Archive for 2月 13th, 2015

「一般理論」 再読-その3

金曜日, 2月 13th, 2015

前回需要曲線と供給曲線の話をした時、供給曲線の決め方として、もう一個売るとかえって儲けが減ってしまうギリギリの数、という話をしました。需要曲線の方はもう一個余分に買うと、買った満足感よりお金を多く使ってしまった不満足感の方が大きくなってしまうギリギリの数、という話です。

このギリギリの基準となる『儲け』とか『満足感』というのを、経済学では『効用』(Utility)と言います。企業の場合は儲けることだけが目的だということになっているので、効用=儲けとなります。

消費者の場合は、お金を使って何かを買って、それで儲かったということではないので、何かを買った満足感と、お金を使った不満足感の差し引き合計の満足感が『効用』です。

で、古典派の経済学では企業も消費者も労働者も、全ての参加者が極大の効用を目指すということになっています。極大というのはもっともっと・・・の行き着く先ということです。

現実的には誰でももっと儲けたい、もっと満足したいと考えるのは普通ですが、もっともっと・・・のトコトンの儲け、トコトンの満足感を求めるというのはあまりありません。適当な所で「この位儲ければ良いや」とか、「この位の満足感で良いや」ということになります。もちろんそうは言っても、その次には更にもっとということになるので最終的にはもっともっともっと・・・ということになるのですが、とはいえ一度にもっともっともっと・・・のトコトンの所までは求めないものです。

古典派の経済学は、最初から全員がその「トコトンのもっともっともっと」を求めてそれを実行に移すという所で、まるで違ってきます。

これがわかった所で、需要・供給の法則の仕組みをもう少し詳しく考えておきましょう。これは今後ケインズの一般理論を理解するのに非常に役に立ちます。

需要・供給の法則の説明図

普通、需要・供給の法則の図は、上の図のように書かれています。

たとえば価格がp1だとすると、買い手はd1までは買えば買うだけ満足感が高くなり、売り手はs1まで売れば売るだけ儲けが大きくなります。結果としてd1までは売り買いが成立するのですが、それ以上は買い手が絶対に買わないので売り手も売ることができない、すなわち供給過剰・需要不足という状況になります。
価格がp2だとすると、買い手はd2までは買えば買うだけ満足感が高くなり、売り手はs2までは売れば売るほど儲けが大きくなりますから、結果としてs2までは売り買いが成立するのですが、それ以上は売り手が絶対に売らないので買い手も買うことができない、すなわち供給不足・需要過剰ということになります。

さてこのp1の所で、売り手がちょっとだけ値段を下げたとします。他の売り手がp1で売る時にその売り手だけちょっと安売りするのですから、買い手はまずその売り手の所に殺到し、その売り手は売りたいだけ売ることができます。ちょっと値段を下げたとはいえ、売りたいだけ売ることができなかったのが今度は売りたいだけ売れるんですから、この方が儲かります。

他の売り手は買い手をその売り手に奪われてしまうんですから、その分売れる量が減ってしまい儲けが少なくなります。で、他の売り手もそれなら・・ということで値段をちょっとだけ下げて売り出します。こんなことをやっていると、結局値段を下げても需要不足が解消できない所、すなわちp0の所まで値段が下がってしまいます。ここまで来るともうどの売り手も売りたいだけ売っていて、値段を下げると売りたい数量が減ってしまうので、その分損してしまうということになります。

p2の方も同様です。買い手の方がちょっと値段を上げて買おうとすると、売り手はまずその買い手に売ろうとするので、その買い手は買いたいだけ買えるようになり、その分他の買い手はさらに買える量が減ってしまいます。そこで他の買い手もちょっと値段を上げて買う・・ということをやると、結局全体的に値段が上がってきて、p0の所まで値段が上がってしまうということになります。

ここまで来るともう全ての買い手は買いたいだけ買ってしまっていますから、さらに値段を上げると買う数量が減ってしまい、満足感は減ってしまいます。

このようなプロセスは値段が少しずつ下がったり上がったりしながらp0に近づくというものですが、古典派の経済学ではこのプロセスが一瞬のうちに終わってしまって、始まった途端に買い手も売り手も値段はp0、売り買いの数量はd0=s0だということがわかる、ということになります。

これが需要・供給の法則です。
どうでしょう、皆さんが考えていた需要・供給の法則と、この説明の内容は同じだったでしょうか。

私はここまで来るとアキレハテテしまいます。
良くもまぁこんな非現実的な人工的な世界を作ったものだなぁと思います。

で、次はいよいよ一般理論の話に戻ります。一般理論の最初の議論は労働の需要・供給の話です。

これに限らずこの古典派の需要・供給の法則は、常に陰に陽に姿を現します。できるだけその都度コメントしようと思います。

もう一度念を押したい点があるのですが、需要曲線・供給曲線を作る時、まず値段を決めてその値段の時の需要量・供給量を決める、ということです。この逆に需要量・供給量から値段を決めるわけではないことに注意して下さい。

ここの所が時としてかなりいい加減になってしまって、議論が訳が分からなくなってしまうことが良くあるようですから。