この本はしょっぱな『現在は実は氷河時代なのである。』という文から始まります。へぇと思って読み進めてみると、氷河時代というのはちゃんとした定義があって、今のように南極やグリーンランドやその他の大地に氷河があればそれは氷河時代だという事です。
氷河時代でない、大きな氷河がどこにもない時代を『無氷河時代』と言い、地球の歴史の中でも大部分が無氷河時代で、氷河時代というのは7回以上あったけれど、そんなに何度もあったわけではない、現在の氷河時代は約258万年前に始まったんだという事です。
この氷河時代のうち、寒冷で氷河が拡大するのを『氷期』といい、それに較べて温暖な期間を『間氷期』といい、その二つが繰り返し訪れるということです。
いわゆる『氷河期』という言葉は、『氷河時代』という意味で使われたり、そのうちの『氷期』だけを意味したりしてあいまいなところがあるので、最近は『氷河期』という言葉はあまり使わないことになっているようです。
で、『現在は実は氷河時代なのである。』となるわけです。
最近80万年では10万年周期で氷期・間氷期を繰り返しているということです。私がイメージしていた氷河期というのはこの氷河時代のうちの氷期のことだったようです。
この本は2016年にこの博物館で開催された特別展『氷河時代-化石でたどる日本の気候変動-』の展示内容とその解説書『氷河時代-気候変動と大阪の自然-』を再編して本にしたもののようです。展覧会では場所的にも時間的にも制約がありますが、このように本になっていると好きな時に好きなように楽しめます。
地球の歴史を考える場合、全部で約40億年あるので、どうしても単位は億年単位になるし、恐竜が繁栄したのは約2億年前、消滅したのは6500万年前ということでそのような年数が普通なのですが、この本では20万年前とか80万年前とか、かなり直近の話が中心となっています。
大阪でも都市開発で各地でボーリング調査が行われ、掘り出された『コア』という土の柱を分析してかなりいろんな事が分かっているようです。私なんかは首都圏に住んでいるということもあり、この氷期・間氷期の海岸線の変化は関東地方のものを良く見ますが、この本では大阪周辺の地図が示されています。
大阪城のある上町台地を境に、その内側が全部海で河内湾だった時代、それが淀川・大和川のデルタによって狭められ汽水域になって河内湖になった時代、逆に氷期に大阪湾も瀬戸内海も陸地になってしまった時代、あるいは上町台地も海面下になった上町海の時代、それぞれの地形図が付いていて、それを眺めるだけでも楽しめます。
大阪は、氷期には海面が低くなり平野になり、間氷期には海面が高くなって海になったり湖になったりを繰り返しているということが良くわかります。
で、今は間氷期が始まった所のようですが、その前の氷期は7万年前から1万1700年前まで、その前の間氷期は12万5000年前から7万年前までということで、12万5000年前の間氷期には氷河が溶けて大阪城のある上町台地も海になった上町海の時代、それが2万年前には海面が120m下がって瀬戸内海や大阪湾は殆ど陸になった。それが氷期のピークでその後温暖化が進んで今のような地形になっているというわけです。
氷期になったり間氷期になったり、海面の上昇あるいは低下もありますが、気温も大きく変わります。それにつれて陸上の植物・昆虫・海中の動物層も大きく変わります。これがこのボーリングのコアを調べることで良くわかるという具合です。
とはいえ氷期に繫栄した生物が間氷期に絶滅したわけでもなく、間氷期の生物が氷期で完全にいなくなったわけでもありません。『厳しい時代を何とか生き延びればまた快適な時代が来る』という繰り返しの様子を詳しく解説してくれます。
日本は海があるのでその近くはとことん寒冷化する、ということわけではなく、温暖期の生物も生き残ることができ、また、高い山があるのでその高いところは温暖期でもそれほど暑くなるわけでなく、寒冷期の生物もかろうじて生き残ることができるようです。
この本の元となった特別展のポスターの絵が最後についています。主人公はマンモスです。マンモスは43万年前の氷期に海面が下がった時に大陸からやって来て、2万年前に絶滅するまで、40万年くらい日本にいたようですが、その間4回の氷期と4回の間氷期を過ごしています。マンモスというと氷期の生き物のような印象がありますが、実は温暖な間氷期にもちゃんと生き続けていたんだ、日本の森の中を歩いていたんだなんて話、なかなか興味深いものがあります。
ということで、山ほどの写真や図がたっぷり楽しめる本です。
お勧めします。