焼いたりすることが、無神論では正しい宗教活動ということになります。

ヨーロッパのキリスト教国は、キリスト教にはひどい目にあっています。異端だといって迫害したり、新教と旧教に分かれて国民同士が殺し合ったりしたりして、国民の1/3とか1/2とかを殺したりという経験をしています。ドイツなんかは新教・旧教の戦いのために外国の軍隊まで乗り込んできて国土が荒らされ国民が殺されたという経験をしています。

そのため殺し合いが終わった後は、一応『もう殺し合いはやめよう』という合意ができています。

宗教が違う相手の宗教を認めることはできなくても、そのために『相手の宗教を否定して相手の宗教の信者に改宗を迫ったり殺したり、なんてことはやめて、自分の宗教を信じ、それを実践していくだけにしよう』という合意ができています。

これでほとんどの宗教はなんとか収まりがつくんですが、収まりがつかないのが『無神論』という過激な宗教です。この宗教の場合、宗教活動というのは神を殺すことですから、神を信じている他の宗教の信者の所へ行って、その神を壊すことだけが正しい宗教の実践です。それをしないということは正しい宗教活動をしていない、ということになってしまいます。

で、フランスは無神論の国で、政教分離の建前からいろんな宗教は認めてはいるんですが、特定の宗教を優遇したり差別したりはしません。そのため無神論という宗教も同様に認めているわけです。

で、認められている無神論の信者達は、その教義に従って他の宗教の神を殺そうとするのですが、教会やモスクやシナゴーグを焼き打ちしたりすると、これは宗教活動ではなく犯罪だ、ということになってしまいます。

そのためその代わりに、神や教祖や信徒を誹謗あるいは冒涜するような行為をするわけです。それを文書や画像等で行えば、それは『他の宗教に対する誹謗中傷だ、冒涜だ』という批判に対して『表現の自由だ』ということで正当化できるからです。

キリスト教徒が多い社会では、さすがにフランスであっても正面きって無神論者を名乗るのは危険なことです。それは無政府主義者を名乗るようなもので、社会的に危険人物と見なされてしまいます。しかし、風刺画を描いているだけだ、ということであれば、まだ何とか受け入れてもらえるようです。それに反対する人は風刺画のユーモアを解さない朴念仁だ、というわけです。

このようにして『表現の自由』を隠れ蓑に無神論の『信仰の自由』を実践しているのがシャルリー・エブドという雑誌社です。

そういうわけで、今回のシャルリー・エブドのテロは表現の自由の問題というより、無神論とイスラム教の宗教戦争と捉える方が正しいようです。

フランスは政治的には無神論を奉じているわけですから、当然シャルリー・エブドの側に立ちますが、それを正面からそのように言うと、他の国は基本的に無神論には警戒感・嫌悪感を持っていますから、他の国を味方に付けることができなくなります。で、信仰の自由の代わりに表現の自由を持ち出して来るわけです。

他の国も宗教問題となったらできるだけ触らぬ神に祟りなし・・ということになるのですが、表現の自由と言われれば、フランス政府の仲間になってテロリストに抗議するデモに参加することができる、というわけです。

もちろん欧米の人は無神論がいかに危険なものかは分かっていますから、表現の自由なんて言葉に騙されないで、これは無神論の話だとわかっている人も多いと思いますが、日本人はどちらかといえば宗教問題にはあまり感度が良くないし、特に無神論については良くわかってない人も多い、と思います。

その意味で今回の事件が一体何だったのか、もう一度良く考えてみることが必要ではないかと思います。すなわち、無神論の信教の自由(信仰の自由)は、どこまで許されるのか、ということです。

