ビットコインのマウントゴックス、裁判所に民事再生法の適用を申請し、新しいステージに入っています。ということは、当初の再生プランは成立しなかったということでしょうか。
申立てにあたってマウントゴックスは、ビットコインが盗まれただけでなく現金あるいは銀行預金も盗まれてしまったと言ったようです。日本の警察を甘く見て、自ら墓穴を掘ってしまったような気がします。ビットコインと違って、現金はそう簡単には隠せませんから。
今回の事件、私なりの推測を書いてみます。
マウントゴックスはビットコインの預かりをしていたようです。
銀行はお金を預かるのですが、その預かり方は2通りあります。
一つは普通に銀行の預金口座を使うやり方です。
預ける人(Aさんとします)が100万円銀行に預けると、Aさんの預金口座に100万円預かったと記録されます。銀行の会計上は現金が100万円、預金という借金が100万円増えることになります。すなわちAさんの預けた100万円は銀行の物になり、その代わりにAさんは銀行に100万円貸したことになるわけです。Aさんが預金を取崩す時は、銀行は手持ちの現金からAさんに100万円支払い、Aさんの預金口座は残高を0円とし、会計上は現金が100万円減って、預金という借金が100万円減ることになります。
もう一つのやり方は、銀行に貸金庫を作ってもらってその中に現金100万円をしまっておくというやり方です。このやり方だと現金100万円はAさんの物のままで、銀行はそれを預かっているということも知らないことになります。
マウントゴックスがやっていたビットコインの預かりがどちらのやり方だったのか良くわかりませんが、最初のやり方だとすると、これは次のような流れになります。
Bさんが現金100万円でビットコインを買いに来て、1ビットコイン=5万円のレートで20ビットコインを買ったとします。それをそのままマウントゴックスに預けることにすると、その20ビットコインはマウントゴックスの20ビットコインとなり、その代わりにBさんはマウントゴックスに20ビットコインを貸していることになります。マウントゴックスからすると、最初持っていた20ビットコインを現金100万円と引き換えにBさんに売り、それをBさんから預かって20ビットコインを取り戻し、その代わりに20ビットコインをBさんから借りた、ということになります。すなわち手持ちのビットコインは変わらないで現金が100万円増え、ビットコインの借りが20ビットコイン分増えたということになります。
手持ちのビットコインは変わらないのですから、次にCさんがビットコインを買いにきても同じように現金とビットコインの借りを交換し、ビットコインの手持ちの額は変わらないということになります。
こうなるとビットコインを買ってマウントゴックスに預けるBさん・Cさんのような人がいる限り、マウントゴックスにはいくらでも現金が溜まっていきます。BさんやCさんがビットコインを返してくれとか、ビットコインを売って現金にしてくれと言い出さない限り、いくらでもお金が入ってくるわけです。仮にBさんやCさんがそう言って来たとしても、その代わりにDさん・Eさん・Fさんがそれ以上のビットコインを買って預けると言ってくれば、それで何の問題もありません。
ビットコインを発明したサトシ・ナカモト氏の論文によると、ビットコインの仕組みの中核はシステムを使った高度の暗号化により、同じビットコインを二重三重に売ることができない、ということです。それでビットコインは偽造も複製もできないので、信用が保てるということです。
仮に現在使われているビットコインのシステムが、そのナカモト氏の言う通りにできていて、個別のビットコインの売り買いで二重売りができないようになっていたとしても、このマウントゴックスのやった「預かり」という方法を使えば、同じビットコインを何回でも売ることができてしまうわけです。
同じビットコインを何回でも売ることができれば、その都度お金が入ってくるんですから、こんなおいしい話はないですよね。そのお金は盗まれないようにどこかに隠しておくとすると、ある日気が付くと山程のビットコインの借りが残っていて、それに見合う現物のビットコインも現金もどこにもないということになるわけです。
銀行の場合も預かったお金を他の人に貸して、その一部をまた預かって、それを他の人に貸して、また預かって、・・・というようなことをやっているんですが、こんなことにならないようにいろんなルールができています。マウントゴックスは銀行じゃないのでそんなルールはなく、何でも好き放題にできたんでしょうね。
ということで、今回の件はビットコインが主役になってはいるけれど、ごくごく古典的な取り込み詐欺のようなものということかなと思います。
よく言われるように、ビットコインが闇の資金のマネーロンダリングに使われているとして、「いなくなってしまった」ビットコインの中にその闇の資金が含まれていたとすると、マウントゴックスの社長さんはむしろ警察に保護してもらいたい、と思うようになるかもしれませんね。