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リーマンペーパー

水曜日, 6月 8th, 2016

伊勢志摩サミットで安倍さんが資料を配り、『今、世界経済はリーマンショックと同じ位の大きなリスクに直面している』と言ったということで、大騒ぎになっています。

この大騒ぎの、特に経済評論家や民進党の先生方やマスコミのコメントがあまりにもひどいので、ちょっとコメントします。

その前に、このリーマンペーパーとよばれるA4 4ページの資料、テレビでは何人もの人が手に持ってヒラヒラさせているのを見るのですが、これの出所が良くわかりません。ネットでいろいろ探してみたのですが、みつかりません。サミットの資料なので外務省の所管になるのですが、外務省に電話で問い合わせた所、資料は一般には非公開だということで断られてしまいました。

その後もうしばらくネットを探したら、ようやくIWJというサイトで画像イメージをpdfファイルの形で公開されているのを見つけました。
http://iwj.co.jp/wj/open/wp-content/uploads/2016/05/20160530165328.pdf

そういうわけで必ずしもこれが本物だ、という確証はないのですが、ここで偽物を公開してみてもあまり意味はなさそうなので、とりあえずこれを本物だと考えて読んでみました。なかなか面白い資料で、いろいろ考えることができます。

で、今話題になっているのは、この資料を誰が作ったのかということで大騒ぎになっているのですが、私はそんなことはあまり重要な話ではなく、重要なのはこの資料のデータは本当なのか、本当だとしてこの資料から安倍さんの言うリーマンショックなみのリスクに直面しているというのが本当なのか、ということです。

この『安倍さんの言った』というのがはっきりしません。『リーマンショックの直前に似ている』と言ったとか、『リーマンショックの前後に似ている』と言ったとか、安倍さんはそんなことを言っていないとか、いろんな話が飛び交っています。

で、資料を見る限り『直前に似てる』と言ったというのは間違いのようです。リーマンショックによっていくつかの経済指標が急落しているんですが、それと同様の急落が現在起こっているということが資料になっていますから『直前』というよりむしろ『直後』に似ているという資料です。

リーマンショックの後の経済変調がまた起きるかも知れないということ示す資料のようです。

で、これに対してサミットに参加した各国首脳が安倍さんの言うことに同意しなかったということですが、これは当然の話です。もし皆が安倍さんの言うことに『そうだ そうだ』なんて言ってしまったらそれこそそれが第2のリーマンショックの引き金を引いてしまうことになり兼ねませんから、特にドイツのメルケル首相はドイツ銀行が第2のリーマンになるかも知れないという状況で『そうだ』とは言えないでしょうし、イギリスのキャメロン首相も世界の国際金融の中心地ロンドンを抱えて、またイギリスのEU脱退という大きなリスクを抱えていて、そんなことを言えるわけがありません。

で、このような状況でマスコミやネットに出てくる話、まずは『今、世界経済はそんな危機的な状況にはない』というものです。もちろん安倍さんが言っている(と思われる)ことは、『今が経済危機だ』ということではありません。『経済危機になるかも知れない』ということです。この二つはまるで違います。たとえばバブルの最後の時経済は最高潮で、バブル崩壊は目前です。今景気が良いということと危機直前というのは別に矛盾する話でも何でもありません。

次に言われるのは、先進各国の成長率を並べておいて、日本だけ0%とかマイナスとかなのに他の国は2%とか3%とかなので、リスクがあるのは日本だけだ、という理屈です。これもおかしな話です。日本の方が成長率が低いんですからリスクもそんなに高くなく、成長率の高い他の国の方がリスクは大きいと言うべきです。

次に言われるのは、今までにそんなケースはないとか、経済学的にあり得ないとかの一見もっともらしいコメントです。これも経済学というのが基本的に後付(あとづけ)の理屈でしかない、という事実を十分認識していません。

リーマンショックがどのように起き、どのように世界経済に影響したのかは、それが起き、経済に大きなダメージを与えた後で色々分析して分かることです。

今までどんなケースがあったかとか、経済学の理論とかで事前に分かっていた話ではありません。もし事前に分かるものであれば、リーマンショックも事前に防ぐことができているはずです。

あともう一つ、危機はいつでもあるんだなどというコメントもあります。危機がいつでもある、というのは確かにその通りなんですが、それと危機のリスクが高いか高くないかは別の話です。これは地震はいつでもどこでもありうるんですが、それでも地震が起きやすいか起きなさそうかという判断は重要です。これを一緒くたにしてしまうと、それこそ地震はいつでもどこでも起こりうるんだから地震対策なんかやるだけ無駄だということになってしまいます。このような簡単なことも分からなくなってしまう経済評論家というのは困ったものです。

別に危機が起きてほしいわけではありませんが、仮に本当に危機が起きてしまったら、安倍さんはとてつもない先見性のあるリーダーだ、ともてはやされるんでしょうか。多分その時には自分にはわかっていた、とか、自分の言っていた通りになった、なんて言い出す経済評論家が山ほど出てくるんでしょうね。

とまれ、危機のネタはいたるところで大きくなっているような気がします。