『理研の調査委員会報告書』

火曜日, 1月 6th, 2015

昨年12月26日に発表された、例のSTAP細胞に関する論文についての理研の「研究論文に関する調査委員会」の報告書と、それに関する説明用のスライドを読みました。

この報告書の目的はSTAP細胞に関する(Natureに載った)三つの論文について、研究不正があるかどうか、もしあるならその責任を負うべき物は誰かを明らかにすることで、調査の対象となるのはSTAP細胞を作った(ことになっている)小保方さんと小保方さんの作ったSTAP細胞からSTAP幹細胞を作った(ことになっている)若山さんと、研究チームのリーダーであった丹羽さんの三人です。

で、結論としては、論文の中の図についていくつかデータの捏造がみつかり、小保方さんの責任だと認定しており、若山さんと丹羽さんについては研究不正は見つからなかったということです。

しかしこの報告書の中味は、むしろ小保方さんが作ったSTAP細胞から若山さんが作ったSTAP幹細胞といわれるものが、遺伝子を調べてみると全て(STAP細胞とは別の実験で)若山さんの研究チームが作ったES細胞と同じものだということが分かったということのようです。

本来小保方さんの作ったSTAP細胞が残っていればそれを調べるのが一番良いんでしょうが、STAP細胞というのはほとんど増殖しないので、あまり長くはもちません。で、今はもう残っていません。しかしそのSTAP細胞をSTAP幹細胞にすれば増殖するようになり、ずっと残すことができるということのようです。

で、残っているSTAP幹細胞が全て別の実験で作られたES細胞と同じものだと分かったわけですが、それはSTAP細胞ができたと言った段階でES細胞だったということなのか、STAP細胞からSTAP幹細胞を作った、と言った段階でES細胞になったということなのかは分かりません。もちろんSTAP細胞を作る作業のどこで元となったマウスの細胞がES細胞になったのか、あるいはSTAP細胞からSTAP幹細胞を作る作業のどこでES細胞にすり替わったのかについては分からないままです。

この調査は理研の中の調査ですから、分からないことは分からないと報告すれば終わりです。犯罪の捜査であれば、容疑者を取調べたりということになるのでしょうが、そこまでのことはできるはずもなく、しようともしないということです。

で、この報告書なんですが、読み始めた途端、あきれはててしまいました。調査の対象となる幹細胞に名前をつけて説明しているんですが(全部で12個の幹細胞が対象となっています)、たとえば報告書の一覧表ではFLS1~8となっているのが、スライドの方ではFLS3となり、報告書の本文ではFLSとなっているとか、報告書の一覧表では129B6F1ES1となっているのがスライドでは129B6F1となり、さらに129B6F1 GFP ES6となっているというような具合です。それが同じものを指しているのか違うものなのか、はっきりしません。だいたい分かるから良いじゃないか、ということなのかも知れませんが、そんないい加減なことで良いんだろうかと思います。

細胞生物学あるいは遺伝子生物学というのはそんなにいい加減なものなんだろうか。あるいはこの報告書は論文でなく単なる報告書だからこんなもんで良いんだということなんだろうか、あるいは理研の中の関係者が分かれば良いんで、外部の人間が報告書を読んで分かりにくくても良いんだということなのか分かりませんが、ちょっとがっかりです。

しかし報告書の中味については、この種のマウスの常染色体19対と性染色体1対の全てのゲノムをチェックして、どれとどれがどれほど似ているか・違いがどれほどあるかを調べ上げ、ここまで同じということは一方が他方から作られたものと考えるしかない、という結論を出す所は、遺伝子生物学の技術というのはとてつもなく進歩してしまっているんだなとホトホト感心しました。

で、STAP幹細胞3種類とF1幹細胞1種類が7種類のES細胞のうちの4種類のどれかと実質的に同じものだという結論が出て、結局これまでSTAP幹細胞だと言われていたものは実はES細胞であり、STAP幹細胞の証拠とされていたものはES細胞だから、ということになってしまったということです。

