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ギリシャの選挙

金曜日, 5月 18th, 2012

ギリシャの選挙、いよいよ再選挙ということになったようですね。

まあ緊縮財政政策に反対の、今回第2党になった急進左派連合にしてみれば、もう一回選挙をすれば多分第一党になれるのはほぼ確実だと思っているでしょうから、そのチャンスは逃したくないでしょうね。

前回も書きましたが、この前の選挙で第一党になった新民主主義党と第2党の急進左派連合、議員の数は108対52でかなり差がありますが、そのうち50人は第1党になったことによるおまけの議員数ですから、今度の選挙でこの急進左派連合が第一党になればこれがまるっきり逆転してしまいます。
そうなると今までの与党だった新民主主義党と全ギリシャ社会主義運動を合わせてもせいぜい2/5弱ということになってしまいますから、急進左派連合を中心とした、反緊縮財政政策政権ということになりそうです。

それを見越して株も債券も為替も大きく動いていますね。
そのようなことを防ぐために、たとえば今まで与党だった2つの党が一緒になってプラス50議席を確保するなんてのはアリなんでしょうか。

で、ギリシャがEUの財政支援の条件となっている緊縮財政政策を拒絶したときにどうなるのかという話でマスコミは大騒ぎをしていますが、どうもいい加減な話が多いですね。

ギリシャがEUの支援を受けられなくて明確に「支払不能」になるということと、「ユーロから脱退する」というのと、「EUから脱退する」というのはそれぞれ別の話なんですが、何となく全部いっしょくたに議論されているようなところがありますね。

もともと今回の話は、ギリシャが債務超過で支払不能になり、借金を返せないという所から始まっているんですが、この「借金を返せない」ということの原因は、フランスその他の銀行がお金を貸し過ぎたということです。そしてそのお金を貸し過ぎた原因は、ユーロ圏内の国債はそれを発行する国が違っても、金利その他の条件はあまり変わらないはずだ、という全くムチャな話から始まっています。

これが国債じゃなくて会社の社債だったら、発行する会社の財務状況や収益力を見て、発行条件が違ってくるのはごく当たり前の話ですが、社債じゃなく国債だからというだけで発行条件に差をつけないで、その差のついていない国債を喜んで買ってしまった銀行がそもそもの原因です。

銀行が、財務状況や収益力によって発行条件に差をつけるべきだということを知らなかったとすれば、それこそあきれた話ですし、それを知っていながらたくさん貸せるからと言って、返せるかどうかも考えずに国債をどんどん買い増したということだったら、なおさらギャンブルのようなものです。

で、いずれにしても借金を返せないギリシャに大金を貸してしまって、それが返ってこないと銀行が大変なことになるということで、EU各国(フランスやドイツやその他)が大騒ぎになったということです。

自分が勝手にギャンブルで金を貸したんだから、それぞれ銀行に責任を取らせれば良いじゃないかという議論は正論ですが、やはりここでも成り立たないようで、銀行がこけると金融・経済がうまく流れなくなってしまうから、税金を使ってでも何とか銀行をこけさせないようにしよう、というのがEUの救済策です。

普通、お金の借り手が支払不能になった場合、それを潰すにしても続けさせるにしてもいずれにしても全ての負債を全部まとめて、たとえば債務を1/5にカットするなんてやり方をするのですが、全ての負債を一気にカットすると、カットされた銀行などの負担が大きいので(その結果、各国の負担も大きくなるので)、なし崩し的に返済期日の来たものから順次カットするというやり方で、当座の負担を軽くしようというのが今のやり方です。

こうやって時間稼ぎをしていればそのうち何か良いことが起こって事態が改善するかも知れないなどという期待もあるんでしょうが、大抵の場合その期待は裏切られ、問題はいつまでたっても改善しない、負担はどんどん増える一方、皆のフラストレーションは高まるばかり、となるのが普通です。

これは日本でもバブルがはじけた時に、シッカリ経験していることです。

それで時間稼ぎをしながら少しずつ負債をカットしているんですが、そのカット率を少しでも小さくするために、EUはギリシャに対して緊縮財政政策を採るように迫っていて、今の政府はそれを受け入れたけど、国民は受け入れていないので、選挙をやると緊縮財政政策に反対する党の方に票が流れてしまうということです。

