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第一次世界大戦

金曜日, 1月 17th, 2014

さて芦部さんの憲法が一段落した所で、前にちょっとだけ紹介したライアカット・アハメド著「世界恐慌」をじっくり読もうとして、まずはその準備としていくつかの本を読みました。

この「世界恐慌」は第一次世界大戦が始まる所から、ヒトラーが政権を握り、第二次大戦に向かって戦時体制になる所あたりまでをテーマにしています。考えてみると、この本を本当に理解するには私は第一次大戦についてあまり良くわかっていないということに気付き、改めてこれについてもう少し理解することが必要だと思うに至りました。

第二次大戦は我々日本人にとっては太平洋戦争であったり、大東亜戦争であったり日中戦争であったり、かなりいろいろな情報に接します(毎年8月になるとテレビでもいろんな番組が組まれます)が、第一次大戦は、ヨーロッパでドイツとフランス・イギリスが戦っている間に日本は中国や太平洋にあるドイツの利権を横取りしたり、ヨーロッパの工業生産力が破壊された機会に日本の工業生産を伸ばして輸出で大儲けしたり、戦後ドイツのインフレとマルク安でドイツに留学した日本の貧乏学生が王侯貴族のような生活を楽しむことができたとか、かなり限定的な知識しかありません。

そこで何冊か読んだんですが、やはり焦点となるのはドイツですからまず読んだのは坂井栄八郎著「ドイツ史10講」(岩波新書新赤版)です。この本はカエサル(シーザー)のゲルマン戦争から現代までを10回の講義で終わらせてしまうという大胆な本ですが、その分中心的な流れが良くわかります。これで全体像をつかんだ後、いよいよ第一次大戦から第二次大戦までの時代についてもう少し読むのに、この本でも紹介されていて、またこの本の著者の坂井栄八郎さんの先生にあたる林健太郎さんの書いた本を2冊、「ワイマール共和国 ヒトラーを出現させたもの」(中公新書)と「両大戦間の世界」(講談社学術文庫)を読みました。

「ワイマール共和国 ヒトラーを出現させたもの」の方は、第一次大戦が始まる所からヒトラーが政権を取るまでのドイツの歴史(特に社会・政治・経済面の)、「両大戦間の世界」は同じ期間の、ドイツを含むヨーロッパの各国(イギリスやロシアを含む)の歴史について書いてあります。

これで良くわかったのは、ヨーロッパの第二次大戦というのは、第一次大戦の続きの戦争であって、二つの戦争というより20年の休戦期間を挟む、1つの30年戦争と考えた方が良いということです。

たまたま太平洋戦争と時期が一緒になってしまったので、両方合わせて第二次大戦ということになってますが、実際はヨーロッパの第一次大戦の続きの戦争と、アジアの日中戦争・大東亜戦争・太平洋戦争を合わせた戦争と、二つの戦争と考えた方が良いのかも知れません。

いずれにしても第一次大戦の戦費のための国債発行や借り入れ、戦後の復興のための国債発行や借り入れ、通貨の発行や賠償金の支払い・取立て、そのための国債発行・借り入れ、その結果としてのインフレや財政破綻・銀行破綻・大恐慌がこの「世界恐慌」という本のテーマなんですから、このあたりの経済・社会・政治的な経緯を大づかみで理解することはこの本をちゃんと読むのに必要な条件だと思います。

これらの本のついでに、最後に大澤武男著「ユダヤ人とドイツ」(講談社現代新書)という本まで読みました。この本はユダヤ人がローマ帝国と戦ったユダヤ戦争に負けてエルサレムから追い出される所から始まるのですが、やはり中心となるのは第一次大戦の頃からヒトラーによりユダヤ人が皆殺しになる頃までの期間です。

今までドイツのユダヤ人問題についてはあまり良く知らなかったので、興味深い本でした。ヒトラーのユダヤ人政策の殆ど(シナゴーグの破壊や放火、ユダヤ人の住居や財産の没収、集団強制居住、人権の剥奪、強制労働)が、実はルター(あの宗教改革のルターです)が「ユダヤ人と彼等の虚偽について」という本の中で主張していることの引き写しだというのも初めて知りました。こうなるとユダヤ人問題というのも根が深いですね。

ヒトラーのユダヤ人殺しも、実は最初は身ぐるみ剥いで追い出すというやり方で、皆殺しまではいかなかったのが、実際やってみると非常に手間暇がかかることがわかり、それでもドイツだけのことなら何とかなりそうだったのが、ポーランドを占領してみたらそこでドイツとはケタ違いに多勢のユダヤ人を見つけてしまい、それを同様に身ぐるみ剥いで追い出すというのは現実的に不可能だとわかって皆殺しに方針変更した、という経緯も良くわかりました。

で、ユダヤ人問題の方ですが、第一次大戦後のドイツの政財界に登場する人物も、この人はユダヤ人、この人もユダヤ人と書いてあり、暗殺された人も何人もいるのですが、ユダヤ人だからといって殺されたわけではない、と書いてあります。

ワイマール憲法を作った人もユダヤ人で、第一次大戦の戦後処理のためのベルサイユ条約のドイツの賠償額をできるだけ少なくする交渉を任されたのもユダヤ人です(この人はドイツのために頑張ったのですが、そもそもベルサイユ条約自体を認めない右翼からすると、そのような交渉をすること自体が許せないということのようです。第一次大戦後の3年半でドイツで右翼のテロで暗殺されたのは、この交渉を任された人が354人目だということで、平均すると毎週2人ずつ暗殺されている計算になり、大変なことだなと思いました。とは言え日本でも幕末の頃はこれ位、あるいはもっと多数の暗殺があったのかも知れませんが)。

それで気が付いたのは、この本の前に読んだ「ワイマール共和国」でも「両大戦間の世界」でも、誰がユダヤ人で誰がユダヤ人でないか、ということについてはほとんど書いてなかったような気がします(私が見落としていただけかも知れませんが)。

このあたりわざわざそれを書くことにより、ユダヤ人差別のきっかけとなる可能性もあるんでしょうが、それを書かないことによりユダヤ人問題をきちんと理解できなくなる可能性もあるなと、この種の差別の問題の難しさを感じました。