こうなると一番の疑問は、若山さんが行ったとされるSTAP細胞からSTAP幹細胞を作った作業というのは一体何だったんだろうということです。単にES細胞からES細胞を作ったということなんでしょうか。またその作業の過程で幹細胞でないもの(STAP細胞)から幹細胞(STAP幹細胞)を作るという作業と、既に幹細胞になっているもの(ES細胞)から幹細胞(ES細胞)を作るという作業の違いに気が付かないものなんだろうか、などという疑問がわいてきます。

STAP細胞ができたというニュースは、小保方さんの成果として大騒ぎされましたが、STAP細胞だけでは増殖もしないし、ほとんど何の役にも立ちません。これがSTAP幹細胞になることでES細胞やiPS細胞に匹敵する有用性が得られることになるので、今回のSTAP細胞に関する論文がその通りだったとしたら、小保方さんよりむしろ若山さんの方が脚光を浴びてもおかしくない話です。それだけ重要な仕事をした若山さんが論文を書くにあたり、基本的な確認作業をしなかったというのは、驚くばかりです。

また論文の全体について構成や文章作成について主に担当した笹井さんが、小保方さんの実験についてほとんど具体的に確認しないで、小保方さんの話を聞くだけで小保方さんに追加資料を作らせたり論文を書いたりしているようだ、というのも驚いてしまいます。

で、報告書の30ページにある
 【STAP細胞論文の研究の中心的な部分が行われた時に、小保方氏が所属した研究室の長であった若山氏と、最終的にSTAP論文をまとめるのに主たる役割を果たした笹井氏の責任は特に大きいと考える。】
は正にその通りだと思います。
この文章に続く
 【たまたま小保方氏と共同研究する立場にはなかった大部分の研究者も、もし自分が共同研究をしていたらどうなったかと考えると、身につまされることが多いだろう。】
という文とそれに続く文章は、論文に関する調査報告書の全体の結論として、今後このような問題が生じないようにするために自然科学者全員がどのようにすべきか、というメッセージになっています。

マスコミではともすると犯人捜しに注目が集まり、調査が中途半端だなどと批判されているようですが、もっと本質的なところにきちんと注目して冷静な分析と提言ができるというのは、やはりこの調査委員会、なかなかやるな、と思いました。

上で引用した報告書の30ページの部分以降、全体で1ページほどですが、なかなか読みごたえのある文章です。是非ネットで調べて読んでみて下さい。

報告書は、http://www3.riken.jp/stap/j/c13document5.pdfにあります。 

『GDP速報値』

火曜日, 12月 9th, 2014

7-9月のGDPの第2次速報値が昨日(12月4日)発表されました。前回の第1次速報値で、4-6月期は対前期比がマイナスになったのが今度は対前期比プラスだろうと皆が思っていたのにマイナスになってしまい、それが口実で解散総選挙となったわけですが、今度の第2次速報値では、調子良いはずの法人統計が計算に反映されるため、今度こそ対前期比プラスになるだろうとまたもや皆が思っていたのがマイナスになり、しかもほんのちょっとですが、第1次速報値より第2次速報値の方がマイナスが大きかった(季節調整済みの実質GDPの対前期比が、年率換算で、第1次速報値ではマイナス1.6%、第2次速報値ではマイナス1.9%)、という結果でした。

これで野党の方は「それ見たことか」「アベノミクスは失敗だ」と声を張り上げているようです。自民党の方は「ちょっと時間がかかるだけで、アベノミクスはうまく行っている」と主張し続けています。

私も法人統計がGDP速報に反映されれば前期比プラスになるだろうと思っていたので、ちょっと、もとの数字を見てみました。すると7-9月期のGDPそれ自体は第1次速報値より第2次速報値の方が大きくなっています。しかしGDPが大きくなっているのは7-9月期だけでなく、それ以前の期も軒並み大きくなっています。特に直前の4-6月期の増額修正は7-9月期の増額修正より大きく、その結果として対前期比がマイナスになってしまった、ということのようです。

