Archive for 5月 17th, 2013

ライフネット生命・・・再び

金曜日, 5月 17th, 2013

ライフネット生命の社長さんが交代、ということです。
若い社長さんには頑張ってもらいたいと思います。
とはいえ、今まで社長だった出口さんが会長兼CEO、副社長だった岩瀬さんが社長兼COO、ということですからあまり大きな変化はないのかも知れません。

ところでその社長交代の発表と同時に、ライフネット生命の2013年3月期の決算も発表されています。この前ライフネット生命の株主の変更のニュースの時に、第3四半期の報告と決算の見込みについてコメントしたので、それを検証する意味でも決算を見てみました。

まず第一に、第3四半期で黒字になっていたので年度決算も黒字かと思ったのですが、最終的には赤字決算で締めくくったようです。とはいえ、経常損益で23百万円の赤字。ここから税金を差引いて当期純損失で126百万円の赤字ですから、それほど大した赤字ではありません。

この前のコメントで、この決算での113条の利益かさ上げは18億円くらいと見積もったのが、結局1,641百万円とちょっと小さくなりました。

また今後の113条の償却負担を毎年11億円程度と見積もったのが、1,060百万円ということになっています。

今回の決算報告では、この113条の仕組や今後5年間は償却負担だけが続くということがちゃんと説明してあります。そこまで見ればちゃんと分かってもらえるかもしれません。

ところで考えてみれば今期黒字になったりすると来期からまた当分赤字決算が続くので、赤字決算に逆戻りというよりは、ちょっとだけ赤字にしておいた方が好ましいということだったのかも知れませんね。

今まであまりなかった保険金の支払額が急増しているのは今後とも要注意だなと思いながら、いろいろ見ていたらビックリするような記載をみつけました。

責任準備金の計算について「保険数理上、より合理的かつ精緻に見積もることができる」ということで、計算方式を変更したということです。その見積変更による影響額が501百万円ということですから、もしこの変更がなかったら、赤字は5億円多かったということになります。良く確認したら、この変更は第3四半期の時から変更されていたようです。

この変更による影響は一度きりのものですから来期からはこのかさ上げ効果はなくなり、113条の償却負担だけが残ることになります。

今期と比較すると、113条で16億円のプラスだったのが11億円のマイナスになり、計27億円、さらに責準の5億円で、計32億円のマイナス効果がある、ということになりますから、表面的には大幅な赤字決算ということになりますね。この大幅赤字の説明をするのが新しい社長さんの仕事、ということになるのでしょうか。

でもこの113条の影響と責任準備金の変更の影響を除いてみると、経常損益で前期(2012年3月期)2,184百万円の赤字が、今期(2013年3月期)で2,165百万円の赤字となっています。ようやく赤字が底を打ったのかなということです。

事業費も前期3,984百万円が今期4,976百万円と相変わらず順調に増えていますが、今期ようやく収入保険料が事業費を上回るようになりました。入ってくるお金で出て行くお金を賄えるようになった、ということです。

日本でゼロスタートの生命保険会社では開業5年で赤字が底を打ったというのは、なかなかの好成績です。こうなるとあと2-3年で単年度黒字になることが期待できます。ただし113条の償却負担があと5年間あるので、実際の決算上の黒字はもう少し先になるのかも知れません。

また今の所まだ責任準備金の積み方は5年チルメル式ですがこれをいずれは純保式(平準純保険料式)にすることになるので、その移行のタイミングによっては単年度黒字の時期はさらに先送りされるかも知れません。

責任準備金の計算方法の変更による5億円の利益かさ上げですが、今期末の責任準備金が3,278百万円。うち危険準備金が997百万円ですから、残りが2,281百万円です。計算方式の変更がなかったとしたら、これが501百万円多かったということですから、2,782百万円になるはずだったものを、計算方式の変更で2,281百万円にした(2割ほど減らした)ということになります。

こうしてみるとかなり大幅な変更です。一体どうしてこうなったんだろう、とちょっと不思議ですね。

ケインズ・・・15回目

金曜日, 5月 17th, 2013

さて一般理論もいよいよ「総まとめ」です。
社会全体の経済体制を分析するのに、与えられた条件として
  利用可能な労働の質と量
  利用可能な資本設備の質と量
  技術
  競争の状態
  消費者の嗜好と習慣
  労働環境や所得分配を含む様々な社会構造
を考えます。これはこれらが一定で変わらないということではなく、分析にはこれらの変化を考えない、あるいはこれらが大きく変化しない範囲の期間について考えるということです。

次に独立変数として
  消費性向
  資本の限界効率(投資の予想利回り)
  利子率
の三つを取ります。
独立変数というのは、これらの独立変数が変化することにより、その結果として次の従属変数が変化すると考えるということです。

その従属変数としては
  雇用量
  実質ベースの国民所得
の二つとなります。

すなわち消費性向・投資の予想利回り・利子率がどう変わると、その結果として雇用や国民所得がどう変るか、あるいは雇用や国民所得を増やすには消費性向・投資の予想利回り・利子率をどう変化させればよいかということになります。

この三つの独立変数ですが、
『消費性向』というのは、消費者が所得のうちどれだけを消費しようかという気持のことで、
『投資の予想利回り』というのは、企業家がこの投資をすればどれ位儲かりそうかという気持であり、
『利子率』というのは、持ってるお金をどれだけ手元に置いておきたいか、という流動性選好の結果として決まるものです。

