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『ファインマンさん 力学を語る』

水曜日, 5月 20th, 2015

歴史や経済・法律などの本をいろいろ読んでいると、時々数学や物理・生物学など人間に関係ない本を読みたくなります。

で、先日図書館でみつけたのが『ファインマンさん 力学を語る』という本です。

これはあのファインマンが大学の新入生に対して、ニュートン力学の、惑星の運動が半径の2乗の逆数に比例する引力により楕円軌道になる、という話を説明した特別講義の解説です。

ファインマンの大学生に対する講義は『ファインマン物理学』にまとまっているのですが、この特別講義はその中には含まれず、資料も行方不明になっていたのが、講義の黒板の写真を除いて原稿や講義メモや録音テープもみつかり、それを元にファインマンの講義の書き下ろし(英語の原著には講義の録音のCDも付いているそうです)に、その解説、原稿から改めて書いたいくつもの図が付いています。

ニュートン力学は今では微分方程式を書いてそれを解くことで説明されます。そしてニュートンは微分積分を作った人、ということになっています。ですからニュートンが万有引力の話と惑星の軌道の話を書いた『プリンキピア』という本も、当然その微分を使って説明してあるんだろうと思うと、何とこの本ではユークリッド幾何(いわゆる中学や高校で習う幾何学です)で全てが証明されていて、微分積分は使われていません。

で、この『プリンキピア』でどのような説明・証明がなされているかということに関しては、和田純夫著 ブルーバックス『プリンキピアを読む』という本に丁寧に解説があります。頑張れば何とか付いていくことはできますが、とにかく楕円に関する様々な幾何の定理が使われていて、付いていくのが大変です。

昔は数学をやる人は幾何を一生懸命やっていて、いろんな定理も良く知っていたのですが、デカルトのお蔭で今では『幾何』というのは図を式に書き直し、式を解くことによって証明するものになってしまっているので、そんなにたくさんの定理を知っている人は殆どいません。

で、ファインマンがやった説明はこれも幾何を使うのですが、途中からニュートンとは別のやり方に変え、非常に初歩的な幾何だけを使って(だからと言ってやさしい、というわけでなく『知識は要らないけれど限りない知性は必要で』などと説明がありますが)、惑星の運動を説明してみせます。

この説明・証明の見事さは読んでもらわないと分からないと思います。ファインマンらしい、具体的で直観的に分かりやすい説明で、見事に楕円運動が証明されています。通常の『時間あたりの加速度』という考え方の代わりに、『(回転)角度あたりの加速度』という概念を使うので、物理の得意な人にとってはかえって難しく感じるかも知れません。

もちろん数学的に厳密な証明というわけではないけれど、物理学的には十分正確で分かりやすい証明になっています。

たまには数学の本でも読んでみようか、などと思ったら、ちょっと読んでみて下さい。
お勧めです。