通常の月であれば第1次速報値と第2次速報値の違いは法人統計の所くらいなものなのですが、12月に発表される速報だけはこれ以外にも、前年(2013年)の数値についてGDPの確報にもとづいて修正し、さらに前々年(2012年)の数値についてGDPの確々報にもとづいて修正するということをやっているので、結果として2012年の頭の分から数字が大きく修正されています。

名目原系列というナマの数字についてはこのように2年前の頭からの修正ですが、これが実質の年換算の数字となるとこれに季節調整が加わるので、さらに数年さかのぼって数字が変わります。

そんな仕組みになっているというのは、今回の修正を見るまで知りませんでした。で、GDPは7-9月期、4-6月期より落ち込んだわけですが、それは4-6月期が今まで思っていた以上に良かったんだという話で、これは2012年の1-3月期までさかのぼってずっと今まで思っていた以上に良かったんだ、という話でした。このあたり、詳しい話は、元の数字を見るしかなく、政府の発表資料には載っていないので、新聞では報道されていません。一応このような話があるというくらいは発表資料でも軽く触れてはいるんですが。

とまれこの7-9月期の第2次速報値が前期比プラスになっていたとしたら、野党の方のアベノミックスは失敗だという主張が難しくなっていたでしょうし、またその時にはアベノミクスはうまく行っているのになぜ消費税の引き上げを先送りしたんだ、なぜ解散したんだという話になり、わけのわからない選挙になっていたかも知れないと考えると、まあまあ良かったかなと思います。

あとは14日の投票結果を楽しみに待ちたいと思います。

私は6日の土曜日に早々と不在者投票を済ませてしまっているんですが、今回は読売新聞の出口調査の対象となりました(前回はNHKの出口調査でした)。土曜日なのに寒い中投票所の前で待っている、というのもご苦労様なことです。

データベースがパンクしました。

火曜日, 11月 11th, 2014

しばらく、この『ブログ版コメント』のページが編集できませんでした。

10日ほどかかってようやく、データベースがパンクしていたことが分かりました。
その理由は、例によってジャンクのコメントがたくさん入ってきたためかと思っていたのですが、データベースの中を見てみたら、なんとこのページの右上の方にあるカウンタの集計のためのレコードが膨大に膨れていた、ということが分かりました。

そこでもちろんそのデータをすべて削除して、カウンタはゼロスタートでやり直しです。

これで何とか無事に動いてくれるといいのですが。

GDP速報値

水曜日, 9月 17th, 2014

GDPの速報値の公表がマスコミで大きく取り上げられています。

まずは8月13日に1回目の速報が発表され、4-6月期の対前期(1-3月期)のGDPの落ち込みが年度換算で-6.8%となっていることを捉えて、『アベノミクスはこれまでだ』『消費税引き上げは失敗だ』『来年のさらなる消費税引き上げはできっこない』というような記事がたくさん出ました。

これに対してinswatchという保険業界向けメールマガジンにコメントを載せました(これは以下に『1回目の速報に対するコメント』として付けてあります)。

この後今度は9月8日に2回目の速報が発表され、ここでは1回目の速報で-6.8%だった成長率が-7.1%に下方修正されたのを受け、さらに『アベノミクスはもう駄目だ』という大騒ぎの記事がマスコミから出されています。

いちいち反応してみても仕様がないのですが、念のためにこの2回目の速報値を1回目のものと比べて見た所、マスコミの報道とはまるで違う姿が見えてきたので、改めてそれを『2回目の速報に対するコメント』として最後に付けてあります。

ちょっと長くなりますが、良かったら読んでみて下さい。

『1回目の速報に対するコメント』
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GDP速報値

2014年4-6月期のGNP速報値が発表され(8月13日)、景気の動向に関する議論が大にぎわいです。四半期の実質GDPの前期比の伸びが、1-3月期の+1.5%(年率換算6.1%)から4-6月期は-1.7%(年率換算-6.8%)となってしまったことで、『景気回復ももう終わり、アベノミクスもここまでだ』というような論調です。

