もう一つ、私が図書館の新しい本コーナーで見つけたのは、「世界恐慌 - 経済を破綻させた4人の中央銀行総裁」という本です。ライアカット・アハメドという人の本で、筑摩書房から上下2巻で出ています。
最初図書館でみつけたのは(上)だけだったのですが、ちょっと読んでみてすぐに(下)の方も予約を入れて、両方とも読み終わりました。
私は昔中学生・高校生の頃それほどお金持ちでもなかったので、本屋さんで良く立ち読みをしました。1~2時間くらいの立ち読みは珍しくなく、そのように立ち読みして全部読み終わった後で買って帰るということも何回もありました。
今回は図書館で借りたのですが、読み終わってさっそく買うことにして上巻はすでに手に入り、下巻の方は近くのセブンイレブンに届くのを待っている状態です。
この本は2010年のピュ-リッツアー賞の受賞作ということで、「世界恐慌」とは1929年の大恐慌のことです。
元々のタイトルは日本語のタイトルとかなり違っていて、Lords of Finance – the Bankers who Broke the World (金融の王様達-世界をぶっ壊した銀行家達)となっています。
私は今まで1929年の大恐慌というのは、ニューヨークの株式市場の暴落に始まる株式市場の問題と、それによって起こった経済恐慌と社会恐慌のことだと思っていましたが、実は本当の問題はそれに合わせて起こった、特に1930年代の各国の為替危機と金融危機の方がよっぽども大きな問題だったんだ、ということをこの本で知りました。アメリカ・ヨーロッパの各国で銀行がバタバタと倒れ、とんでもない事態になったようです。
それを説明するために、この本は第一次大戦の起きるところから話が始まります。誰もが戦争にまではならないと思い、たとえ戦争になったとしてもあっという間に片がつくと思っていたのがヨーロッパ全体を巻き込む大戦争になり、4年もかかってようやく終わるということになり、さらにその結果としてドイツはイギリス・フランスに対し払いきれない額の賠償金を払わなければならなくなり、イギリス・フランスは戦争を継続するためにアメリカから借りた多額の借金を返さなくてはならなくなり、この問題が常にヨーロッパ・アメリカの金融を大きく揺り動かし、さらにその当時誰もが当たり前に思っていた金本位制がさらに問題の解決を難しくし、それが1929年のニューヨークの株式市場の大暴落を引き起こし、その後1930年代の金融危機につながり、結局第二次世界大戦につながった、というストーリーを、金融の立場から、アメリカ・イギリス・フランス・ドイツの中央銀行の総裁達を中心に、政府のトップ達・金融大臣達・大銀行家達も参加し、さらに重要な登場人物としてケインズを配して、この流れの中でそれぞれが何を考え、何をしたか、を書いています。
ケインズの一般理論はこの流れの中から生まれたものですから、一般理論をきちんと理解するためにもこの流れをしっかり理解することが必要だなと思い、久しぶりに本を買いました。
この本ではケインズを紹介する所で、ケインズの最初の著作である「確率論」について、
「何も確実に知ることができず将来が予測できない時には、何が合理的な行動かを決定することは難しく、そのような環境では行動の究極のベースは分析よりも直感である」というのがこの本のテーマだ、なんて魅力的な紹介が書いてあります。
それでついウカウカとこの「確率論」を図書館で借りてみたら、何と500ページを超える大冊で、「ケインズ全集」のうちの1冊だからたくさんの注釈が付いているんだろうと思ったらほとんど本文で、いろんな数式も入った結構しっかりした確率論の教科書です。とはいえ、普通我々が読む確率論の教科書に参考文献としてこの本が登場したという覚えはありませんが。これも読むとなったら結構本気でとりかかる必要がありそうで、さてどうしたものか、と考え中です。
第一次大戦が終わってドイツがイギリス・フランスに払う賠償金について、最初ドイツの負担能力を超える額が決まり、それに対しケインズはそんな多額を負担させると払えなくて問題になると批判し、実際払えないことがわかって、その後延々とその額を引下げる交渉が行なわれ、ドイツはとんでもないインフレになり、1兆分の1のデノミをすることになり、その後ヒトラーが登場して第二次大戦に突入するのですが、結局賠償金はどうなったんだろうかというのは長い間私には疑問でした。それについてもこの本にはちゃんと書いてあります。
1930年代の金融危機にしてもその前の様々な危機にしても、要は国境をまたいだ壮大な貸し渋り・貸し剥がしで、基本的な構造はしばらく前のアジア危機にしても最近のユーロ危機にしても同じです。このあたりをきちんと理解するためにもこの上下2冊を買って、今度はじっくり読み直すつもりです。
また、私にはまだよく理解できていない金本位制、というものについてもこの本を読みながらじっくり考えることができると期待しています。
金融の話ですが、それにかかわった人の話を中心に書いてありますので、楽しく読めると思います。
お金の話も基本的にドル表示に統一して書いてあるので、フラン、マルク、ポンドの為替レートをいちいち気にしなくてもいいようになっています。
1930年代のアメリカの銀行危機のあたりはスリリングで、息もつかせぬ迫力があります。
興味がある人は是非読んでみて下さい。