仮にこの緊縮財政政策を「受け入れない」と言ってEUからの支援がなくなると、今度は本当に借金が返せなくなります。借金をしたのはギリシャ政府ですから、借金が返せないとなると公務員の給料が払えない、年金も払えない、公共事業もストップ゚してしまう、税金がとてつもなく高くなる、ということで、緊縮税制政策よりもっと悲惨なことになります。

とはいえ、そうなるとEUの方も自国の銀行がおかしくなり、それが自国の金融・経済に大きな打撃となることがわかっているので、放っておくわけにもいきません。何がなんでもギリシャに緊縮財政を飲み込ませなければならないということです。

ギリシャが破綻すると言っても、国土があって国民がいる限りどこかの国に吸収でもされない限り、「国」は残ります。その「国」が借金が返せなくなったら、国民に払うお金がなくなるし、銀行に返すお金もない、というただそれだけのことです。

借金が返せないんだったら、ユーロから脱退とかEUから脱退なんて話もありますが、「脱退」というのは何をどうすれば良いのか誰にもわかりません。もしそうなったら何をどうすれば良いのか、皆で検討して決めるということになりますので、仮にギリシャがユーロから脱退するとかEUから脱退すると決めたとしても、実行するまでにはかなり時間がかかります。

ギリシャの国民の多くは、ユーロからの脱退もEUからの脱退も望んでいないようですから、そうなると逆にEUの方から「ギリシャは出て行け」と決めた場合でも、それを実行するにはさらに長い時間がかかります。いずれにしてもギリシャの中でもEUの中でも、様々な異なる意見があるんですから、そう簡単には何も決まりません。

ギリシャはユーロを脱退して、別の通貨、たとえば以前のドラクマを使うようにしたら、というような議論もあります。これもおかしな話です。どんな通貨を使おうと同じことです。

たとえばドラクマを、100ドラクマを1ユーロという具合に固定相場にすると、これは単なる呼び方だけの問題ですから、ドラクマを使ってもユーロを使っても同じことです。新しいドラクマを導入して変動相場制にすれば、という議論もありますが、ギリシャ国内ではどちらでも同じことです。EU諸国との貿易で安いドラクマを使えば輸出が伸びる、という話もありますが、ドラクマを安くして輸出物の値段を下げるんだったら、ユーロのままで輸出価格を下げても同じことです。

何といってもお金がないギリシャに、新しい通貨を発行させてさらにお金をかけさせるというのは、どうにもおかしな話です。
仮にユーロから脱退させられたとしても、それはユーロが使えなくなるということではありませんから、ユーロ諸国からユーロの紙幣・貨幣を輸入して使う分には別に問題はないはずですし、発行の費用も節約できます。

どんなことをしても借金をしたギリシャに返済能力がないというのははっきりしているようですから、ここは中途半端な先送りはやめて、返せる分についてはギリシャ自身でがんばって返していく。返せない分については、貸した銀行が債権を放棄する。それで銀行がおかしくなるのであれば、それぞれの国で面倒を見るという、まっとうなやり方にした方が良さそうです。

私の個人的な経済の大原則の一つに「ない袖は振れない」というものがあります。返せないものは返せないんです。それをあくまで「返せ」「返せ」とやり続けるのは、第一次大戦後、勝った国がドイツに膨大な賠償金を払わせて、結果としてナチスを登場させてしまったことの二の舞になるんじゃないかと、ちょっと心配です。

今朝のニュースでは、ギリシャでは銀行預金の引き出しが始まったようです。どこの銀行でも預金者全員の預金を全て払い戻すだけの現金を持っている所はありません。このまま行けば銀行の支払不能か、それを避けるために預金封鎖、預金を一定額までしか引き出せないようにするか、どちらかです(今朝聞いたニュースでは1ヵ月に1000ユーロまで、すなわち1ヵ月10万円まで、という案が検討されているようです。預金だけで生活している人は大変ですね)。

このような動きは、連鎖反応式に広がりますから、次はいよいよ取り付け騒ぎになるかも知れません。

もちろんそうなったらギリシャだけじゃなく他の国にも動きは波及するでしょうから、次々に銀行が機能しなくなるとうことも考えられます。

早く、思い切った解決策が必要です。

ギリシャの次の選挙まであと1ヵ月、ヨーロッパの人々は他人事じゃありません。心配でしょうね。