で、本当だろうかと思ってよく見てみると、私にはまるで違って見えます。4月からの消費税の引き上げにもかかわらず、景気は順調に回復中だ、という姿が見えます。このあたりについて、書いてみます。

まず、この4-6月期の、-1.7%(年率換算-6.8%)というのは、四半期の季節調整済みの実質GDPの、対前期(1-3月期)増減比が-1.7%だということを意味しています。実質でなく名目ベースでは、-0.1%(年率換算-0.4%)ということも、発表資料には書いてあり、記事によってはこれについて触れているものもいくつかあります。実質ベースの名目ベースというのはインフレ率の調整をしているかどうか、という違いです。この実質ベースのGDPも名目ベースのGDPもどちらも季節調整済みの数字です。季節調整する前の数字については発表資料には書いてありませんから、その元となったデータを見なければなりません。
その、元データには、季節調整前の名目ベースのGDPもちゃんと計算されています。その季節調整前の名目ベースのGDPの対前期伸び率は+0.1%(年率換算+0.5%)です。すなわち、ほんのちょっとですが、前の期より増えている、ということです。

もともとGDPというのは山ほどの統計資料から作り上げるものです。季節調整前のGDPの元となる数値ができたところでインフレ率の調整をした、実質ベースのGDPの計算のための数値を計算します。それを積み上げて季節調整前の名目GDP、実質GDPを計算するのですが、さらに、その元となる数値に対して季節調整をした数値をそれぞれ計算し、それを積み上げたものが季節調整済みの名目GDP、実質GDPとなります。
すなわち、一口にGDPと言っても季節調整前の名目GDP、実質GDP、季節調整済みの名目GDP、実質GDP、と、4種類ある、ということです。
どういうわけか普通はこのうち、季節調整済みの実質GDPが最も重要な意味のあるGDPだ、ということになっているんですが、私はむしろ季節調整前の名目GDPが一番信頼できるデータだと思っています。給料が上がったとか下がったとか、企業の売り上げや利益が上がったとか下がったとか、実質ベースとか季節調整済みとかで考えることはありません。すべて季節調整なしの名目ベースで考えています。であれば、GDPも同様に考えるのが最も自然なやり方です。
季節調整済みの実質GDPと季節調整前の名目GDPの違いは、インフレ率の調整をしているかどうか、ということと、季節調整をしているかどうか、ということです。どちらの調整もしていない季節調整前の名目GDPの方が、両方の調整をしている季節調整済みの実質GDPよりも、調整によるゆがみがない分、信頼できる統計データだと思います。
特に今回のGDPの議論は、4月からの消費税の引き上げによって景気がどうなったか、をどう見るか、ということですから、これを見るには季節調整前の名目GDPを見るしかありません。
1-3月期と4-6月期は状況が大いに異なります。消費税の引き上げにより、1-3月期、あるいはもっと前の2013年の7-9月期、10-12月期には消費税引き上げ前の駆け込みの消費があり、その分4-6月期は消費が減っているはずです。また、Windows XPのサービス終了に伴うパソコン購入も1-3月期以前の消費を押し上げています。
これらの要因のため、3月以前には駆け込みで消費が増え、4月以降は消費が減ることを見越して消費材の値段も3月まではちょっと高め(でも売れるから構わない)、4月以降はちょっと低め(にして、消費税の引き上げの影響を少なくして少しでも売り上げを増やす)、というようになっています。
このような消費の時期のシフト、それに伴う価格の変動がいつ、どの程度起こっていたのかをきちんと分析するにはかなり時間がかかります。
ですから、GDPの実質値への調整、季節調整はどちらも当面は過去の実績に基づいた調整をするしかない、ということになります。それが、実質GDPあるいは季節調整済みのGDPのゆがみになってしまいます。
このGDPの元の数字の系列は見ているととても面白いのですが、一つだけ紹介しましよう。
四半期GDPの実数は、最近では大体120兆円です。2013年の10-12月期は125兆円、2013年の1-9月の3四半期はどの四半期も117-118兆円です。これが、2014年の1-3月期、4-6月期はどちらも120兆円です(4-6月期は1-3月期より0.1兆円多くなっています)。で、面白いことに2013年7-9月期から2014年4-6月期まで、毎期、前年同期と比べて2兆円増加しています(2013年10-12月期は3兆円の増加です)。
このように、前年に比べてGDPは明らかに増加しており、消費税の引き上げ直後で消費が落ち込むと思われていた4-6月期も2兆円の増となっています。
ほかにも在庫の増減など、7月以降の四半期についてもGDPが順調に伸びていきそうな数字がいろいろ見つかります。
期待して見ていきたいと思います。
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『2回目の速報に対するコメント』
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4-6月期の四半期GDPについての2回目の速報で、対前期比伸び率が年率換算で-7.1%になった(1回目では-6.8%だった)ということで、大騒ぎですね。

