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芦部さんの憲法 その8

月曜日, 9月 30th, 2013

さて日本国憲法、いよいよ本文に入りますが、前回書いたように本文には「国民主権」の規定がありませんので、まずは「天皇」から始まります。

この天皇については、憲法の本など読むずっと以前から一つ疑問がありました。それは「天皇は日本国民なんだろうか」「日本国民じゃないんだろうか」、ということです。

芦部さんは基本的人権の所の最初に、いとも簡単に「天皇も皇族も日本国民だ」と書いていますが、もちろん何を根拠にこういう結論が出るのかなんてことは書いてありません。

私には、天皇には基本的人権がないと思われるので、日本国民全員に与えられているはずの基本的人権が与えられていない以上、それは日本国民じゃないということじゃないかと考えていたわけです。

「基本的人権がない」というのは、たとえば天皇には選挙権も被選挙権もなさそうです。もし被選挙権があるとすれば、是非立候補してくれと頼みに来る政党はいくらでもありそうです。選挙権があるなら、投票日になって「天皇陛下も投票に行きました」なんてニュースが流れないわけありません。まぁこれについては憲法4条に「天皇はこの憲法の定める国事に関する行為のみを行い、国政に関する権能を有しない」という所に関連するのかも知れません。
天皇には言論の自由も思想・信条の自由もなさそうです。巨人軍が好きか嫌いかとか相撲の贔屓の力士は誰か、なんてことも言ってはいけないことになっているようです。

天皇が日本国民だとして、その天皇の基本的人権が侵害されているのは憲法違反だ、なんてことにもなりそうもありません。日本では実際その人権侵害されている人が裁判を起こさない限り、裁判所は違憲判決を出さないことになっているようですし、天皇が自ら自分は日本国憲法で保障されているはずの基本的人権を侵害されている、なんて裁判を起こすとも思えません。結果的に天皇の基本的人権が侵害されているのは憲法違反だ、などという判決が出る気遣いはありません。

憲法では第10条で「日本国民たる要件は、法律でこれを定める。」と規定しています。でその法律に「天皇も皇族も日本国民である」なんて書いていてくれると嬉しいんですが、そうはなっていません。どうもその法律というのは「国籍法」という法律のようで、第1条に「日本国民たる要件は、この法律の定める所による。」と、憲法の規定と同じようになっています。

この法律は面白い法律で、第2条で日本国民の子として生まれたら日本国民だ、という規定があるのですが、第3条以下では日本国民という言葉がなくなってしまいます。代りに日本国籍を取得するとか、日本国籍を失うという言葉になってしまいます。日本国籍を取得した者が日本国民で、日本国籍を失った者が日本国民でなくなる、と言おうとしているんでしょうが、一番肝心なその規定はどこにもありません。まあ、このような非論理的ないい加減な書き方の方が法律家にはしっくりくるんでしょうが。

日本国民ということでなく日本国籍ということで考えれば、天皇や皇族に日本以外の国の国籍をもたせるわけにもいかないし、無国籍というわけにもいかないので、日本国籍とするしかないんでしょうが、だからといって日本国籍であれば日本国民だということにはならないような気がします。天皇・皇族以外の日本国籍の人が日本国民だ、としたとしても何の矛盾も生じなさそうですから。

この憲法の勉強の一番最初に読んだ「終戦の詔書」という本には、昭和20年8月15日の終戦の詔書・昭和16年12月8日の開戦の詔書・昭和21年1月1日の年頭の詔書(いわゆる「天皇の人間宣言」と言われているものです)が入っているのですが、これらの詔書で天皇が国民に対して語りかけているその言葉が、開戦の詔書では「汝有衆(ナンジユウシュウ)」(衆は正確には別の字体の字『眾』のようです)、終戦の詔書では「爾臣民(ナンジシンミン)」、年頭の詔書では「爾等國民(ナンジラコクミン)」となっています。全て天皇主権の体制で、天皇から国民に対する呼びかけの言葉です。これがいつの間に天皇も国民のうちということになってしまったのか、何とも不思議です。

憲法の天皇に関しては「象徴というわけのわからない言葉の意味」とか「天皇制の是非」とか、他にも山ほどの議論があるようですが、そんな話は当面どうでも良い話なので(なんて言うと右からも左からも山ほど文句を言われそうですが)、天皇についてはここまでとします。