要は三つとも気持の問題、心理的な要因です。

これらの心理的な要因により、消費者がもっと消費をしようとする・企業家がもっと投資をすれば儲かるぞと思う・お金持が現金で持っていてもしようがないから貸付に回そうと考える、そうすると投資が増えて所得が増えて消費が増え、雇用が増える。
これが『一般理論』の要約です(と、ケインズが言っています)。

で、このようにして独立変数を変化させれば、これに従って従属変数も変化して均衡状態に向かうのですが、これが「大した前触れもなく変化しがちであり、しかも相当の変化を被ることも一再ではない」などとケインズは平然と言い放ちます。

『我々の住んでいる経済体系の際立った特徴は、産出量や雇用は激しい変動を被るにも係らず、体系そのものはそれほど不安定ではない』『変動は調子よく始まって、たいした極端に至らないうちに萎えしぼんでしまう。絶望するほどではないが、満足のいくようなものでもない。その中間的状態こそが我々の正常な運命なのである。変動は極端に至る前に減衰し、やがて向きを反転させがちである。』と言ったあとさらに『こうした経験的事実は論理的必然性をもって起こるものではない』などと平然と言い放ちます。
こんなことを言われちゃうとうれしくなっちゃいますね。やはりケインズという人はそんじょそこらの学者の先生方とはわけが違うようです。

これで一般理論の要約は終わってしまうのですが、これは私の読んでいる間宮さんの訳では上下2冊のうち、上の方の最後です。下の方はまだ丸々残っています。章でいえば全部で24章まであるのに、18章まで行った所。まだ6章残っています。本文のページ数でいえば、まだ2/3の所です。この残りの1/3はある意味『応用編』みたいなもので、出来上がった一般理論の立場から改めてもう一度古典派の理論を攻撃したり、古典派のために完全に否定されてしまった古典派の前の経済学の重商主義を再評価して、『古典派によって否定されるようなものでない』と言ったりします。

ということで、『一般理論』はまだあと1/3続くので、この稿ももう少し続きます。

宜しかったらお付き合い下さい。

ケインズ・・・14回目

金曜日, 5月 17th, 2013

いよいよケインズは一般理論の結論を出しますが、その前に貨幣理論の章があります。

ケインズは「一般理論」のすぐ前(5年前)に「貨幣論」という本を書いており、「一般理論」の中でも「貨幣論」にはこう書いたけれど・・・とか、「貨幣論」にこう書いたように・・・という具合にしょっちゅう引き合いに出しています。私が本気の学者とか研究者だったら、さっそく「貨幣論」も読まなきゃと思うところですが、とりあえず野次馬の気軽さで、「一般理論」の中でケインズ自身が否定している「貨幣論」を読むこともないだろうと考えています。

で、「一般理論」の中の貨幣論ですが、何とも素晴らしいものです。かなり以前から「貨幣とは何か」というのは私の大きなテーマの一つで、何冊かそのような本を読んだんですが、これまで今イチこれだ!というものには巡り合っていませんでした。

で、ケインズの貨幣論ですが、まずは「利子」から始まります。利子というのは一時的にお金を一定期間手離しておいて、その一定期間経過後にまた受取るものが、元々手離したものより増えた分です。このように考えると、別にお金に限定しなくてもたとえばお米でも牛でも同じように考えることができます。

お金の機能というのは、【財産の価値をその資産の形で保有する】ということと、【必要に応じて他の資産と交換する】ということで、その意味では貨幣でなくて他の資産でも多かれ少なかれそのような機能を果たすことはできるのですが、その中で貨幣が中心的にその役割を果たす理由は何か、ということになります。

ケインズは様々な資産について、収益力(それを持っているとそれだけで財産が増えること)・持越費用(それを持っていると時間が経過するだけで価値が下がったり、維持するためにお金がかかること)・流動性プレミアム(いつでもすぐに他の資産と交換できるメリットのことで、そのための対価として払っても良いと思われる額)の三つの特性を取り出し、これで各資産を特徴付けます。

この中で貨幣というのは、収益力はゼロ(持っているだけじゃちっとも増えない)・持越費用もゼロ(もっているだけなら費用はかからない)・流動性プレミアムは他の資産と比べて極端に高い(自由にいつでもどの資産とも交換できる)ということで特徴付けられます。他の資産では一般に収益力はあるかも知れないし、ないかも知れない。持越費用は多かれ少なかれ、ある。流動性プレミアムは小さいか、ない・・・ということになります。

このように整理した上で貨幣の性質として
その量を増やすことも減らすことも簡単にはできず、量が増えたからといって価値が下がるわけでもない、ということを説明します。普通の資産は値段が高くなればそれをたくさん作る人が現れ、その資産が増えれば安くなり、逆に値段が安くなって誰も作らなくなると放っておいてもだんだん減ってしまって、減って少なくなれば今度は値段が高くなるということになるのですが、貨幣はこれとはまるで違います。

この特徴から(ケインズが言っているわけではないのですが)、インフレを抑えたりデフレから回復したりというのはそう簡単にできる話じゃないというのが良くわかります(インフレというのはお金の価値が安くなることで、デフレというのはお金の価値が高くなることです。お金の量を増やしたり減らしたりすることが簡単にできて、その結果としてお金の価値を上げたり下げたりが簡単にできるなら、インフレもデフレも簡単に対処することができます)。

このことをこんなに明快に説明してくれる貨幣論は初めてです。この部分はさらに熟読玩味する必要がありそうで楽しみです。