本当かいなと思ってみてみたら、なかなか面白いことが分かったので報告します。

結論から言うと、1回目の速報に対するコメントと同様、日本経済は順調に回復しているということが言えます。

4-6月期のGDPの季節調整前の名目値は1回目の速報で120兆6,142億円、2回目の速報では120兆6,125億円、17億円だけ減っています。率で言えば、-0.0014%です。

これが同じ期の季節調整後の実質値になると(季節調整後の数字は年率換算するので、四半期の数字の約4倍になります)、1回目の速報が525兆8,017億円、2回目の速報が525兆2,506億円と、5,511億円減少、率で言うと-0.1048%です。

すなわち-0.0014%が-0.1048%に約80倍に膨らんでしまう、あるいは-17億円が-5,511億円に約300倍になってしまう(そのうち、約4倍が四半期ベースから年換算にした影響ですから、残りは70倍程度で、80倍と大体あっています)。これが季節調整と実質化の効果です。

なお季節調整後の実質GDPが季節調整前の名目GDPの4倍より大きくなっているのは、GDPデフレーターによって実質値が水増しされているからです(GDPデフレーターでは未だにデフレの状態が続いています)。

で、この2回目の速報に関するマスコミの記事では、下方修正の主要な要因として、民間企業の設備投資が大幅に減っていることが指摘されています。ところが実はその減った分以上に民間在庫品増加が大幅に増えていることはほとんど報道されていません(これは元数字を見ればすぐわかるのですが、政府の発表資料にはここの所に数字が入っていないので、発表資料だけにもとづいて記事を書くマスコミにはわからないかもしれません)。

1回目と2回目で大きく違うのは、この民間企業の設備投資と民間在庫品増加ですから、これを実数で見てみましょう。季節調整前の名目値では民間企業設備投資が16兆81億円から15兆5,115億円に4,966億円減少、民間在庫品増加が7,839億円から1兆4,456億円に6,617億円増加。合わせて1,651億円増加しているんですが、季節調整後の実質値では民間企業設備投資が72兆7,846億円から70兆7,488億円に2兆358億円の減少、民間在庫品増加がマイナス1兆4,573億円から5,377億円に1兆9,950億円増加、合わせて408億円の減少になっています。

企業の設備投資というのは、ちょっと長期的な消費の見通しにもとづくもので、在庫品増加は短期的な消費の見通しにもとづくものです。1回目と2回目の速報値を比べると、設備投資の方は3.1%とちょっとだけ減って、在庫投資の方は84.4%増と、倍近くに増えています。

これは企業の方は7月以降の景気の動向について、かなり楽観的な見方をしているということを示しています。

結論は同じなのですが、今回の作業を通じて、またもや季節調整や実質値化は経済の実態をわかりにくくする危険な指標だなと実感しました。
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